シリアルラブ
なんだかんだで二週間も入院してしまい、三連休スタートの土曜に漸く退院できることになった。土日も仕事が当たり前の人たちだから両親は来ない。それも彼ららしくていい。という訳で一人荷物を抱えてタクシーで帰ろうと思ったのに、どこからか退院の話を聞きつけて海原が迎えに来てしまう。バラしたのは母親だろう。自分は来ないくせに友人に任せようとするのが彼女だ。だが言葉通り入院費はきっちり支払われていて、普通の病室のワンランクもツーランクも上の部屋で過ごさせてもらったのだから文句は言えない。文句は言えないが、海原には申し訳ないから謝っておく。
「悪い。休日出勤のない土曜に俺の世話をさせて」
「何を言っているんですか。寧ろ何故俺に知らせてくれなかったのかって話ですよ。お母様に強引に聞き出したんですから」
いつの間にそんなことになっていたのかと思う。だが母親は嫌いと思う人間にはどこまでも容赦ないタイプだから、海原は合格だったということだ。あの母親と上手くやれるとは、改めて彼の対人スキルに感心する。
「身体は動くし、一人でも大丈夫だと思って」
「部屋はそのままなんでしょう? 俺、掃除とかしますよ」
「いや、そこまで甘える訳には……」
だが家まで送ってくれた人間をそのまま返すのも失礼だ。入院したこともなければ友人もいたことがないから、こんなときどうすればいいか分からない。困るうちに家まで来てしまって、一応普通そうなことを言ってみる。
「上がっていって。もてなしはできないけど」
「もてなしなんて。でも荷物を運びますから、遠慮なく部屋に行かせてもらいますね」
さっぱりと言って、入院グッズが入った大きなバッグを運んでくれる。
「それ重いだろ。俺のなんだから俺が運ぶ」
「怪我人が何を言っているんですか」
貢の言葉は一蹴されて、途中のコンビニで買った食料以外は彼が持ってくれる。
「初めてですね、宝木さんの部屋に来るの」
七階の部屋に向かうエレベーターで言われて、つい考えてしまう。どの世界の彼も貢の部屋に来たことはないから初めてだ。
「どの世界の彼も、か」
もう、それを考えるのはきっぱりやめた方がいいのだろうか。
「宝木さん?」
「ああ、悪い」
考えながら部屋の前まで来ていて、慌てて鍵を取り出す。
「うわ、流石に暑いな」
入院中放っておいた部屋はサウナ状態になっていた。エアコンを入れる前にベランダの窓を開けて換気する。
「でも二週間放っておいた割には綺麗ですね。掃除も行き届いている」
「そういえば台風が来て湿度が高くなる前に掃除しようと思って、無駄に掃除をしていたな。あれ、予感みたいなものだったのか」
あのとき、海原と真中の仲を考えてしまう自分が苦しくて、残業終わりだというのに何かせずにはいられなかった。そんな事情もこの入院に繋がっていたのだろうか。
「大怪我の予感なんて今回が最後にしてくださいよ」
「俺もそうしたいけど、こういうのは分からないから」
話しながらキッチンスペースに向かう。料理を一切しないからキッチンは綺麗なままだ。ゴミも捨てたばかりでタイミングがよかった。怪我をしておいてタイミングがいいは違うかもしれないが。色々あったから、誰かと普通に雑談している自分を不思議に思う。おかしな体験をしたが、それで少し成長する部分もあったのかもしれない。
部屋の二か所の窓を開ければ、七月の風が通り抜けていった。空気が軽くなったところで窓を閉めてエアコンを入れる。
「パンとお茶くらいだけど、食べながら寛いで。お礼は改めて飯でも行こう」
貢なりに考えて言ったつもりなのに、何故か相手は不満げに眉を下げる。
「こんなとき恋人にはお礼はいらないんですよ」
その感覚は貢にはまだよく分からない。それに。
「今は恋人じゃないだろ」
あの台風の日に別れ話をしたのだ。
「俺は別れたつもりはないし、宝木さんがそのつもりでも、もう一度恋人になってほしいと言った筈です。いい機会ですから、ここで返事を聞かせてください」
「いい機会って」
「仕事に復帰したら、また忙しくなってそれどころじゃなくなりそうですから」
確かにそうだ。実はそんな未来も想像していたが、彼はそれで許してくれるような男ではない。
