呪い師は半年後皇后になる。
「いや、信じている。若いのに落ち着きすぎるほど落ち着いているからな」
褒められたのか貶されたのか分からない言葉だった。だがどうやら架夭を信頼してくれたらしい。
「何か欲しいものはありませんか? と言っても何もないのですが。そうだ。昼の客に貰った強飯があります。召し上がりますか?」
問えば笑われてしまった。
「俺に与えればお前が食べるものがなくなるだろう?」
「う……」
弱っていても聡い男は困ってしまう。
「また明日の客が何か差し入れてくるでしょうから。さっき言った近くの知り合いというのが呪いの師匠なのですが、彼女は目で見なくても私のことが分かるようで、私が何も食べていないと分かれば食べ物を持ってやってきてくれるのです」
「いい関係だな」
そこは信じてくれたようだが、やはり欲しいとは言わない彼にもどかしさが湧く。何かの導きでこの家にやってきた彼に何もしてやれない。突然やってきた男にそんなことを思う義理はないが、何故か何かしてやりたいと思ってしまうのだから仕方がない。
「飯の代わりに一つ欲しいものがある」
架夭の気持ちが伝わったかのように、彼が身体を起こして言う。
「一度しか言わない。ダメなら聞かなかったことにしてくれ」
「なんでしょう?」
そんな言われ方をすれば気になってしまう。
「お前が欲しい」
「……え?」
一瞬、人間を食べる鬼の話を想像した。だが彼の顔を見ればどうやらそうではない。
「お前の身体が欲しい。ここでお前を抱かせてくれないか」
架夭の理解が追いつかないのを察してか、彼がそんな風に言い直す。そこまで言われれば流石の架夭も間違えようがない。
「暗くて分からないのかもしれませんが、私は男です」
「ああ。分かっている。とても美しい男だ」
それまで弱っていた視線が力を取り戻す。
「俺は訳あって、誰よりも強く生きていかなければならないと言われて育った。そんな中で情欲は判断力を鈍らせる危険なものだと教えられた。せっかく鍛えた武力も知性も、欲に惑えば全て意味を為さなくなると言われて、まともに女を抱いたこともない」
これほどの男がもったいない。そう思わせる美丈夫が架夭の頬に手を伸ばす。触れられて、何故かその手を振り払えなかった。
「使命があったから、それでもいいと思ってきた。だが今夜命を失うかもしれないと思ったとき猛烈に後悔した。誰か一人でも、愛しいと思う者を抱いておけばよかったとな」
「……私は愛しい者ではないでしょう?」
「いや、愛しい。何故だろうな。ここに逃げ込んでお前を一目見たときから、俺のものにしたいと思った」
戯れ言だと分かっていた。だが今架夭を抱きたいと思ってくれているのは本当らしい。それならいいではないかと思う。だって架夭の方がこの美しい男に惹かれている。
「……分かっていれば家に入れませんでした」
「ならば下心を隠してやってきてよかった」
こちらの気持ちを読んだように、それまで自分が寝ていた布団に架夭の身体を押し倒す。
「さっき、俺が簡単に死ぬような男ではないと言ってくれたな。その言葉で力を貰った」
言いながら架夭の衣を解いていく。まともに女を抱いたことはないと言ったが、それならまともでないやり方なら抱いたことがあるのかと、そう嫉妬してしまうほど、彼は手慣れている。架夭の抵抗を難なく封じて、すっかり肌を晒してしまう。
「綺麗な身体だ」
「こんな暗いところで分かる筈がありません」
蠟燭は貴重だから、普段は窓から入る月明かりで夜を過ごしている。
「俺は夜目が利くんだ。どこもかしこも綺麗な身体がよく見える」
それは想定外に抱くことになった架夭への甘言なのかもしれない。それでもよかった。耳元で低い声が囁けば身体は昂っていく。そのうち彼も全てを晒して、互いに一糸纏わぬ姿で肌を合わせた。ただ身体を寄せ合い、擦り合わせるだけの時間がこうも甘美に思えるのは何故だろう。初めての怖さも羞恥も消えて、ただ彼に身を任せたい。いつ敵がやってくるかも知れない。その恐怖さえ二人を昂らせる。
「中に入りたい」
そう言われて、断ろうとは思わなかった。この身体を好きにしてほしい。彼のもので貫いてほしい。架夭の身体が彼を受け入れたくて疼いている。
