シリアルラブ
随分と上から目線になってしまったのは怖かったからだ。適応力のある彼とはいえ、流石に付き合い切れないのではないか。それで去られたなら諦めもつく。そう病院のベッドの上で考えた。
「俺はお前と別れ話をしてから、多分、二つ別の世界に行って戻ってきた」
自分がここに戻るまでに体験した世界を打ち明けようと思う。
「別の世界?」
彼が怪訝そうな顔になるのも無理はない。だがやめたりしない。貢の移動で、別の世界にいた海原にも迷惑をかけてしまった。それを隠して恋人をやるのはとても難しいから。
「保育園時代に、意地悪な保育士から逃れた話をしただろ? あれと同じことをした。あの台風の日、いっそお前と真中くんが初めから恋人の世界に行きたいって願ったんだ」
「そんな……」
口を挟みかけたものの、彼は黙って聞いてくれる。
「二人が恋人と分かっていれば辛くないと思った。でもそんなことはなくて、辛いものは辛かった」
恥を忍んで全て話した。その世界で真中が事故に遭ったと聞いて、もう一度世界を飛んだ。海原が貢も真中も好きにならない世界に行きたいと言ったら、次の世界では海原に妻がいた。それを告げれば彼が驚きに瞬く。
「妻ですか?」
「ああ。それも妊娠中でな」
結果的に海原が悪者のようになる展開で気が咎めたが、嫌われるのを覚悟で話してしまう。
「……なるほど。妻がいても、俺は宝木さんを好きになったという訳ですね」
「どこまで本気だったかは分からないけど」
「本気ですよ」
その世界の彼とは別人の筈の彼に言い切られる。
「納得しない人生を生きていたって仕方ないでしょう? そこでも俺は宝木さんが好きだったんです」
「俺は自分が苦しみたくないという理由だけで、海原さんにも真中くんにも奥さんにも酷いことをした」
「それが宝木さんのせいだという証拠はないでしょう? 宝木さんが現れようとそうでなかろうと、それが自分たちの選択だったかもしれない。彼らは宝木さんに関係なく、その世界で精一杯生きていた。他人がどうだろうと関係ありません。上手くいくときは上手くいくしダメなときはダメです。その中で、どうしても譲れないことに命を懸ける」
いつのまにか膝の上で手を握られている。
「宝木さんが背負う必要はありません。そもそもその二番目と三番目の世界は夢だったのかもしれませんし」
「だな」
夢で片付けられない火傷をしているし、彼もまるで貢が見てきた世界を知っているかのような言い方をする。だが一度夢で片付けてしまうのもいいと思う。一時的に滞在した世界で関わった人たちのその後は気になるが、だからと言って今の貢にはどうすることもできない。
「ということで、全部聞きましたが気持ちが変わることはありません。恋人になってください」
「頑固だな」
「頑固ではなく一途と言ってください」
彼のことは好きだ。だが随分と勝手なことをした自分が、また彼の傍に戻ってもいいのか。悩む貢の目に何かがふっと光って見える。ピンク色の光を感じて件のチャームだと分かる。リビングの入口に置いたままの鞄に近づいて触れてみれば、全ての葉がくすんでいたクローバーが、何故かうっすらと光って発熱している。
「……」
クローバーが問いかける。もう一度力を貸そうか? 海原と喧嘩をせず、まっさらな恋人でいられる世界に飛ばしてやろうか? そんな言葉に、もう心が動くことはない。
「俺はここにいる。もう他の世界に飛ぼうなんて思わない。苦しいことがあっても、この世界で乗り越えていく」
応えた途端にクローバーが発熱する。手のひらに乗せているのも辛いくらいに熱くなって、そこでパンと弾ける。
「宝木さん!」
異変を感じた海原が駆けてきて、貢の肩を抱き寄せる。
「何かが割れる音がしましたけど」
「ああ。例のチャームが粉々に砕け散ってなくなってしまった」
「じゃあ、もう世界の移動は無理ってことですね」
