呪い師は半年後皇后になる。

 彼が腰の動きを速めて、振り落とされないようにその身体に手を伸ばす。自身の快楽に夢中なようで、架夭の熱も解放できるように擦り上げてくれる彼の指先に、堪らなく感じて訳が分からなくなる。
「や……、もう……っ」
 先に放ってしまったのは架夭だった。
「く……っ」
 架夭が達するのを待っていたように、すぐあとで彼も中に放つ。ドクリと熱いものが中に放たれて頬が熱くなった。女性の身体ではないのに彼が夢中になってくれた。そのことに、密かに抱えてきた不安が一つ消えていく。
「大事にするつもりが無茶をさせてしまった。身体は痛まないか?」
「ええ。大丈夫。とても幸せでした」
 本音を返せば彼が額に唇を寄せて、そのまま我慢できなくなったというように唇を奪う。
「お前は身体も言葉も心地いい。どんなことをしても手放したくないと思ってしまう」
「手放さないでください、ずっと」
「ああ。俺の持っている力を全て使って護る」
 睦言を交わすうちにまた恋しくなって素肌を寄せ合う。望むなら何度でも応えるつもりだが、こちらの身体を気遣うように、彼が架夭の身体を衣で覆ってしまう。
「男同士は受ける方の身体の負担が大きい。どうせあと何十年も傍にいるのだから、一晩で無理をさせることはない」
 そんな配慮をくれる男がこの国にどれだけいるだろうか。
「女性よりは丈夫にできている筈ですから、多少は無茶をしてもらっても構わないのですよ?」
「いや、いい。ゆっくり時間をかけて俺の身体を覚えさせていけばいい」
「一体何をするつもりです」
 そんなことを言い合って笑う時間が最中と同じくらい幸せだ。
「それはそうと、俺の訪れ以外に欲しいものはないのか? 皇宮の者の反感を買わないために、側室にしては質素な暮らしをさせているからな。一つくらい金をかけさせてくれ」
 そうは言うが庶民からすれば充分贅沢な暮らしなのだ。だがそこでふと、今朝呪いで見たものを思い出す。
「では一つだけ」
「なんだ?」
 背中に腕を入れて嬉々として聞いてくる彼に、少し申し訳ないと思いながらねだる。
「すぐ壊れてしまうものをねだるのは心苦しいのですが、自分では作れないので燦汪様に頼みます。一つ鏡を作ってほしいのです。高価なものでなくて構いませんが、私が呪いに使うものと同じ形のものを」
「鏡? 容易いことだが、すぐ壊れるとはどういうことだ?」
「それはそのときになったらお教えしましょう」
 眉を下げて言えば、縋ることなく架夭の言葉を受け入れてくれる。
「秘密で更に俺の気持ちを掻き乱すつもりか?」
「ええ。あなたがもっと私を好きになってくれるように」
「それは困った。もう際限なく愛しているからな」
「嬉しい言葉です」
 そんなことを言って身体を寄せ合う夜。これからやってくる困難もたいしたことではない。彼の傍で乗り切ってみせる。そう固く信じることができた。


 架夭が食べさせられようとしたのは数日寝込むような毒だったと、あとから調べた者が教えてくれた。命を奪うものでなかったのは幸いだが、恐ろしいことに変わりはない。燦汪の仕事に口出しはしないから恨まれはしないと思っていたが、どこにどんな思惑があるか分からないということだ。念のため、架夭が食べるものは全て毒見をしてから運ばれることになり、調理場には常に監視の者が置かれることになった。大袈裟で申し訳ないが、架夭が倒れれば燦汪の治政に影響すると言われて強く拒否することもできない。
 とにかく目立たず静かにしていよう。そう、それまでよりひっそり過ごすようになった。質素な麻の衣を纏って、侵入者がやってきても、ぱっと見は皇帝の側室と分からない姿でいる。
 そんな中、その女性がやってきたのは月の半ばを過ぎた頃だった。燦汪が政務で忙しい日を選んだのだろう。毒入りの菓子の日は彼が傍にいたから、今度は架夭が一人でいるときを狙おう。そんな思惑だろうが、元々忙しい彼の手を煩わせるつもりはないから一人で対峙する。
「側室へのご昇進、謹んでお祝い申し上げます」
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