炎暑の国の至高の医師
ハクメイに言われて頷く間に、ザンヤは意識を落としてしまった。能力の使いすぎだ。仕方がなかったとはいえ、彼の身体には負担が大きすぎる。頬の色が消えていく彼の様子に嫌な想像が湧いて、慌てて払う。そうはさせない。彼を死なせはしない。そう思った途端に思考がクリアになる。
今夜治療をしよう。今の自分なら大丈夫だ。治せる。
なんの心配もなかった。彼を部屋に運んでもらって、ベッドに寝かせてもらう。
「このまま治療をします。約束の日より早いので不安かもしれませんが」
「いえ。カシン様のことは信頼しております」
ありがたい言葉を向けられて、思わずハクメイに頭を下げる。
「私は一度ビャクゲツ様の様子を見に行きます。城の混乱も収めて参りますので、何かあれば呼んでください。カシン様なら心で呼び掛ければ届くでしょうから」
飛行能力とテレパシー能力、それと水の能力。思っていた以上に多才だ。
ハクメイが出ていったあと、一つ息を吐いて眠るザンヤの身体に触れた。衣服の胸元を開けて手を翳せば、すぐに指先に力が集まってくる。高まった力が全身を巡って、これまでつけてきた左腕の傷が消えた。触れるギリギリまで手を近づければ、彼の心臓の状態が手に取るように分かる。教会でカシンが治したときより悪くなっている。だが今の自分なら治せる。三度目の治療はできないから、この二度目の治療で完治させる。強い気持ちで力を放つ。
重症だから、何度か術が跳ね返ることも覚悟していた。だが彼の身体はカシンの術を素直に受け入れてくれる。
驚くほどスムーズに患部は回復していった。術が返ることもなく、カシンが怪我を負うこともない。全ての力が身体に吸い込まれるように彼を治していく。手のひらが力強く脈打つ彼の心臓を感じる。完治のイメージ通りだ。もうどこにも悪いところはない。これほど手を煩わせない患者も珍しい。
「……治った」
完全に治したあと、あまりのあっけなさに思わず零れた。彼が悩んできた月日と、カシンが腕を切りながら過ごした時間はなんだったのだろう。いや、そうまでして続けた修業が、自分でも把握できないほど力を高めていたのだろうか。とにかく彼はよくなった。
「ん……。カシン?」
そこで彼が目を覚ました。
「ザンヤ様、ご気分は如何ですか?」
「……治療してくれたんだな。嘘みたいに体調がいい」
炎を封じるために大きな力を使って、倒れてカシンの治療を受けた。説明しなくても察したらしい彼が、穏やかな声音で返す。表情も彼らしくないほど穏やかで、小さな違和感を覚える。何故だろう。彼の心臓は治っている。不安になる要素などどこにもないのに、嫌な予感がせり上がって、鼓動が速くなっていく。
「これから先、ザンヤ様は制限なく好きなことができます。どこへ行くことだって」
不安を払うために明るい声を上げるが、相変わらず彼は何かを悟ったように穏やかに笑うだけだ。
「ザンヤ様?」
自分では答えが見つからなくて、情けない声を向けてしまえば、そこで腕を引かれた。
「カシン」
カシンを正面から抱いて、耳元に顔を近づけるようにして告げる。
「感謝する。俺の寿命を決めたのがカシンでよかった」
「……寿命?」
胸が壊れてしまいそうなほど暴れ出した。嫌な予感が一つの可能性に向かっていく。
「『至高の三度』だ。俺の寿命は持ってあと三ヵ月」
ザンヤの言葉に、身体中がぼろぼろと崩れていくような感覚に襲われた。
今夜治療をしよう。今の自分なら大丈夫だ。治せる。
なんの心配もなかった。彼を部屋に運んでもらって、ベッドに寝かせてもらう。
「このまま治療をします。約束の日より早いので不安かもしれませんが」
「いえ。カシン様のことは信頼しております」
ありがたい言葉を向けられて、思わずハクメイに頭を下げる。
「私は一度ビャクゲツ様の様子を見に行きます。城の混乱も収めて参りますので、何かあれば呼んでください。カシン様なら心で呼び掛ければ届くでしょうから」
飛行能力とテレパシー能力、それと水の能力。思っていた以上に多才だ。
ハクメイが出ていったあと、一つ息を吐いて眠るザンヤの身体に触れた。衣服の胸元を開けて手を翳せば、すぐに指先に力が集まってくる。高まった力が全身を巡って、これまでつけてきた左腕の傷が消えた。触れるギリギリまで手を近づければ、彼の心臓の状態が手に取るように分かる。教会でカシンが治したときより悪くなっている。だが今の自分なら治せる。三度目の治療はできないから、この二度目の治療で完治させる。強い気持ちで力を放つ。
重症だから、何度か術が跳ね返ることも覚悟していた。だが彼の身体はカシンの術を素直に受け入れてくれる。
驚くほどスムーズに患部は回復していった。術が返ることもなく、カシンが怪我を負うこともない。全ての力が身体に吸い込まれるように彼を治していく。手のひらが力強く脈打つ彼の心臓を感じる。完治のイメージ通りだ。もうどこにも悪いところはない。これほど手を煩わせない患者も珍しい。
「……治った」
完全に治したあと、あまりのあっけなさに思わず零れた。彼が悩んできた月日と、カシンが腕を切りながら過ごした時間はなんだったのだろう。いや、そうまでして続けた修業が、自分でも把握できないほど力を高めていたのだろうか。とにかく彼はよくなった。
「ん……。カシン?」
そこで彼が目を覚ました。
「ザンヤ様、ご気分は如何ですか?」
「……治療してくれたんだな。嘘みたいに体調がいい」
炎を封じるために大きな力を使って、倒れてカシンの治療を受けた。説明しなくても察したらしい彼が、穏やかな声音で返す。表情も彼らしくないほど穏やかで、小さな違和感を覚える。何故だろう。彼の心臓は治っている。不安になる要素などどこにもないのに、嫌な予感がせり上がって、鼓動が速くなっていく。
「これから先、ザンヤ様は制限なく好きなことができます。どこへ行くことだって」
不安を払うために明るい声を上げるが、相変わらず彼は何かを悟ったように穏やかに笑うだけだ。
「ザンヤ様?」
自分では答えが見つからなくて、情けない声を向けてしまえば、そこで腕を引かれた。
「カシン」
カシンを正面から抱いて、耳元に顔を近づけるようにして告げる。
「感謝する。俺の寿命を決めたのがカシンでよかった」
「……寿命?」
胸が壊れてしまいそうなほど暴れ出した。嫌な予感が一つの可能性に向かっていく。
「『至高の三度』だ。俺の寿命は持ってあと三ヵ月」
ザンヤの言葉に、身体中がぼろぼろと崩れていくような感覚に襲われた。