明日会えない恋人

 腕を引いて彼の背に誘導されて、漸く彼の身体を抱きしめた。途端にもう離れたくなくなって、子どものように力を籠めてしまう。
「謙」
 互いの身体に触れながら、何度もキスをした。これほど幸せなことはないと思うのに、そのうち身体が昂って、その先が欲しくなってしまう。また首元に唇で触れられて、そのうち首筋にキスが下りてきた。唇で噛むようにされて、初めての刺激に身体を震わせてしまう。
「痕、つけたい」
「ダメ。仕事に行かないといけないから」
 慌てて身体をばたつかせれば、逆にそれを楽しむように彼が唇を押し当ててくる。そのうち彼の指先が貢本の肌を下りて、戯れのように身体の中心に触れられた。
「あ……」
 キスで高められた身体は驚くほど敏感で、思わず高い声が零れてしまう。
「色っぽいな」
「そんなこと……」
「ずっと、謙とまたこうしたいと思っていた。謙を思いながら一人でしていたのは俺の方だ」
 そんなことを告げられて、どうしていいか分からなくなる。
「ん……」
 そのうち互いのものを絡めるように擦り上げられた。どちらのものか分からない先走りで、痛みも違和感もなく、快楽を求めて腰を揺すってしまう。初めは彼の動きに少しずつ応えていたが、そのうち堪らなくなって、有村の腕を掴んで更に強い刺激を求めて身体を密着させてしまう。
「謙」
「あの、兄さん、待って」
 このままでは出てしまう。そう思って止めようとするが、少し息を上げて貢本の身体に触れてくる彼が解放してくれる様子はない。
「いきたいならいけよ」
「でも」
「謙がいくとこ見たい」
「や……っ」
 堪らないほど色っぽく言われて、貢本はあっけなく陥落してしまった。有村の腹部を汚してしまって慌てて起き上がろうとするのを、落ち着いたままの彼に制される。
「初めて見た。あのときはまだ子どもの身体だったからな」
 手早く処理をしてくれた彼に言われて、どうしようもなく恥ずかしかった。子どもに向けるような目を向けられれば、長く持ち続けてきた想いが一度に湧き上がって、胸に痛みに似た感覚が走る。だが視線を少し動かせば、そこでまだ果てていない彼のものが存在を主張していて、感傷に浸っている場合ではないと知ってしまう。
「入っていいか?」
「え、っと」
「まだ今日はそこまでしたくないか?」
 聞かれて首を振る。正直有村とのそれを想像したこともあった。ずっと、彼に求められたいと思ってきた。断る理由はない。
「……兄さんの、好きにしてほしい」
 なんとかそう伝えると同時に、頬にキスが降りてきた。
「もう、兄さんはやめるか。名前でいい」
「母さんの前でボロを出しそう」
「じゃあ、そのときに打ち明けることにしよう」
 なんでもないことのように言われて、また困ってしまう。彼に恋をした自分は、真沙子を苦しめるだろう。そんな堂々巡りの思考に襲われてしまう。
「謙」
 気持ちの逸れた貢本を咎めるように、真上から視線を合わせられる。
「俺を信じろ。何も心配はいらない」
現実から目を逸らすことは、とても楽なことだったと知った。これから先、有村の傍にいるために、苦しい現実に触れる日が来るかもしれない。それでも、今はこのまま抱かれていたい。
 肌を触れ合わせて体温が上がっていく。胸に唇で触れられ、小さく身体が跳ねたところで、有村の指が窄まりに触れてきた。先程吐き出したものの力を借りて、有村がそこに入る準備を進める。
「ん……」
 初めは入り口付近を解していた指が、貢本の反応を探るように中に進んでくる。過去に利害が一致した人間と寝たことがあって、決して初めてではなかった。だが数年ぶりで、それも相手はずっと想い続けてきた有村で、何も知らない子どものように身体が強張ってしまう。そんな貢本の反応を感じたように、彼がじれったいほど丁寧に慣らしていく。すんなりと指が収まり、貢本の身体が馴染んだところで指を増やされる。
「辛いか?」
 聞かれて首を振る。またせり上がってくる快感に流されそうになって、有村の腕を掴む。彼が満足げにキスをくれて、そうされると更に身体が昂ってしまう。一度吐き出した中心がまた力を取り戻していく。
「あの、兄さん、もう……」
「紘一朗だろ?」
 突かれる前に達してしまいそうで、請えばからかうように言われた。
「えっと」
「呼んでみろよ」
「ん……」
 手早く準備を済ませた彼に、逆に耳朶に唇を寄せてねだられてしまう。
「ほら。欲しくないのか?」
 貢本の後ろに押し当てるようされれば、彼の張り詰めているものを感じて、欲しくなる。彼にもこの身体でよくなってほしい。
「……紘一朗さん」
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