シリアルラブ

「お望みならムード全開でいきますよ。……好きです、宝木さん」
「……っ」
 耳元で言うのは反則だ。
「ふふ。耳弱いですね。こういうの、されたことないですか?」
「だな。一夜の相手なんて、繋がって出して終わり……」
「だから!」
 さっきより強く両肩を掴まれる。
「恋人の前でそんな話しないでくださいよ。過去のこととはいえ妬きます」
「ああ、悪い。お前のように一度でなんでも習得できないんだ」
「仕事は一度で覚えるくせに」
「仕事に嫉妬か?」
「そうですよ」
 相変わらず、分かりやすくて清々しい男だ。言葉の裏を読むなんて高度なスキルを持ち合わせていない貢にはありがたい。
「分かるまで何度も言ってあげます。俺は嫉妬深い男ですから。気をつけないと家に帰してあげませんよ」
「それは怖いな」
「でしょう? 宝木さんを思いながら一人で何度もしていました。その本人がいるんですから、逃したくないでしょう?」
「凄い暴露」
「初めに恥を晒しておいた方が楽ですから。さて、全部脱ぎましょうか」
 戯れに身体を寄せて、彼が貢の衣服を剥がしにかかる。何故か腰から下を先に晒されて、あとからシャツを引き抜かれる。Tシャツも脱ぎ去ったところで、彼が一度動きを止めた。
「あの、これ」
 見慣れた貢にはなんてことなくても、慣れない者には酷く映るらしい腕の火傷。
「気持ち悪いか?」
「まさか!」
 全力で否定したあと、彼がそっとその部分を撫でる。
「痛くないですか?」
「全く。抓ってもいいぞ」
「そんなことする訳ないでしょう?」
 言って、代わりにそこに唇を落とす。
「俺は好きになった相手は大事にします」
「ん……」
「傷つけることは絶対にしない」
 さわさわと皮膚に触れる唇も、聞いたことのないような甘い言葉も、貢の胸を擽った。小さく突いた火が威力を増すように身体が熱くなる。激務で忘れたフリをしていた欲に、一度に襲われる。
「大事にしろ。長く傍にいてやるから」
「……っ」
 途端に耐え切れなくなったように肌を押し当てられた。互いに一糸纏わぬ姿で体温を感じ合う。抱きしめ合って身体の凹凸を感じるうちに、自然と中心が絡み合った。一度意識すればそこに熱が集まって、堪らない気分で強く抱きしめ合う。
「マズい。気持ちよすぎておかしくなりそう」
「俺も」
「このまま擦っていい? 宝木さんイくとこ見たい」
 頷けば絶妙な力加減で擦り上げられた。どちらのものか分からない体液で滑らかに上下する。時々手を使って弄られて、貢の方がおかしくなりそうだった。
「おい……、お前もよくならないと」
 手首を掴んで反撃しようとするのを難なく躱される。
「俺はすぐにでも出てしまいそうなほどいいですよ。ちょっと間違えば興奮しすぎて乱暴してしまいそうなほど」
 言いながら、彼の腰の動きが速くなる。
「すみません……、このまま一度出します」
「……、俺も……っ」
 押しつけられるように擦り上げられて、マズいと思ったときには放っていた。達する直前、強く抱きしめてくれた彼も、貢の肌の上で放つ。
「これくらいで我慢できなくなるって、ヤバいですね。もっと焦らすつもりだったのに」
「……焦らされなくてよかったよ」
「やっぱり一人でするのとは別物」
「だろうな。お前もしばらく恋人はいなかったのか?」
「激務と転職で死にそうでしたから。二年以上はいないかな」
 その答えに安堵した。貢が久しぶりの相手。実は貢が浮気相手なんて、おかしな状況でもなさそうだ。ちょっとした不安と嫉妬。恋人になった途端にそんな気持ちになるのが擽ったい。どうやら自分もちゃんと人間だったらしい。
「一応言っておきますけど、やるのが目的ではありませんし、一度やって気が変わったりもしません」
「……お前、ほんとに物言いがストレートだな」
「ええ。なんせ命の危機を味わいましたから。死ぬかもしれないと思うと、的確で一番簡潔な言葉を選ぶようになるんですよ。誤解されたら死にますし」
「お前は死なない」
 らしくもなく彼の頭を抱き寄せてやる。
「逆井保険のシス管もブラックと言えばブラックだけど、死ぬほどじゃない。お前が死にそうになったら、俺がお前の分も仕事をして寝かせてやるから心配するな」
「……やばい。キュンときた」
 若者らしい口調、と思うと同時に額にキスが降りてくる。引っついたまま隣に横になって、肩から腕を入れられた。腕枕というやつ。初めてで気恥ずかしいが悪くない。
「宝木さん、パラレルの反義語って知っていますか?」
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