炎暑の国の至高の医師
言いながら指先に力を籠めて、そっと寝衣を開けた彼の胸に触れてやった。大量ではないから、身体の中から抜けたものを散らしてやれる。途端にギョクトの呼吸が落ち着いて、顔つきも穏やかになる。
「あとは安静にしていれば問題ありません。王妃様が傍にいて、王様はこの子に近づく使用人やメイドをもう一度精査してください」
だいぶ失礼な言い方になってしまったが、子どものためには仕方なかった。毒を盛られたのはこの子に恨みがあるからではない。王に対しての恨みか、策略があるものの仕業なのだ。
「私はこれで失礼します。飛行能力者を呼んでいただけますか?」
「待ってくれ」
一度ギョクトの髪を撫でてから窓に向かうカシンを、ビャクゲツの声が引き止める。
「部屋を用意しよう。望む生活と報酬を好きなだけ与えるから、しばらくここにいてもらえないだろうか」
「私はただの医師です。城に滞在するような身分でも職業でもない」
必死の形相に、ただならぬ事情があるのだと知った。だがカシンは本当に医師の能力以外は何も持たない人間で、ついでに今はいつ疼いて爆発するか分からないものを胸に抱えているのだ。とても役に立てるとは思えない。
「仕事をしてくれとは言わない。ただギョクトの傍にいてくれるだけでいい」
それだけこの子が危険なのだと、ベッドの彼を見て思った。城のごたごたに首を突っ込む元気はないと分かっていて、気持ちが揺れてしまう。
「ギョクトのことは側近たちが護ってくれる。もちろん、これまでの側近に怪しいところがないかは精査する。ギョクトの遊び相手になってくれればそれでいいのだ。このところ危険を避けるために、ギョクトは城の者以外と誰も会っていない」
相手が大人なら突っぱねて帰ってしまえる。だが五歳の子どものためと言われれば、カシンはどうしようもなく弱かった。どうにかしてやりたいと思ってしまう。
「……お医者さん?」
そこでベッドの彼が目を覚ました。
「そうだ。このカシンがギョクトの身体をよくしてくれたんだ。お礼を言いなさい」
ベッドの傍に戻ったビャクゲツに言われて、小さな王子がありがとうと頭を下げる。
「額のきらきら」
カシンのフロントレットを物珍しげに眺める仕種の可愛らしさに陥落した。この子をまた危険に晒したくない。せめて毒物の犯人が分かるまでいてもいいのではないか。ビャクゲツの後ろで頭を下げるロカ王妃の身体が震えている。関わらない方がいいと本能が告げている。だが、あとで何かあれば後味が悪すぎる。
「分かりました。しばらくお世話になります。ただし、私が帰りたいと言ったときには帰らせてください」
「感謝する」
「お医者さん、いてくれるの?」
「はい。王子の傍にいます」
「やった」
ビャクゲツの眉が下がる人のいい微笑みと、無邪気に喜ぶギョクトの声で、城への滞在が決まったのだった。
「あとは安静にしていれば問題ありません。王妃様が傍にいて、王様はこの子に近づく使用人やメイドをもう一度精査してください」
だいぶ失礼な言い方になってしまったが、子どものためには仕方なかった。毒を盛られたのはこの子に恨みがあるからではない。王に対しての恨みか、策略があるものの仕業なのだ。
「私はこれで失礼します。飛行能力者を呼んでいただけますか?」
「待ってくれ」
一度ギョクトの髪を撫でてから窓に向かうカシンを、ビャクゲツの声が引き止める。
「部屋を用意しよう。望む生活と報酬を好きなだけ与えるから、しばらくここにいてもらえないだろうか」
「私はただの医師です。城に滞在するような身分でも職業でもない」
必死の形相に、ただならぬ事情があるのだと知った。だがカシンは本当に医師の能力以外は何も持たない人間で、ついでに今はいつ疼いて爆発するか分からないものを胸に抱えているのだ。とても役に立てるとは思えない。
「仕事をしてくれとは言わない。ただギョクトの傍にいてくれるだけでいい」
それだけこの子が危険なのだと、ベッドの彼を見て思った。城のごたごたに首を突っ込む元気はないと分かっていて、気持ちが揺れてしまう。
「ギョクトのことは側近たちが護ってくれる。もちろん、これまでの側近に怪しいところがないかは精査する。ギョクトの遊び相手になってくれればそれでいいのだ。このところ危険を避けるために、ギョクトは城の者以外と誰も会っていない」
相手が大人なら突っぱねて帰ってしまえる。だが五歳の子どものためと言われれば、カシンはどうしようもなく弱かった。どうにかしてやりたいと思ってしまう。
「……お医者さん?」
そこでベッドの彼が目を覚ました。
「そうだ。このカシンがギョクトの身体をよくしてくれたんだ。お礼を言いなさい」
ベッドの傍に戻ったビャクゲツに言われて、小さな王子がありがとうと頭を下げる。
「額のきらきら」
カシンのフロントレットを物珍しげに眺める仕種の可愛らしさに陥落した。この子をまた危険に晒したくない。せめて毒物の犯人が分かるまでいてもいいのではないか。ビャクゲツの後ろで頭を下げるロカ王妃の身体が震えている。関わらない方がいいと本能が告げている。だが、あとで何かあれば後味が悪すぎる。
「分かりました。しばらくお世話になります。ただし、私が帰りたいと言ったときには帰らせてください」
「感謝する」
「お医者さん、いてくれるの?」
「はい。王子の傍にいます」
「やった」
ビャクゲツの眉が下がる人のいい微笑みと、無邪気に喜ぶギョクトの声で、城への滞在が決まったのだった。