目覚めたら傍にいて

✽第三選択肢✽

 何故、まだ濯ぎのボタンが光っているのだろう。
 出勤前に全自動洗濯機の前で唸ってしまう。
 そもそも今日はいつもより寝坊してしまったのだ。それでも脱水が終わって干してから出ても間に合う計算だったのに、未だに濯いでいるのはどういう訳だ。
 計算ミスをしたのか、それとも今日は洗濯機の機嫌が悪いとか。いや、そんなメルヘンなことを考えている場合ではない。
 社員の勤怠を管理する部署にいる身として、ギリギリの出社は避けたい。だが帰るまで洗濯機に放置すれば、確実に傷む生地がある。
「友聖、どうかしました? もう出る時間だと思うんですけど」
 顔を出した同棲中の恋人にハッと閃く。
 彼は司法試験に合格する頭脳の持ち主なのだ。彼に決めてもらえばいい。
「雅紀、あのね、どうしてか洗濯が終わらなくて。それで、干すところまでやってギリギリに出社するのと、諦めて帰ってから洗い直すのとどっちがいいと思う?」
 聞けば彼が瞬いた。そのまま笑い出してしまう。
「雅紀、何?」
 不満げに言ってみれば、彼が軽く友聖の額を突いてくる。 
「優しい恋人に任せて、なんの心配もなく出社するっていうのはどうですか?」
「……あ、そっか」
 目から鱗の気分だった。今自分は一人で暮らしているのではない。途端に、気づかなかった自分が申し訳なくなる。
「ごめん、雅紀。雅紀のことを忘れていた訳じゃなくて、俺、一人暮らしが長かったから」
「ふふ。僕はそんなことで怒ったりしませんよ。そもそも、今朝の友聖が寝ぼけ気味なのは、昨日僕が遅くまで責め立てたせいですしね」
「う……」
 綺麗な顔で言われてこっちが赤くなってしまう。
「今日は夕飯の支度も僕がやりますから、買い物にも行かなくていいですからね」
「……ありがと」
 律儀に額にキスをくれる彼に見送られて仕事に向かう朝。
 そうか、これが同棲か。
 そう思って、また少し頬を染めるのだった。

✽✽
 旧サイト時代に書いた小ネタです。
 友聖と佐々木は仲よく同棲しています。
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