カタクリ色の恋噺

 新太がマネージャーをつけるなら慈がいいと言ってくれたらしく、慈は彼が所属する芸能事務所で働くことになった。新太の世話をすることは変わらないが、新太個人ではなく事務所に雇われる形になるから給料も保証される。決して高い給料ではないが、他の仕事をしなくても生活できるくらいは貰えて、それで充分だった。
 快人に頭を下げて引越しを済ませて、秋頃漸く生活も落ち着いてくる。
 新しい部屋は丈夫な鉄筋コンクリートと室内の清潔さが気に入って借りた。広さは快人に借りていた部屋の半分くらいしかないが、これが相応だったと思う。不満はない。
 小さなテレビを買って、テレビの脇にレアキャラの猫を飾って、時々話しかけるのが日課になっていた。今日は新太のドラマの撮影の日で、早朝から車で現場に送っていかなければならない。だから、一匹で大人しく留守番をしているようにと言ってみたりする。
 お前は馬鹿だと言われたら、その通りだと答えよう。
 快人といた方が幸せだったと言われれば、そうだねと答えるだろう。
 それでも後悔はない。
 あの日何故カタクリ色の着物を着てくれたのか。新太は本当はどこまで慈の気持ちを知っていたのか。それももう聞く気はなかった。彼がどうであろうと、自分は彼の傍で彼を想いながら生きていく。
 不倫はしない。マスコミに見つかって騒がれれば、スポンサーが怒って新太の番組がなくなってしまうから。
 その代わり、いつか新太が慈のためだけに落語を披露してくれる日を楽しみに生きていこう。そのときはまた、カタクリ色の着物を着てくれるといい。
「行ってきます」
 テレビ脇の猫に声を掛けて、慈は今日もどうしようもなく好きな男の傍に向かうのだった。


✽end✽

→あとがき
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