呪い師は半年後皇后になる。
「それは頼もしい」
聡い彼を見送ったところで漸く肩から力が抜けた。村にいたときのように感情で物を言えないのが難しいところ。予言師などと嘘を吐くな。こっちは呪い師だ。そう言えれば早かったが、皇帝の妻がそんな言い方をする訳にもいなかい。まぁ、立場のお陰で彼女の身は護れたのだからよかった。緊張を解いて少しだけ姿勢を崩したところに、香が茶を運んでくる。
「お見事でしたよ、架讃様」
「そう言ってもらえると救われる」
「それにしても呪い師だったなんて」
それで態度を変えるつもりはないという、彼女の様子がありがたかった。彼女の前では素の自分でいられる。
「隠していて悪かった。ただでさえ男性だというのに、更に気味悪がられてはいけないと思ったのだ」
「まぁ、私は仕事で人を判断したりしませんよ」
「そうだろうな」
疲れた架夭を癒すためなのか、ついでに菓子を運んできた彼女と談笑する。
「呪いとは、頭の中でするものなのですか?」
「いや、それもできなくはないが、私は鏡を使う」
「鏡?」
香には隠すこともないだろうと、物入れにしまってある鏡を出してみせる。
「この鏡を使って、陽の光の反射で呪うのだ」
「なんだかとても高度な気がします」
素直な感想が微笑ましい。
「あら、でもその鏡」
だがそこで彼女が顎に拳を寄せて考え込んだ。
「どうした?」
「何故でしょう。遠い昔に同じものを見たことがある気がするのです」
「同じもの?」
気になりはするが、思い出せない様子の彼女を悩ませるのもよくない。
「綺麗なものだから、職人が師匠のものを真似て作ることがあるのだろう。きっと似たようなものがいくつもある」
「そうかもしれませんね。あら、そろそろ陛下がお見えになる頃ですね」
「燦汪様が?」
「ええ。架讃様にお渡ししたいものがあるとのことでしたよ」
そういえばこの鏡と似たものを頼んでいた。部下に頼んでくれていいのに運んできてくれるのがありがたい。恐縮もあるが彼に会えるのが素直に嬉しい。香に髪を直してもらい、身形を整えて訪れを待つ。
「怪しげな予言師に襲われそうになったと聞いた。怪我はないか?」
部屋に入るなり厳しい声で聞かれてしまう。
「ええ。相手は女性でしたから。話をして透尽様の部下に連れられて帰っていきました」
部屋の奥に座る彼の向かいに座って、簡単に彼女のことを話してやる。架夭の部屋でも、身分の高い者が壁に近い位置に座ると決まっているのだ。
「駆けつけてやれなくてすまなかった」
「政務を中断するなどとんでもない」
慌てて言えばふと彼の表情が和らぐ。
「なんだか堅苦しいな。こっちに来い」
立ち上がった彼が寝床に手招く。寝床の端に並んで座って、抱き寄せられるまま彼の肩に頭を預ける。礼儀作法は日々学んでいるが、そうされれば気持ちが解れて、ただの年下の妻になってしまう。
「この国の主は程一族でいい。もう皇帝の座を巡る争いに巻き込まれるのは御免だ。国の民の多くは既にみなそう思っている」
髪を撫でながら彼が静かに言う。
「ええ」
首都に関する情報が少ない鎮呪村でもそうだった。
「だから俺たちの結婚を壊そうとしているのは一族に近い人間だろう。一族の末裔か、程一族の名を騙って帝位に就こうとしている者か。どちらにせよ、この間毒を持ってきた豪族なんかは可愛いもので、もっと陰湿なことを企むものがいる」
「燦汪様……」
つい不安げに見上げてしまえば、大丈夫だというように肩に腕を回される。
「お前を敵に渡すようなことはしない。だがなかなか黒幕が掴めないのだ。程一族に近い人間の筈なのに、正体に近づいたと思えば、ふっと消えてしまうようなところがあってな」
厄介な敵だ。
「全部俺の問題だ。俺が悪い噂に惑わされずに皇帝を続けているのが気に入らないのだろう。俺が動じないからお前に仕掛けようとする」
さっきの予言師は皇宮を離れて隠居しろと言った。もしかしたら、それをきっかけに燦汪を皇宮から去らせようといういう魂胆だったのかもしれない。
「俺が傍にいられないときは透尽や腕のいい護衛を傍に置く。黒幕を捕らえるまで恐ろしいと思うが、俺を信じて耐えてくれ」
