カタクリ色の恋噺

 緊張を誤魔化すようにそんな軽口を叩き合ったあと、ベッドに背中を倒された。
「慈」
 耳朶に唇を寄せて言われて、後ろに彼の張り詰めたものを宛てがわれる。
「……っ」
 一度に半分程押し入られて、思わず身体が強張った。
「辛いか?」
「平気。全部、来て」
 途切れ途切れにねだれば、もう我慢が利かないと言うように全てを収められる。
「……っ」
「息をしろ、慈。悪い。動くぞ」
 忘れかけた呼吸を取り戻すのと同時に、彼が腰を使い始めた。衝撃に震えるしかできずにいた慈も、上手く前を擦ってくれる彼の手に、また快感に包まれていく。
「慈」
 呼ばれて横向けていた顔を向ければ、真上にある彼の顔がうっすらと上気していた。なんでもそつなく熟す医師で、ずっと年上のお兄さんだった彼が、慈の身体に夢中になってくれる。そのことが嬉しくて、慈の身体もまた熱くなる。
「……快人さん、気持ちいい?」
「見て分かるだろ?」
 夢中になりすぎる自分を恥じるように言って、それまでより激しく腰を動かされた。彼がもっと気持ちよくなれるように、慈も彼の背に腕を回してしがみつく。後ろに力を入れるようにして締めつければ、彼が低い声を漏らした。
「慈、悪い。もう我慢できない」
 そう言って腰を打ちつける彼が満足できるように、ずっと彼に縋っていた。
「慈」
 呼ぶ声にぞくりとする色気を感じて、慈の中心も限界まで張り詰める。
「慈。もうダメだ。いく……っ」
 切羽詰まった声を聞くと同時に、下腹部に熱いものを感じた。ほぼ同時に慈も吐き出して、震える身体のまままた彼の腕にしがみつく。
「好きだ、慈。ずっと一緒にいてほしい」
 事が済んでも、快人はずっと好きだと言ってくれた。しばらく中にいて、漸く慈の中から出ていったあとも、身体を寄せて髪や肌を撫でてくれる。
「指輪を買おうか」
 息も落ち着いた頃、そんなことを言われた。
「指輪?」
「そう。ペアリングを買って、二人でつけよう?」
 頬を撫でて言う彼の顔がどうしようもなく幸せそうで、慈は困ってしまう。
「仕事柄、つけられないでしょう?」
「二人でいるときにつければいいだろ? 前も言ったけど、俺は慈に何か買ってやりたくて仕方ないんだよ」
「快人さん」
「愛している、慈。他にどう言葉にしていいか分からないくらい」
 もったいない言葉に泣きそうになって、胸の中にある言葉の代わりに慈は彼の身体を抱きしめる。
「嬉しいけど、また欲しくなってしまうから、あまり刺激しないでくれ」
「いいよ。今夜は何度でもしていい」
「慈」
 キスに応えれば、言葉が冗談などではないというように、快人がまた覆い被さってくる。
 今夜は何度でも抱かれたいと思った。抱かれて幸せな眠りに就いて、明日は昼まで目が覚めなければいい。もう一度彼の身体を受け止めながら、そう願っていた。



 目覚めたのは三時五十分で、時計を見てしまったことを後悔した。
 快人はまだ幸せそうに眠っている。自分ももう一度眠れば、このまま快人と生きていける。だがどうしても気になって、そうせずにはいられなかった。
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