シリアルラブ

「反義語? シングル? 違うな。なんだろ」
 ずっと縛られてきたのに、その反義語を考えたことはなかった。
「シンプル? それも違うな。降参。なんだ?」
「降参早いですって」
「おい」
 咎めるように、また額に唇を寄せられる。これじゃ、本当に恋人同士みたいだ。いや、恋人同士でいいのだが、初心者はなかなか慣れない。
「シリアルが正解だそうですよ」
「ああ、なるほど」
 言われてみれば、コンピューター用語にパラレル通信、シリアル通信というものがある。貢はシス管の社員として入社しているが、専門に学んできた訳ではない。だが銀行のグループ会社のSEだった海原は、本格的に勉強をしているのかもしれない。だからこそ出てきた言葉。
「沢山の世界が存在するパラレルワールドも興味深いですけど、俺は宝木さんと出会えて恋人になったこの世界を進んでいきたい」
「……そうだな」
 パラレルワールドに縁のある貢と反義語を知っていた彼。二人がこうしていることが奇跡に思えた。そんな柄じゃない。だが貢が今まで誰にも言えずにいたことも、海原がシリアルという言葉を教えてくれたことに繋がっているようで、胸に来るものがある。棚橋の暴挙も、海原の死を思うほどの激務も、みな今日この瞬間に集約される。
「シリアルの方の恋人になりましょうね。この世界でずっと二人でいる」
「お前次第じゃないか?」
「そこは感動して頷くところじゃないですか?」
「悪いな、こういう性格なんだ」
「うーん、そんな宝木さんも好きですけど、でもやっぱり、うんと言ってもらわないと」
 言って覆い被さってくる。
「おい」
「夢中にさせて、うんと言わせてみせます」
「なんだそれ」
 呆れたように言いながら、内心彼の方から仕掛けてくれてよかったと思った。擦り上げて吐き出すだけでは足りない気分になっていたから。
「大事にしてくれ。そうしないと容赦なく去る」
 酷い奴を演じてみるのは、先に嫌な部分を見せて、それでも嫌われないと知っておきたいから。どうやら思った以上にこの男に参っている。
「俺から離れられなくしてやります」
 返る言葉に満足して、あとは何も言えないほど夢中で求め合った時間。陽が落ちて視覚で相手が分からなくなるまで、飽きずに抱き合っていた。
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