「とりあえず座って」
リビングのソファーに促して、烏龍茶のペットボトルを出してやる。いつかの世界で彼と話したみたいなL字型のソファーではないから、少し距離を取って貢も隣に座る。
「これから俺が話すことを聞いて、それでも好きだというなら恋人に戻ってやる」
「悪い。休日出勤のない土曜に俺の世話をさせて」
「何を言っているんですか。寧ろ何故俺に知らせてくれなかったのかって話ですよ。お母様に強引に聞き出したんですから」
いつの間にそんなことになっていたのかと思う。だが母親は嫌いと思う人間にはどこまでも容赦ないタイプだから、海原は合格だったということだ。あの母親と上手くやれるとは、改めて彼の対人スキルに感心する。
「身体は動くし、一人でも大丈夫だと思って」
「部屋はそのままなんでしょう? 俺、掃除とかしますよ」
「いや、そこまで甘える訳には……」
だが家まで送ってくれた人間をそのまま返すのも失礼だ。入院したこともなければ友人もいたことがないから、こんなときどうすればいいか分からない。困るうちに家まで来てしまって、一応普通そうなことを言ってみる。
「上がっていって。もてなしはできないけど」
「もてなしなんて。でも荷物を運びますから、遠慮なく部屋に行かせてもらいますね」
さっぱりと言って、入院グッズが入った大きなバッグを運んでくれる。
「それ重いだろ。俺のなんだから俺が運ぶ」
「怪我人が何を言っているんですか」
貢の言葉は一蹴されて、途中のコンビニで買った食料以外は彼が持ってくれる。
「初めてですね、宝木さんの部屋に来るの」
七階の部屋に向かうエレベーターで言われて、つい考えてしまう。どの世界の彼も貢の部屋に来たことはないから初めてだ。
「どの世界の彼も、か」
もう、それを考えるのはきっぱりやめた方がいいのだろうか。
「宝木さん?」
「ああ、悪い」
考えながら部屋の前まで来ていて、慌てて鍵を取り出す。
「うわ、流石に暑いな」
入院中放っておいた部屋はサウナ状態になっていた。エアコンを入れる前にベランダの窓を開けて換気する。
「でも二週間放っておいた割には綺麗ですね。掃除も行き届いている」
「そういえば台風が来て湿度が高くなる前に掃除しようと思って、無駄に掃除をしていたな。あれ、予感みたいなものだったのか」
あのとき、海原と真中の仲を考えてしまう自分が苦しくて、残業終わりだというのに何かせずにはいられなかった。そんな事情もこの入院に繋がっていたのだろうか。
「大怪我の予感なんて今回が最後にしてくださいよ」
「俺もそうしたいけど、こういうのは分からないから」
話しながらキッチンスペースに向かう。料理を一切しないからキッチンは綺麗なままだ。ゴミも捨てたばかりでタイミングがよかった。怪我をしておいてタイミングがいいは違うかもしれないが。色々あったから、誰かと普通に雑談している自分を不思議に思う。おかしな体験をしたが、それで少し成長する部分もあったのかもしれない。
部屋の二か所の窓を開ければ、七月の風が通り抜けていった。空気が軽くなったところで窓を閉めてエアコンを入れる。
「パンとお茶くらいだけど、食べながら寛いで。お礼は改めて飯でも行こう」
貢なりに考えて言ったつもりなのに、何故か相手は不満げに眉を下げる。
「こんなとき恋人にはお礼はいらないんですよ」
その感覚は貢にはまだよく分からない。それに。
「今は恋人じゃないだろ」
あの台風の日に別れ話をしたのだ。
「俺は別れたつもりはないし、宝木さんがそのつもりでも、もう一度恋人になってほしいと言った筈です。いい機会ですから、ここで返事を聞かせてください」
「いい機会って」
「仕事に復帰したら、また忙しくなってそれどころじゃなくなりそうですから」
確かにそうだ。実はそんな未来も想像していたが、彼はそれで許してくれるような男ではない。
「とりあえず座って」
リビングのソファーに促して、烏龍茶のペットボトルを出してやる。いつかの世界で彼と話したみたいなL字型のソファーではないから、少し距離を取って貢も隣に座る。
「これから俺が話すことを聞いて、それでも好きだというなら恋人に戻ってやる」