シリアルラブ
「まさか、舌で感じた味をレシピなしで作ったとか言わないよな?」
「え、そうですけど? 料理の基礎はできるんですから、そう難しいことでもないでしょう?」
いや、難しいだろう。料理をしない貢には信じられない。どうやらこの男は味覚まで飛び抜けているらしい。
「さ、食べましょ? 飲み物沢山ありがとうございます。あ、デザートもある」
「労力といい材料費といい、お前の方が大変だろ。いくらか出す」
「そんな哀しいこと言わないでくださいよ。俺も残業で稼ぎまくっているんですから」
「哀しいのか?」
よく分からないが頑として譲らないから諦める。
「あ、旨い。あの店と同じ味」
遠慮なく食べ始めれば、素人が作ったとは思えない味にまた驚かされる。
「おいしいですけど、やっぱりプロには敵いませんね。なんだろう? 日本で売っていない香辛料でも入っていたのかな」
「そうか? 俺には分からないけど」
寧ろ微妙にこっちの方が好みだ。米の種類や店の雰囲気もあるだろうが、彼が作ってくれたという事実が大きい。らしくない感情だから、白状するつもりはないけれど。
「ゆっくりしようって話だったのに、料理をさせて悪いな」
ああでもないこうでもないと言いながら食事を楽しんで、綺麗に食べ終えたところで言った。
「いえ。宝木さんのために料理をしてみたかったし、一時間もかかっていませんから」
さらりと言われて、どちらから突っ込むか迷ってしまう。こんな手の込んだ料理が一時間だと? いや、違う。そっちじゃない。激務にかまけて知らん顔をしてきたが、一度ちゃんと聞いておかなければならないと分かっているのだ。
「あのさ」
片付けくらいやると言ったのを制して、食器を食洗器に入れてしまった彼の背中に切り出す。
「なんです? あ、これいただきますね」
ペットボトルを手にした彼がテーブルに戻る。どこまでも感じのいい彼の様子に、このまま流されるのも一つの選択かという思いが過る。が、やはりそれは貢の矜持に反する。重いと思われようと言葉で確認しておきたい。
「俺を恋人にしたいと言ったのは本心か? ついでにそれは言葉通りの意味でいいのか?」
「本心ですよ。逆に恋人にしたい、に他にどんな意味があるんですか?」
あっさりしすぎて困ってしまう。
「俺は恋人がいたことがないからどうすればいいか分からない」
困りすぎて、この際全て白状して、彼に決めてもらおうと思った。自棄みたいなものだが、彼ならそう悪いことにはならないだろう。
「ということは、今恋人がいないということですよね。じゃあ、決まりでいいじゃないですか。嬉しいな。俺が初彼」
「いや、待てって」
またあっさり言われて慌てる。
「なぁ、職場での俺を見ているだろ? 不愛想で友達もいない。部長に平気で失礼な態度を取る。そんな奴が恋人でいいのか?」
イケメンは男でも女でも選び放題だろう? と、そんな思いを籠めて聞く。
「そんな奴って、俺は宝木さんを不愛想だと思ったことはありませんよ。他部署の人とテキパキと話をしていて尊敬します。部長相手なら、俺の方が酷い態度を取っていますし。というか、あの人は酷い態度を取られて当然の事情がありますし」
全て返されて球がなくなる。
「宝木さんは俺をどう思います? 見た目でも性格でも」
いつのまにかテーブルの上で手を握られていた。今日、彼は単にゆっくり休む目的で家に呼んでくれたのかもしれない。それなのに貢がスイッチを入れてしまった。多分、スイッチを切るのはかなり難しい。とにかく聞かれたことには答える。
「見た目は極上だと思う。性格も。だからもっと相応しい相手を選べばいいのにって思う」
「俺は宝木さんがいいんです」
「理由は?」
聞けば彼が悪戯っぽく目を細める。
「前職がブラックだったことは言いましたね。だから仕事ができる人間が好きなんです。前も言いましたけど、俺が部長と言い合っている間にシステムを作ってしまったところで惚れました。この人といれば、どんなブラックな仕事でも命は助かりそうだって」
平気なようでいて、前職の後遺症と闘っているのかもしれないと思った。自分でも気づかないところで思考が支配されている。貢が救ってやれるなら傍にいたい。珍しくそんな気持ちになってしまう。
「もちろん、頼りっぱなしになったりしません。俺も宝木さんを護りますから」
その言葉に、乗ってみるのもいいかと思えた。一つ年下だが、彼は本当に貢を護ってくれる。同じ職場で付き合って、別れたら大変なことになると、そんな理屈も今はいいかと思える。