聡い彼を見送ったところで漸く肩から力が抜けた。村にいたときのように感情で物を言えないのが難しいところ。予言師などと嘘を吐くな。こっちは呪い師だ。そう言えれば早かったが、皇帝の妻がそんな言い方をする訳にもいなかい。まぁ、立場のお陰で彼女の身は護れたのだからよかった。緊張を解いて少しだけ姿勢を崩したところに、香が茶を運んでくる。
「お見事でしたよ、架讃様」
「そう言ってもらえると救われる」
「それにしても呪い師だったなんて」
それで態度を変えるつもりはないという、彼女の様子がありがたかった。彼女の前では素の自分でいられる。
「隠していて悪かった。ただでさえ男性だというのに、更に気味悪がられてはいけないと思ったのだ」
「まぁ、私は仕事で人を判断したりしませんよ」
「そうだろうな」
疲れた架夭を癒すためなのか、ついでに菓子を運んできた彼女と談笑する。
「呪いとは、頭の中でするものなのですか?」
「いや、それもできなくはないが、私は鏡を使う」
「鏡?」
香には隠すこともないだろうと、物入れにしまってある鏡を出してみせる。
「この鏡を使って、陽の光の反射で呪うのだ」
「なんだかとても高度な気がします」
素直な感想が微笑ましい。
「あら、でもその鏡」
だがそこで彼女が顎に拳を寄せて考え込んだ。
「どうした?」
「何故でしょう。遠い昔に同じものを見たことがある気がするのです」
「同じもの?」
気になりはするが、思い出せない様子の彼女を悩ませるのもよくない。
「綺麗なものだから、職人が師匠のものを真似て作ることがあるのだろう。きっと似たようなものがいくつもある」
「そうかもしれませんね。あら、そろそろ陛下がお見えになる頃ですね」
「燦汪様が?」
「ええ。架讃様にお渡ししたいものがあるとのことでしたよ」
そういえばこの鏡と似たものを頼んでいた。部下に頼んでくれていいのに運んできてくれるのがありがたい。恐縮もあるが彼に会えるのが素直に嬉しい。香に髪を直してもらい、身形を整えて訪れを待つ。
「怪しげな予言師に襲われそうになったと聞いた。怪我はないか?」
部屋に入るなり厳しい声で聞かれてしまう。
「ええ。相手は女性でしたから。話をして透尽様の部下に連れられて帰っていきました」
部屋の奥に座る彼の向かいに座って、簡単に彼女のことを話してやる。架夭の部屋でも、身分の高い者が壁に近い位置に座ると決まっているのだ。
「駆けつけてやれなくてすまなかった」
「政務を中断するなどとんでもない」
慌てて言えばふと彼の表情が和らぐ。
「なんだか堅苦しいな。こっちに来い」
立ち上がった彼が寝床に手招く。寝床の端に並んで座って、抱き寄せられるまま彼の肩に頭を預ける。礼儀作法は日々学んでいるが、そうされれば気持ちが解れて、ただの年下の妻になってしまう。
「この国の主は程一族でいい。もう皇帝の座を巡る争いに巻き込まれるのは御免だ。国の民の多くは既にみなそう思っている」
髪を撫でながら彼が静かに言う。
「ええ」
首都に関する情報が少ない鎮呪村でもそうだった。
「だから俺たちの結婚を壊そうとしているのは一族に近い人間だろう。一族の末裔か、程一族の名を騙って帝位に就こうとしている者か。どちらにせよ、この間毒を持ってきた豪族なんかは可愛いもので、もっと陰湿なことを企むものがいる」
「燦汪様……」
つい不安げに見上げてしまえば、大丈夫だというように肩に腕を回される。
「お前を敵に渡すようなことはしない。だがなかなか黒幕が掴めないのだ。程一族に近い人間の筈なのに、正体に近づいたと思えば、ふっと消えてしまうようなところがあってな」
厄介な敵だ。
「全部俺の問題だ。俺が悪い噂に惑わされずに皇帝を続けているのが気に入らないのだろう。俺が動じないからお前に仕掛けようとする」
さっきの予言師は皇宮を離れて隠居しろと言った。もしかしたら、それをきっかけに燦汪を皇宮から去らせようといういう魂胆だったのかもしれない。
「俺が傍にいられないときは透尽や腕のいい護衛を傍に置く。黒幕を捕らえるまで恐ろしいと思うが、俺を信じて耐えてくれ」
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