呪い師は半年後皇后になる。
そう言って湯に案内された。身を清めるために湯を沸かすなど村の民にとっては贅沢だ。だが皇帝の前に出るのだからそうも言っていられない。香の言葉通りに湯を浴びて、綺麗になった肌に薄青の衣を着せられる。
「婚礼衣装です。極秘ですのでそれほど高価なものではありませんが」
香はそう言うが、故郷の村の人間には手の出ないような代物だった。肌触りが滑らかで、いい生地で仕立てられているのが分かる。
「さぁ、髪を結いましょう」
部屋に戻った架夭の髪の水気を除いて、香が器用に髪を編んでくれる。男も女も髪を伸ばすのが当たり前の国。村の民は頭の上や首の後ろで団子にする程度だが、身分の高い女性はきちんと編んでから纏めるのが習わしになっている。木の簪を一つ刺されて、鏡を差し出される。
「私がこれまで皇宮内で見てきたどの女性よりも美しいですよ。陛下が夢中になるのも分かります」
鏡に映るのは半月目に小さな唇の性別不明の人間だ。香の過ぎる誉め言葉に困ってしまう。だが燦汪が少しでも綺麗だと思ってくれればいいと思う。
「お支度は整いましたか? では参りましょうか」
戸の外で待っていてくれた透尽に連れられて、燦汪の私室に向かうことになった。然程遠くない距離を歩く間、不安と期待に胸が騒ぐ。ここに呼んでくれたのは彼だが、もう四年も会っていない。姿を見て幻滅されたらどうしよう。後ろ向きな質ではないのに、ついそんなことを考える。架夭の方は、どんな彼を見ても気持ちを変えることがないと分かっているから。
「燦汪様、架夭様です」
戸が開けられた瞬間、その姿が目に飛び込んでくる。
「久しぶりだな、架夭」
架夭を見て微笑んでくれる。その姿に見惚れてしまった。切れ長の目に意思の強そうな眉。すっと通った鼻筋に薄めの唇。一見表情の読めない恐ろしい男に見えて決してそんなことはない。心を許した者には屈託なく笑う男。整った顔でそうされて、架夭の心は一度に虜になった。皇宮で働く男たちは高い位置で髪を纏めるものだが、皇帝とその親族は自由が許される。一国の主である彼も、高い位置で一つに縛っただけの髪型がよく似合っている。
「四年もかかってすまなかった。お前との約束を忘れたことはなかったのだが」
ありがたい言葉をくれる彼も薄青の婚礼衣装を纏っていることに、心ををきゅっと掴まれた。戯れではない。本当に架夭を妻にしようとしてくれている。
「どうした? この日を待ちわびていたんだ。傍に来い」
手招かれて傍に向かえば、その後ろで透尽が戸を閉めて去っていく。
「大きな婚礼の儀をしてやれないのは悪いが、代わりに明日、俺の親しい人間と顔合わせをしよう」
「光栄です」
臣下たちの間では色々と言われているのかもしれない。婚礼の儀など恐れ多い。彼が気を許す何人かと会わせてもらえれば充分だ。そんな気持ちを読んだように、彼が架夭の身体を抱き寄せてくれる。
「ずっとこの身体に触れたかった。長い道中で疲れているだろうが、明日は休ませるから、今夜は俺に付き合ってくれ」
そう言って首元に唇を寄せられる。四年ぶりの感触に熱くなる身体が恥ずかしいが、そのまま唇を奪われれば、みな些細なことに思えてくる。
「掴まっていろ」
「……っ」
抱き上げられて寝床に降ろされた。床板に薄い布団を敷いて寝る村の民と違って、高さのある大きな寝床の上に高価な絹が掛けられている。絹が乱れるのに頓着もせず、彼が架夭に覆い被さってくる。
「会いたかった、架夭」
衣に手を掛けられて、素直に彼のすることを受け入れようと思った。緊張はあるが、架夭も彼が欲しい。四年の間、彼以外を欲しいと思ったことはなかった。彼が約束を忘れて現れなければ、自分は生涯そんな行為と無縁で生きていくと思っていた。だが今、再会した彼が求めてくれる。
「やはり綺麗な身体だ」
「あ……っ」
肩から肌を晒せば、彼のすらりとした指が胸を撫でる。それだけで高い声を漏らすほど感じていた。身体が熱い。その手の欲は薄い方だと思っていたが、そうではなかった。恋しい男が相手なら、身体はこうも簡単に熱を上げる。