「どうです? 激務の癒しになれると思いますけど、付き合ってみませんか?」
「え、そうですけど? 料理の基礎はできるんですから、そう難しいことでもないでしょう?」
いや、難しいだろう。料理をしない貢には信じられない。どうやらこの男は味覚まで飛び抜けているらしい。
「さ、食べましょ? 飲み物沢山ありがとうございます。あ、デザートもある」
「労力といい材料費といい、お前の方が大変だろ。いくらか出す」
「そんな哀しいこと言わないでくださいよ。俺も残業で稼ぎまくっているんですから」
「哀しいのか?」
よく分からないが頑として譲らないから諦める。
「あ、旨い。あの店と同じ味」
遠慮なく食べ始めれば、素人が作ったとは思えない味にまた驚かされる。
「おいしいですけど、やっぱりプロには敵いませんね。なんだろう? 日本で売っていない香辛料でも入っていたのかな」
「そうか? 俺には分からないけど」
寧ろ微妙にこっちの方が好みだ。米の種類や店の雰囲気もあるだろうが、彼が作ってくれたという事実が大きい。らしくない感情だから、白状するつもりはないけれど。
「ゆっくりしようって話だったのに、料理をさせて悪いな」
ああでもないこうでもないと言いながら食事を楽しんで、綺麗に食べ終えたところで言った。
「いえ。宝木さんのために料理をしてみたかったし、一時間もかかっていませんから」
さらりと言われて、どちらから突っ込むか迷ってしまう。こんな手の込んだ料理が一時間だと? いや、違う。そっちじゃない。激務にかまけて知らん顔をしてきたが、一度ちゃんと聞いておかなければならないと分かっているのだ。
「あのさ」
片付けくらいやると言ったのを制して、食器を食洗器に入れてしまった彼の背中に切り出す。
「なんです? あ、これいただきますね」
ペットボトルを手にした彼がテーブルに戻る。どこまでも感じのいい彼の様子に、このまま流されるのも一つの選択かという思いが過る。が、やはりそれは貢の矜持に反する。重いと思われようと言葉で確認しておきたい。
「俺を恋人にしたいと言ったのは本心か? ついでにそれは言葉通りの意味でいいのか?」
「本心ですよ。逆に恋人にしたい、に他にどんな意味があるんですか?」
あっさりしすぎて困ってしまう。
「俺は恋人がいたことがないからどうすればいいか分からない」
困りすぎて、この際全て白状して、彼に決めてもらおうと思った。自棄みたいなものだが、彼ならそう悪いことにはならないだろう。
「ということは、今恋人がいないということですよね。じゃあ、決まりでいいじゃないですか。嬉しいな。俺が初彼」
「いや、待てって」
またあっさり言われて慌てる。
「なぁ、職場での俺を見ているだろ? 不愛想で友達もいない。部長に平気で失礼な態度を取る。そんな奴が恋人でいいのか?」
イケメンは男でも女でも選び放題だろう? と、そんな思いを籠めて聞く。
「そんな奴って、俺は宝木さんを不愛想だと思ったことはありませんよ。他部署の人とテキパキと話をしていて尊敬します。部長相手なら、俺の方が酷い態度を取っていますし。というか、あの人は酷い態度を取られて当然の事情がありますし」
全て返されて球がなくなる。
「宝木さんは俺をどう思います? 見た目でも性格でも」
いつのまにかテーブルの上で手を握られていた。今日、彼は単にゆっくり休む目的で家に呼んでくれたのかもしれない。それなのに貢がスイッチを入れてしまった。多分、スイッチを切るのはかなり難しい。とにかく聞かれたことには答える。
「見た目は極上だと思う。性格も。だからもっと相応しい相手を選べばいいのにって思う」
「俺は宝木さんがいいんです」
「理由は?」
聞けば彼が悪戯っぽく目を細める。
「前職がブラックだったことは言いましたね。だから仕事ができる人間が好きなんです。前も言いましたけど、俺が部長と言い合っている間にシステムを作ってしまったところで惚れました。この人といれば、どんなブラックな仕事でも命は助かりそうだって」
平気なようでいて、前職の後遺症と闘っているのかもしれないと思った。自分でも気づかないところで思考が支配されている。貢が救ってやれるなら傍にいたい。珍しくそんな気持ちになってしまう。
「もちろん、頼りっぱなしになったりしません。俺も宝木さんを護りますから」
その言葉に、乗ってみるのもいいかと思えた。一つ年下だが、彼は本当に貢を護ってくれる。同じ職場で付き合って、別れたら大変なことになると、そんな理屈も今はいいかと思える。
「どうです? 激務の癒しになれると思いますけど、付き合ってみませんか?」