「お望みのままに」
褒められたのか貶されたのか分からない言葉だった。だがどうやら架夭を信頼してくれたらしい。
「何か欲しいものはありませんか? と言っても何もないのですが。そうだ。昼の客に貰った強飯があります。召し上がりますか?」
問えば笑われてしまった。
「俺に与えればお前が食べるものがなくなるだろう?」
「う……」
弱っていても聡い男は困ってしまう。
「また明日の客が何か差し入れてくるでしょうから。さっき言った近くの知り合いというのが呪いの師匠なのですが、彼女は目で見なくても私のことが分かるようで、私が何も食べていないと分かれば食べ物を持ってやってきてくれるのです」
「いい関係だな」
そこは信じてくれたようだが、やはり欲しいとは言わない彼にもどかしさが湧く。何かの導きでこの家にやってきた彼に何もしてやれない。突然やってきた男にそんなことを思う義理はないが、何故か何かしてやりたいと思ってしまうのだから仕方がない。
「飯の代わりに一つ欲しいものがある」
架夭の気持ちが伝わったかのように、彼が身体を起こして言う。
「一度しか言わない。ダメなら聞かなかったことにしてくれ」
「なんでしょう?」
そんな言われ方をすれば気になってしまう。
「お前が欲しい」
「……え?」
一瞬、人間を食べる鬼の話を想像した。だが彼の顔を見ればどうやらそうではない。
「お前の身体が欲しい。ここでお前を抱かせてくれないか」
架夭の理解が追いつかないのを察してか、彼がそんな風に言い直す。そこまで言われれば流石の架夭も間違えようがない。
「暗くて分からないのかもしれませんが、私は男です」
「ああ。分かっている。とても美しい男だ」
それまで弱っていた視線が力を取り戻す。
「俺は訳あって、誰よりも強く生きていかなければならないと言われて育った。そんな中で情欲は判断力を鈍らせる危険なものだと教えられた。せっかく鍛えた武力も知性も、欲に惑えば全て意味を為さなくなると言われて、まともに女を抱いたこともない」
これほどの男がもったいない。そう思わせる美丈夫が架夭の頬に手を伸ばす。触れられて、何故かその手を振り払えなかった。
「使命があったから、それでもいいと思ってきた。だが今夜命を失うかもしれないと思ったとき猛烈に後悔した。誰か一人でも、愛しいと思う者を抱いておけばよかったとな」
「……私は愛しい者ではないでしょう?」
「いや、愛しい。何故だろうな。ここに逃げ込んでお前を一目見たときから、俺のものにしたいと思った」
戯れ言だと分かっていた。だが今架夭を抱きたいと思ってくれているのは本当らしい。それならいいではないかと思う。だって架夭の方がこの美しい男に惹かれている。
「……分かっていれば家に入れませんでした」
「ならば下心を隠してやってきてよかった」
こちらの気持ちを読んだように、それまで自分が寝ていた布団に架夭の身体を押し倒す。
「さっき、俺が簡単に死ぬような男ではないと言ってくれたな。その言葉で力を貰った」
言いながら架夭の衣を解いていく。まともに女を抱いたことはないと言ったが、それならまともでないやり方なら抱いたことがあるのかと、そう嫉妬してしまうほど、彼は手慣れている。架夭の抵抗を難なく封じて、すっかり肌を晒してしまう。
「綺麗な身体だ」
「こんな暗いところで分かる筈がありません」
蠟燭は貴重だから、普段は窓から入る月明かりで夜を過ごしている。
「俺は夜目が利くんだ。どこもかしこも綺麗な身体がよく見える」
それは想定外に抱くことになった架夭への甘言なのかもしれない。それでもよかった。耳元で低い声が囁けば身体は昂っていく。そのうち彼も全てを晒して、互いに一糸纏わぬ姿で肌を合わせた。ただ身体を寄せ合い、擦り合わせるだけの時間がこうも甘美に思えるのは何故だろう。初めての怖さも羞恥も消えて、ただ彼に身を任せたい。いつ敵がやってくるかも知れない。その恐怖さえ二人を昂らせる。
「中に入りたい」
そう言われて、断ろうとは思わなかった。この身体を好きにしてほしい。彼のもので貫いてほしい。架夭の身体が彼を受け入れたくて疼いている。
「お望みのままに」