流石の適応力で、彼がそんな風に言う。
「そうだな」
「後悔しています?」
「俺はお前と別れ話をしてから、多分、二つ別の世界に行って戻ってきた」
自分がここに戻るまでに体験した世界を打ち明けようと思う。
「別の世界?」
彼が怪訝そうな顔になるのも無理はない。だがやめたりしない。貢の移動で、別の世界にいた海原にも迷惑をかけてしまった。それを隠して恋人をやるのはとても難しいから。
「保育園時代に、意地悪な保育士から逃れた話をしただろ? あれと同じことをした。あの台風の日、いっそお前と真中くんが初めから恋人の世界に行きたいって願ったんだ」
「そんな……」
口を挟みかけたものの、彼は黙って聞いてくれる。
「二人が恋人と分かっていれば辛くないと思った。でもそんなことはなくて、辛いものは辛かった」
恥を忍んで全て話した。その世界で真中が事故に遭ったと聞いて、もう一度世界を飛んだ。海原が貢も真中も好きにならない世界に行きたいと言ったら、次の世界では海原に妻がいた。それを告げれば彼が驚きに瞬く。
「妻ですか?」
「ああ。それも妊娠中でな」
結果的に海原が悪者のようになる展開で気が咎めたが、嫌われるのを覚悟で話してしまう。
「……なるほど。妻がいても、俺は宝木さんを好きになったという訳ですね」
「どこまで本気だったかは分からないけど」
「本気ですよ」
その世界の彼とは別人の筈の彼に言い切られる。
「納得しない人生を生きていたって仕方ないでしょう? そこでも俺は宝木さんが好きだったんです」
「俺は自分が苦しみたくないという理由だけで、海原さんにも真中くんにも奥さんにも酷いことをした」
「それが宝木さんのせいだという証拠はないでしょう? 宝木さんが現れようとそうでなかろうと、それが自分たちの選択だったかもしれない。彼らは宝木さんに関係なく、その世界で精一杯生きていた。他人がどうだろうと関係ありません。上手くいくときは上手くいくしダメなときはダメです。その中で、どうしても譲れないことに命を懸ける」
いつのまにか膝の上で手を握られている。
「宝木さんが背負う必要はありません。そもそもその二番目と三番目の世界は夢だったのかもしれませんし」
「だな」
夢で片付けられない火傷をしているし、彼もまるで貢が見てきた世界を知っているかのような言い方をする。だが一度夢で片付けてしまうのもいいと思う。一時的に滞在した世界で関わった人たちのその後は気になるが、だからと言って今の貢にはどうすることもできない。
「ということで、全部聞きましたが気持ちが変わることはありません。恋人になってください」
「頑固だな」
「頑固ではなく一途と言ってください」
彼のことは好きだ。だが随分と勝手なことをした自分が、また彼の傍に戻ってもいいのか。悩む貢の目に何かがふっと光って見える。ピンク色の光を感じて件のチャームだと分かる。リビングの入口に置いたままの鞄に近づいて触れてみれば、全ての葉がくすんでいたクローバーが、何故かうっすらと光って発熱している。
「……」
クローバーが問いかける。もう一度力を貸そうか? 海原と喧嘩をせず、まっさらな恋人でいられる世界に飛ばしてやろうか? そんな言葉に、もう心が動くことはない。
「俺はここにいる。もう他の世界に飛ぼうなんて思わない。苦しいことがあっても、この世界で乗り越えていく」
応えた途端にクローバーが発熱する。手のひらに乗せているのも辛いくらいに熱くなって、そこでパンと弾ける。
「宝木さん!」
異変を感じた海原が駆けてきて、貢の肩を抱き寄せる。
「何かが割れる音がしましたけど」
「ああ。例のチャームが粉々に砕け散ってなくなってしまった」
「じゃあ、もう世界の移動は無理ってことですね」
流石の適応力で、彼がそんな風に言う。
「そうだな」
「後悔しています?」