「あの夜が忘れられなかった。何度も夢に見て、夢でお前を抱いていた」
「……皇帝なら夜のお相手は多くいたでしょう?」
「婚礼衣装です。極秘ですのでそれほど高価なものではありませんが」
香はそう言うが、故郷の村の人間には手の出ないような代物だった。肌触りが滑らかで、いい生地で仕立てられているのが分かる。
「さぁ、髪を結いましょう」
部屋に戻った架夭の髪の水気を除いて、香が器用に髪を編んでくれる。男も女も髪を伸ばすのが当たり前の国。村の民は頭の上や首の後ろで団子にする程度だが、身分の高い女性はきちんと編んでから纏めるのが習わしになっている。木の簪を一つ刺されて、鏡を差し出される。
「私がこれまで皇宮内で見てきたどの女性よりも美しいですよ。陛下が夢中になるのも分かります」
鏡に映るのは半月目に小さな唇の性別不明の人間だ。香の過ぎる誉め言葉に困ってしまう。だが燦汪が少しでも綺麗だと思ってくれればいいと思う。
「お支度は整いましたか? では参りましょうか」
戸の外で待っていてくれた透尽に連れられて、燦汪の私室に向かうことになった。然程遠くない距離を歩く間、不安と期待に胸が騒ぐ。ここに呼んでくれたのは彼だが、もう四年も会っていない。姿を見て幻滅されたらどうしよう。後ろ向きな質ではないのに、ついそんなことを考える。架夭の方は、どんな彼を見ても気持ちを変えることがないと分かっているから。
「燦汪様、架夭様です」
戸が開けられた瞬間、その姿が目に飛び込んでくる。
「久しぶりだな、架夭」
架夭を見て微笑んでくれる。その姿に見惚れてしまった。切れ長の目に意思の強そうな眉。すっと通った鼻筋に薄めの唇。一見表情の読めない恐ろしい男に見えて決してそんなことはない。心を許した者には屈託なく笑う男。整った顔でそうされて、架夭の心は一度に虜になった。皇宮で働く男たちは高い位置で髪を纏めるものだが、皇帝とその親族は自由が許される。一国の主である彼も、高い位置で一つに縛っただけの髪型がよく似合っている。
「四年もかかってすまなかった。お前との約束を忘れたことはなかったのだが」
ありがたい言葉をくれる彼も薄青の婚礼衣装を纏っていることに、心ををきゅっと掴まれた。戯れではない。本当に架夭を妻にしようとしてくれている。
「どうした? この日を待ちわびていたんだ。傍に来い」
手招かれて傍に向かえば、その後ろで透尽が戸を閉めて去っていく。
「大きな婚礼の儀をしてやれないのは悪いが、代わりに明日、俺の親しい人間と顔合わせをしよう」
「光栄です」
臣下たちの間では色々と言われているのかもしれない。婚礼の儀など恐れ多い。彼が気を許す何人かと会わせてもらえれば充分だ。そんな気持ちを読んだように、彼が架夭の身体を抱き寄せてくれる。
「ずっとこの身体に触れたかった。長い道中で疲れているだろうが、明日は休ませるから、今夜は俺に付き合ってくれ」
そう言って首元に唇を寄せられる。四年ぶりの感触に熱くなる身体が恥ずかしいが、そのまま唇を奪われれば、みな些細なことに思えてくる。
「掴まっていろ」
「……っ」
抱き上げられて寝床に降ろされた。床板に薄い布団を敷いて寝る村の民と違って、高さのある大きな寝床の上に高価な絹が掛けられている。絹が乱れるのに頓着もせず、彼が架夭に覆い被さってくる。
「会いたかった、架夭」
衣に手を掛けられて、素直に彼のすることを受け入れようと思った。緊張はあるが、架夭も彼が欲しい。四年の間、彼以外を欲しいと思ったことはなかった。彼が約束を忘れて現れなければ、自分は生涯そんな行為と無縁で生きていくと思っていた。だが今、再会した彼が求めてくれる。
「やはり綺麗な身体だ」
「あ……っ」
肩から肌を晒せば、彼のすらりとした指が胸を撫でる。それだけで高い声を漏らすほど感じていた。身体が熱い。その手の欲は薄い方だと思っていたが、そうではなかった。恋しい男が相手なら、身体はこうも簡単に熱を上げる。
「あの夜が忘れられなかった。何度も夢に見て、夢でお前を抱いていた」
「……皇帝なら夜のお相手は多くいたでしょう?」
