炎暑の国の至高の医師
弱くて不規則だった鼓動が、力強いしっかりとしたものに戻っていった。身体を包むカシンの力が消えても、ザンヤの鼓動は消えない。医師だから分かる。治すことができた。完治した。彼の身体は四度目の治療を受け入れてくれた。
「ザンヤ様、よかった」
まだ意識が戻らない彼の身体を抱いて、一人涙を流す。彼が作った首飾りがカシンを護ってくれた。ザンヤの身体は治療に耐えてくれた。自分は至高の医師だ。やってきたことは間違っていない。酷い失恋とシュクヤの死の日から、ずっと抱えてきた苦しみが漸く浄化される。
「……カシン」
あまりにも長くそうしていたから、彼が目を覚ましてしまった。
「俺は助かったんじゃないのか? 何故泣いている?」
「だって」
上手く言葉が出てこなくて、ただはらはらと涙を零していれば、焦れたように彼が正面から抱き寄せてくる。
「助けてくれたんだな。感謝する」
強く抱きしめられて、カシンもぎゅっと抱き返した。
「お祖母様は自分の命を犠牲にして夫を助けようと思いました。でも私は違う。自分を犠牲になんてしない。ザンヤ様を助けて自分も生きて、二人で幸せになりたいって、そう思ったのです」
素直に告げれば、彼が笑うのが振動で伝わってくる。
「俺が好きか?」
「はい。きっと」
「きっとは余計だ」
彼がまた笑って、と思ったら身体が浮いていた。カシンを簡単に抱き上げて、治療中は使うことを忘れていたベッドの上に下ろしてしまう。
「悪いな。完治して気が昂っている」
「ザンヤ様?」
覆い被さってくる彼に、両手首を掴まれる。
「身体がよくなったら、どうしても叶えたい望みがあった」
「……なんでしょう?」
「カシンを抱くこと」
直球にも程があった。だが彼の目は真摯で、その視線を受けたカシンは何も言えずに頬を染めることしかできない。
「病み上がりですし」
「カシンの能力で完治したんだ。もう病み上がりも何もない」
「でも」
指を絡めてぎゅっと力を籠められて、反論の言葉を失う。
「好きだ。初めて会ったときからずっと」
まっすぐな言葉に陥落した。ここ半年抱えてきた暗くて重い気持ちが、一度に散っていく。カシンも好きだ。弟思いで誰よりも思慮深い彼が、本音を曝け出してくれるような、そんな存在になりたいと思う。
「幸せにする。だから俺のものになってくれ」
彼の顔が近づいて、目を閉じたところで唇が触れた。啄むようにされて思わず開けた唇から彼の舌が侵入して、カシンのものに触れてくる。探るように動いていたものが、やがてカシンの舌を探し当てて、溶けるように深く絡み合っていく。
「怪我をしそうだからな」
カシンを蕩けさせるような長いキスのあと、彼がフロントレットを外してくれた。そうされれば、カシンは医師からただの恋人になる。医師のときには強くあらなければならないけれど、今は弱くてもいい。恋人が護ってくれると、そう感じられる喜びに浸ってしまう。
そのうちカラシリスを全て解かれて、素肌を彼の前に晒すことになった。流石に恥ずかしくて顔を逸らせば、その首筋に彼が唇を寄せてくる。
「白いな」
「別に、普通です」
「いや、極上の白肌だ。この国の人間には珍しいくらいに」
肌を隅から隅まで眺めて撫でられて、それだけでどうにかなってしまいそうに感じていた。彼の手が気持ちよくて、撫でられた部分から溶けてしまいそうだ。ザンヤも生まれつきの褐色の肌ではないが、よく日に焼けた健康的な肌色をしている。その魅力的な男に求められている事実に、またトクトクと鼓動を速めてしまう。
「あ……っ」
存分に肌を撫でた彼の手が、カシンの身体の中心に触れてきた。
「待って」
「無理だな」
カシンが止めるのも聞かずに、指を上下させて煽っていく。
「本音は、死ぬ前に一度でいいからカシンを抱きたいと思っていたんだ。でも、そんなことをすれば残されたカシンが辛くなるのが分かっていたからな」
その通りだ。一度だけ抱かれて彼が亡くなってしまえば、カシンは立ち直れなかっただろう。助かったというのに、彼が亡くなる未来を思えば胸が痛む。
「そんな顔をするな。俺は生きている」
諭されて、意識が現実に戻ってきた。意識と同時に感度も戻ってきて、身を捩って悶えてしまう。こちらの身体の反応を本人よりも知っている彼が、煽るように指を滑らせていく。
「感じやすい身体だ。そんなのを見せられれば、俺も我慢できなくなる」
彼もまた身につけていたものを全て取り去った。カシンとは違う生きもののように逞しい身体に見惚れてしまう。だが視界の端を掠めた彼の身体に、困って目を逸らしてしまう。
