恋愛メンタルマネジメント

 何も悪いことはしていないのに不安に押し潰されそうで、得意の絵日記を書くことすらできなかった。描こうとすればみな泣き顔になってしまう。
 耐え切れず自分から王子に、週末泊まりに行きたいと言った。合鍵があるから勝手に行って待っていればいいのだが、彼が不機嫌になったらと思うと怖かった。幸い彼がいいと言ってくれて、駅で待ち合わせして二人で彼の家に帰ることになる。
「快がねだるなんて珍しいね。何かあった?」
 スーパーに寄って帰る途中に聞かれて、平気なフリで首を振った。何かあったどころではない。旅行が中止になって、奇人にその旅館の写真を見せられた。それとも、王子にとってはなんでもないことなのだろうか。
「元気ないね。身体平気?」
 そう気遣ってくれる王子に大丈夫だと返して、二人で料理をする時間は幸せだった。一人暮らしが長いから、恩田は自分が食べるのに困らない程度に料理ができる。王子は米を炊くことくらいしかできなくて、恩田のなんでもない料理を褒めてくれる。いつもいいものを食べているのに、恩田が作った普通のご飯をおいしいと言ってくれる。このところ浮き沈みが激しかったが、この時間は確かに幸せだ。そう思ったのに現実は容赦ない。
「今日は快が疲れていそうだから」
 そう言って、その夜王子は恩田に手を出してこなかった。それだけでなく、恩田をベッドに残して自分はリビングのソファーで眠るという。正直傷ついた。だが幸い今週は三連休だ。今日がダメでも、明日もう一泊させてくれるだろうか。疲れているように見えるなら、今日ゆっくり眠って明日元気な姿を見せればいい。だが浅い眠りで過ごした翌朝、決定的なものを見てしまう。
 眠れないから起きてしまおうとリビングに出た恩田の前で、狙ったように王子のスマホが震える。ライン着信。王子はソファーで毛布を被って眠っている。その毛布がずり落ちそうで、掛け直してやるために近づく。決してスマホの画面が見たかった訳ではない。だが見えてしまった。『立成統』という差出人が。
 それで全てを悟って、部屋を出ることにした。そのままいれば中身まで読んでしまう。そうすれば自分を嫌ってしまいそうだった。音を立てないように寝室に戻って、着替えて荷物を手に帰っていく。
 起こすのは可哀そうだから、昼頃言い訳のラインをすればいいと思った。だが一人の家に帰ればそれも苦しくなって放棄する。王子から何度もラインが入ったが、みな読まずに放置した。決定的なことを言われるのが怖くて、現実逃避の時間を引き延ばしたいと思う。そのうちラインが電話に切り替わったが、苦しくて電源を落としてしまった。苦しくて何もかも嫌になる。
 三連休だというのに、現実から逃れて眠るだけの時間を過ごす羽目になった。
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