呪い師は半年後皇后になる。
そう言って架夭の部屋で頭を下げるのは、全身黒衣装を纏った女性だった。然程身分の高くない皇族が礼服で黒を纏うことはあるが、彼女はそうではない。
「私はこの辺りで長く予言師をしております」
その言葉に納得した。なるほど、それらしい格好をしてきたという訳だ。
「過去には皇帝交代も予言して、この国の存続に力を尽くして参りました」
「それは凄い力だ。そんな能力を持った人間が一体私になんの用だ?」
素知らぬフリで聞けば、顔を上げた彼女が強い目で架夭を見つめてくる。
「燦汪様が魔性の女に心惑わされ、最後にはこの国を滅ぼしてしまうと出ているのです。失礼を承知で申し上げます。離縁しろとまでは言いません。どうか皇宮から離れた別邸で隠居を」
随分と酷いことを言うものだと逆に感心してしまった。架夭をどう言い包めるつもりかもう少し聞きたいので、心動かされたフリをする。
「興味深い話だが、口先だけで予言師だと言われてもすぐに信じることはできない。何か証明できるものはないか?」
問えば、その言葉を待っていたというように彼女が口角を上げる。
「私には一つ見えていることがあります」
「なんだ?」
「架讃 様、あなたは女性の格好をしていますが実は男性です。美しい顔立ちで官吏たちは騙せても、私は騙されません」
「それはそれは」
弱い切り札だと、今度は架夭が笑ってしまった。男性であること。そこまでしか調べられなかったということだ。呪い師 であることは燦汪と透尽しか知らない。鎮呪村 まで行けば調べられただろうが、大方、辺鄙な村まで調査に行くのが面倒だったのだろう。人を陥れようとしている割にやることが甘い。
「架讃様?」
「ああ、すまない。私が男性であることは事実だ。よく見抜いた」
言ってやれば彼女が満足げな顔になる。本物は予言が当たったくらいで喜んだりしない。一応予言の力がある者を寄越したのかと思ったが、どうやら芝居ができる女を雇っただけらしい。
「褒美に私も一つ教えてやろう」
泰然と言ってやれば、彼女が訝しげな顔を見せる。
「そなたの二人の子は楽しく暮らしているようだ」
その言葉に彼女の顔から色が消える。
「夫が働けなくなって、彼に二人の子を任せてそなたが働くことにしたのだろう? 手っ取り早く稼いで家族のところに戻るために、怪しげな商売に手を貸すことにした。そうだな?」
僅かに後退った彼女が、何も言えずに架夭を見返す。
「言っておくが、上手い話には危険がつきものだ。私を脅したあと皇宮を出たところでそなたは斬られることになっていた。悪事の露呈に繋がるものは消しておきたいからな」
そこで漸く自身の状況が分かったのか、彼女が細かく震え出す。
「村に帰るまでの護衛をつけてやろう。前金だけで諦めて大人しく帰ることだ。そして二度と危ない仕事には手を出すな。……透尽様」
呼べば傍の部屋で待機していた彼がやってきて跪く。
「私は部下なのですから透尽と呼び捨てていいと言った筈ですよ、架讃様」
「慣れないのですから仕方がありません。それより話は聞いていましたね。腕の立つ者を一人彼女につけてやってください」
「承知いたしました」
彼には朝のうちに今日起こるであろうことを話してあった。
「目の当たりにするのは初めてですが流石ですね」
「もう十七年もやっていますから」
彼とのやりとりを、予言師を演じた彼女が呆然と眺める。
「あなたは一体……」
聞かれたから答えてやる。
「私は呪い師だ。これでも故郷の村では評判だった。ひけらかすことでもないから、ここでは黙っていたが」
「まさか……、本物だなんて」
「そなたがどんな人間を介して指示を受けたのか知らないが、黒幕はその程度の人物だったということだ。未熟な黒幕は利用する人間を大事にしたりしない。それを覚えておくといい」
「さぁ、行くぞ」
透尽が促して彼女が立ち上がる。