「なんだ、その初心な反応は。俺が初めて襲いかけた晩、男相手は初めてじゃないって宣言したじゃないか」
「あれは、ザンヤ様の暴挙を止めるためで」
「ザンヤ様、よかった」
まだ意識が戻らない彼の身体を抱いて、一人涙を流す。彼が作った首飾りがカシンを護ってくれた。ザンヤの身体は治療に耐えてくれた。自分は至高の医師だ。やってきたことは間違っていない。酷い失恋とシュクヤの死の日から、ずっと抱えてきた苦しみが漸く浄化される。
「……カシン」
あまりにも長くそうしていたから、彼が目を覚ましてしまった。
「俺は助かったんじゃないのか? 何故泣いている?」
「だって」
上手く言葉が出てこなくて、ただはらはらと涙を零していれば、焦れたように彼が正面から抱き寄せてくる。
「助けてくれたんだな。感謝する」
強く抱きしめられて、カシンもぎゅっと抱き返した。
「お祖母様は自分の命を犠牲にして夫を助けようと思いました。でも私は違う。自分を犠牲になんてしない。ザンヤ様を助けて自分も生きて、二人で幸せになりたいって、そう思ったのです」
素直に告げれば、彼が笑うのが振動で伝わってくる。
「俺が好きか?」
「はい。きっと」
「きっとは余計だ」
彼がまた笑って、と思ったら身体が浮いていた。カシンを簡単に抱き上げて、治療中は使うことを忘れていたベッドの上に下ろしてしまう。
「悪いな。完治して気が昂っている」
「ザンヤ様?」
覆い被さってくる彼に、両手首を掴まれる。
「身体がよくなったら、どうしても叶えたい望みがあった」
「……なんでしょう?」
「カシンを抱くこと」
直球にも程があった。だが彼の目は真摯で、その視線を受けたカシンは何も言えずに頬を染めることしかできない。
「病み上がりですし」
「カシンの能力で完治したんだ。もう病み上がりも何もない」
「でも」
指を絡めてぎゅっと力を籠められて、反論の言葉を失う。
「好きだ。初めて会ったときからずっと」
まっすぐな言葉に陥落した。ここ半年抱えてきた暗くて重い気持ちが、一度に散っていく。カシンも好きだ。弟思いで誰よりも思慮深い彼が、本音を曝け出してくれるような、そんな存在になりたいと思う。
「幸せにする。だから俺のものになってくれ」
彼の顔が近づいて、目を閉じたところで唇が触れた。啄むようにされて思わず開けた唇から彼の舌が侵入して、カシンのものに触れてくる。探るように動いていたものが、やがてカシンの舌を探し当てて、溶けるように深く絡み合っていく。
「怪我をしそうだからな」
カシンを蕩けさせるような長いキスのあと、彼がフロントレットを外してくれた。そうされれば、カシンは医師からただの恋人になる。医師のときには強くあらなければならないけれど、今は弱くてもいい。恋人が護ってくれると、そう感じられる喜びに浸ってしまう。
そのうちカラシリスを全て解かれて、素肌を彼の前に晒すことになった。流石に恥ずかしくて顔を逸らせば、その首筋に彼が唇を寄せてくる。
「白いな」
「別に、普通です」
「いや、極上の白肌だ。この国の人間には珍しいくらいに」
肌を隅から隅まで眺めて撫でられて、それだけでどうにかなってしまいそうに感じていた。彼の手が気持ちよくて、撫でられた部分から溶けてしまいそうだ。ザンヤも生まれつきの褐色の肌ではないが、よく日に焼けた健康的な肌色をしている。その魅力的な男に求められている事実に、またトクトクと鼓動を速めてしまう。
「あ……っ」
存分に肌を撫でた彼の手が、カシンの身体の中心に触れてきた。
「待って」
「無理だな」
カシンが止めるのも聞かずに、指を上下させて煽っていく。
「本音は、死ぬ前に一度でいいからカシンを抱きたいと思っていたんだ。でも、そんなことをすれば残されたカシンが辛くなるのが分かっていたからな」
その通りだ。一度だけ抱かれて彼が亡くなってしまえば、カシンは立ち直れなかっただろう。助かったというのに、彼が亡くなる未来を思えば胸が痛む。
「そんな顔をするな。俺は生きている」
諭されて、意識が現実に戻ってきた。意識と同時に感度も戻ってきて、身を捩って悶えてしまう。こちらの身体の反応を本人よりも知っている彼が、煽るように指を滑らせていく。
「感じやすい身体だ。そんなのを見せられれば、俺も我慢できなくなる」
彼もまた身につけていたものを全て取り去った。カシンとは違う生きもののように逞しい身体に見惚れてしまう。だが視界の端を掠めた彼の身体に、困って目を逸らしてしまう。
「なんだ、その初心な反応は。俺が初めて襲いかけた晩、男相手は初めてじゃないって宣言したじゃないか」
「あれは、ザンヤ様の暴挙を止めるためで」