シリアルラブ
ああ、そうだ。残業中の妙なテンションで、出勤してこなければ部屋で倒れているという話になったのだ。無断欠勤のときは俺が部屋を見に行きますと言われて、押し切られたフリをして住所を告げた。海原のとき部屋に行くのは自分ではないから、彼の住所は聞かない。けれど前の世界の記憶で彼の住む場所なら知っている。この世界に慣れていけば、以前の記憶は消えるのだろうか。
「とにかく、これから寝るから来るな。土日はもうスマホに触らないから連絡もするな」
厳しく言えば彼が折れてくれる。
「お大事に。何かあれば遠慮なく連絡ください」
「また来週」
温度のない声で言って電話を終えた途端に、目を閉じてスマホを握りしめていた。痛みが過ぎ去るのを待つように、立ったまま気持ちを落ち着かせる。
これが前の世界だったら。何故海原と真中が恋人の世界でこんなことが起きるのだろう。この世界を選んだのは自分だと分かっていて、苦しさに押し潰されそうになる。
「何が無感情だ」
自分にこんな一面があるなんて知らなかった。彼らが恋人なら割り切って接することができると思ったのに、苦しくて仕方ない。自分の選択を後悔しかけている。
「寝よう」
眠気が強く出る風邪薬だ。薬で寝てしまおう。目覚めたところで、この世界を受け入れよう。祈るような気持ちで目を閉じる。
土日中横になって凌いだ筈の風邪は、今回は一晩で治ってしまった。怠さの消えた身体で起き上がってキッチンに向かう。喉の痛みも引いたから、昨夜買ったパウチのゼリーを啜る。ゼリーだけでは足りない。コンビニに買いに出るか。着替えて財布代わりのスマホを手に玄関に向かう。
「ん?」
ドアレバーがいつもより重い気がした。ゆっくりとドアを開ければガサゴソと音がする。
「……!」
外に出たところで外側のドアレバーに掛かるビニール袋に気づいた。袋一杯の食料品。誰が置いていったかなんて考えるまでもない。
「いつのまに……」
風邪薬で熟睡していた。もしかしたらインターホンの代わりにドアを叩くくらいはしただろうか。目覚めなかった自分を悔やむ。だがすぐに、それでよかったと思い直す。どのみち彼を家に入れる訳にはいかなかった。
『差し入れです。お大事に。想太』
入っていたメモに、発熱よりずっと苦しくなった。恋人だったとき、想太と呼んだことはなかった。一度くらい呼べばよかった。苦しむだけだと分かっていて、神様は何故人に後悔なんて機能をつけたのだろう。そんな、考えても仕方ないことを思う。
部屋に戻って広げれば、バランスバーや飲み物がぎっしり入っていた。貢が気づかない可能性も考えて、傷まないものを選んだのだろう。気遣いが彼らしい。
お礼のラインを打とうとして、すぐに手が止まった。土日は寝ると言った。だから、気づいたのは日曜の夕方だったということにしよう。お礼を送るのはそれからだ。早く送れば送るほど苦しくなるのが分かっているから。
「どうしてこの世界でこんな……」
一つ叶えば一つ崩れるパラレルワールドの歯がゆさに、ただじっと耐えるしかなかった。
「とにかく、これから寝るから来るな。土日はもうスマホに触らないから連絡もするな」
厳しく言えば彼が折れてくれる。
「お大事に。何かあれば遠慮なく連絡ください」
「また来週」
温度のない声で言って電話を終えた途端に、目を閉じてスマホを握りしめていた。痛みが過ぎ去るのを待つように、立ったまま気持ちを落ち着かせる。
これが前の世界だったら。何故海原と真中が恋人の世界でこんなことが起きるのだろう。この世界を選んだのは自分だと分かっていて、苦しさに押し潰されそうになる。
「何が無感情だ」
自分にこんな一面があるなんて知らなかった。彼らが恋人なら割り切って接することができると思ったのに、苦しくて仕方ない。自分の選択を後悔しかけている。
「寝よう」
眠気が強く出る風邪薬だ。薬で寝てしまおう。目覚めたところで、この世界を受け入れよう。祈るような気持ちで目を閉じる。
土日中横になって凌いだ筈の風邪は、今回は一晩で治ってしまった。怠さの消えた身体で起き上がってキッチンに向かう。喉の痛みも引いたから、昨夜買ったパウチのゼリーを啜る。ゼリーだけでは足りない。コンビニに買いに出るか。着替えて財布代わりのスマホを手に玄関に向かう。
「ん?」
ドアレバーがいつもより重い気がした。ゆっくりとドアを開ければガサゴソと音がする。
「……!」
外に出たところで外側のドアレバーに掛かるビニール袋に気づいた。袋一杯の食料品。誰が置いていったかなんて考えるまでもない。
「いつのまに……」
風邪薬で熟睡していた。もしかしたらインターホンの代わりにドアを叩くくらいはしただろうか。目覚めなかった自分を悔やむ。だがすぐに、それでよかったと思い直す。どのみち彼を家に入れる訳にはいかなかった。
『差し入れです。お大事に。想太』
入っていたメモに、発熱よりずっと苦しくなった。恋人だったとき、想太と呼んだことはなかった。一度くらい呼べばよかった。苦しむだけだと分かっていて、神様は何故人に後悔なんて機能をつけたのだろう。そんな、考えても仕方ないことを思う。
部屋に戻って広げれば、バランスバーや飲み物がぎっしり入っていた。貢が気づかない可能性も考えて、傷まないものを選んだのだろう。気遣いが彼らしい。
お礼のラインを打とうとして、すぐに手が止まった。土日は寝ると言った。だから、気づいたのは日曜の夕方だったということにしよう。お礼を送るのはそれからだ。早く送れば送るほど苦しくなるのが分かっているから。
「どうしてこの世界でこんな……」
一つ叶えば一つ崩れるパラレルワールドの歯がゆさに、ただじっと耐えるしかなかった。