「村に戻ったあともしばらくは様子を見守ってあげてください。腹いせに命を奪われることがあっては後味が悪い。子を持つ母親ですから」
「そのつもりです。旅行のつもりで張り切って護衛をする兵がおります。既に希望者の中から選んでおりました」
「私はこの辺りで長く予言師をしております」
その言葉に納得した。なるほど、それらしい格好をしてきたという訳だ。
「過去には皇帝交代も予言して、この国の存続に力を尽くして参りました」
「それは凄い力だ。そんな能力を持った人間が一体私になんの用だ?」
素知らぬフリで聞けば、顔を上げた彼女が強い目で架夭を見つめてくる。
「燦汪様が魔性の女に心惑わされ、最後にはこの国を滅ぼしてしまうと出ているのです。失礼を承知で申し上げます。離縁しろとまでは言いません。どうか皇宮から離れた別邸で隠居を」
随分と酷いことを言うものだと逆に感心してしまった。架夭をどう言い包めるつもりかもう少し聞きたいので、心動かされたフリをする。
「興味深い話だが、口先だけで予言師だと言われてもすぐに信じることはできない。何か証明できるものはないか?」
問えば、その言葉を待っていたというように彼女が口角を上げる。
「私には一つ見えていることがあります」
「なんだ?」
「
「それはそれは」
弱い切り札だと、今度は架夭が笑ってしまった。男性であること。そこまでしか調べられなかったということだ。
「架讃様?」
「ああ、すまない。私が男性であることは事実だ。よく見抜いた」
言ってやれば彼女が満足げな顔になる。本物は予言が当たったくらいで喜んだりしない。一応予言の力がある者を寄越したのかと思ったが、どうやら芝居ができる女を雇っただけらしい。
「褒美に私も一つ教えてやろう」
泰然と言ってやれば、彼女が訝しげな顔を見せる。
「そなたの二人の子は楽しく暮らしているようだ」
その言葉に彼女の顔から色が消える。
「夫が働けなくなって、彼に二人の子を任せてそなたが働くことにしたのだろう? 手っ取り早く稼いで家族のところに戻るために、怪しげな商売に手を貸すことにした。そうだな?」
僅かに後退った彼女が、何も言えずに架夭を見返す。
「言っておくが、上手い話には危険がつきものだ。私を脅したあと皇宮を出たところでそなたは斬られることになっていた。悪事の露呈に繋がるものは消しておきたいからな」
そこで漸く自身の状況が分かったのか、彼女が細かく震え出す。
「村に帰るまでの護衛をつけてやろう。前金だけで諦めて大人しく帰ることだ。そして二度と危ない仕事には手を出すな。……透尽様」
呼べば傍の部屋で待機していた彼がやってきて跪く。
「私は部下なのですから透尽と呼び捨てていいと言った筈ですよ、架讃様」
「慣れないのですから仕方がありません。それより話は聞いていましたね。腕の立つ者を一人彼女につけてやってください」
「承知いたしました」
彼には朝のうちに今日起こるであろうことを話してあった。
「目の当たりにするのは初めてですが流石ですね」
「もう十七年もやっていますから」
彼とのやりとりを、予言師を演じた彼女が呆然と眺める。
「あなたは一体……」
聞かれたから答えてやる。
「私は呪い師だ。これでも故郷の村では評判だった。ひけらかすことでもないから、ここでは黙っていたが」
「まさか……、本物だなんて」
「そなたがどんな人間を介して指示を受けたのか知らないが、黒幕はその程度の人物だったということだ。未熟な黒幕は利用する人間を大事にしたりしない。それを覚えておくといい」
「さぁ、行くぞ」
透尽が促して彼女が立ち上がる。
「村に戻ったあともしばらくは様子を見守ってあげてください。腹いせに命を奪われることがあっては後味が悪い。子を持つ母親ですから」
「そのつもりです。旅行のつもりで張り切って護衛をする兵がおります。既に希望者の中から選んでおりました」
