恋愛メンタルマネジメント
月曜に入社した十人のうち、三人が金曜を待たずして辞めてしまった。本人たちのせいではなく、教育担当課の落ち度なのだから落ち込むなというのが無理な話だ。王子は恩田のせいではないと言ってくれるが、教育担当課の主任なのだから恩田のせいだ。
火曜に奇人に叱られた沢田は辞めなかった。だが沢田の話を聞いた他のスタッフが辞めてしまった。情報漏洩ではない些細なことで怒られるのも怖いし、いちいちSNSチェックをされるのも気分が悪い。ごもっともだ。沢田は言い触らそうとした訳ではなく、何があったか問われて一部を答えただけなのだが、それが逆に噂を広げることになった。一度躓けば悪い方へ悪い方へと進んでいく。
沢田が江左に全てを話したことで、教育担当課が責められることはなかった。奇人の暴挙も見ている江左は、「恩田さんは被害者だよ」と言ってくれる。だがやはりコール部門への申し訳なさが募った。導入研修で三人脱落したことで、また十月に新規のメンバーを入れることが決まった。忙しい部署にまた採用の手間をかけることを思えば胃が痛くなる。
そしてそれだけではない。恩田に対する新たな嫌がらせとして、奇人は王子に迫り出した。元々華やかな顔立ちな彼は、服装や髪形を少し変えただけで驚くほど綺麗な男性になる。その姿で人目も憚らず王子に近づいていく。王子は淡々と接してくれているが、奇人の逆上の可能性があるから突き放すことができない。なんだかんだ理由をつけて執務室を出る王子についていく奇人を見るたびに不安が募った。その行動を咎められないために、以前より仕事はきちんとするようになったのが憎らしい。
「立成さんは男性が好きなの?」
王子が好きなの? と聞く代わりにそう聞けば、手応えがあったと喜ぶように口角を上げられた。その顔に、ああ、知らん顔が正解だったと後悔するが、惚れた相手が絡めば恩田も正常な判断を失うのだ。
「男も女も必要に応じて落とすよ。俺が本気になったら成功率は百パーセント」
そんな嫌な台詞を残して去っていく彼に、返す言葉が見つからなかった。熊田とも相談したが、結局沢田の件も厳しく咎められずにいる。SNSは本当に会社の害になると思ったから注意したし、三人辞めたのも最終的には彼らの意思。そんな彼の言い分が完全に間違っているとは言えないからだ。恩田はまだいいが、強引なことをすれば奇人の親戚の役員に睨まれた熊田がマズいことになる。非はなかった筈が、いつのまにか恩田が公私ともに不利な立場に押しやられている。
「……冥賀さんは、綺麗な男性に迫られて揺れる人間じゃないですよね」
眠る前の戯言で誤魔化してしまえるタイミングで聞いた。そんな風にしか聞けない自分が情けないが、言葉がなければ壊れてしまいそうに不安なのだ。
「綺麗な快に迫られたら揺れるよ」
返された軽口に笑う。だが欲しいのはそんな言葉ではない。無言になってしまえば、全部分かっているというように抱きしめられる。
「ごめん。そうじゃないよね。心配しなくても、僕は立成くんとどうにかなったりしないよ。でもきつくあたると彼が何をするか分からないから」
「……分かっています」
「僕は快に夢中だよ。せっかく手に入れたのに目移りなんてしない」
「冥賀さん」
髪を撫でられるだけでは足りなくて、彼の胸に顔を押しつける。
「もう一度」
ねだる自分が信じられない。だが今はそうしたかった。導入研修で二人、三人と辞められるのは初めてではない。そのたびに心を立ち上げて耐えてきた。だが今の自分はどうしようもなく弱い。仕事だけでなく恋まで失ってしまうかもしれない不安が、自分を弱くする。
「僕は歓迎だけど、大丈夫? 身体持ちそう?」
「平気」
「そう。じゃあ、気持ちよく眠れるようにしてあげる」
王子は恩田を昂らせる術をいくつも持っていて、触れられている間は嫌なことを忘れられた。彼もよくしてあげたくて伸ばした手は、手首を掴んで止められる。
「今日はただ気持ちよくなってくれればいいよ。そのまま眠ってもいい」
「でも……」
「快が気持ちよく眠ってくれれば僕も幸せだから」
言葉と一緒に降りてきた唇に素直に目を閉じる。眠るつもりはなかったのに、思ったより疲れていたのか意識が落ちていく。日曜の昼まで一緒にいてくれた彼のお陰で心は回復して、気持ちを新たに週明けの仕事に向かう。
火曜に奇人に叱られた沢田は辞めなかった。だが沢田の話を聞いた他のスタッフが辞めてしまった。情報漏洩ではない些細なことで怒られるのも怖いし、いちいちSNSチェックをされるのも気分が悪い。ごもっともだ。沢田は言い触らそうとした訳ではなく、何があったか問われて一部を答えただけなのだが、それが逆に噂を広げることになった。一度躓けば悪い方へ悪い方へと進んでいく。
沢田が江左に全てを話したことで、教育担当課が責められることはなかった。奇人の暴挙も見ている江左は、「恩田さんは被害者だよ」と言ってくれる。だがやはりコール部門への申し訳なさが募った。導入研修で三人脱落したことで、また十月に新規のメンバーを入れることが決まった。忙しい部署にまた採用の手間をかけることを思えば胃が痛くなる。
そしてそれだけではない。恩田に対する新たな嫌がらせとして、奇人は王子に迫り出した。元々華やかな顔立ちな彼は、服装や髪形を少し変えただけで驚くほど綺麗な男性になる。その姿で人目も憚らず王子に近づいていく。王子は淡々と接してくれているが、奇人の逆上の可能性があるから突き放すことができない。なんだかんだ理由をつけて執務室を出る王子についていく奇人を見るたびに不安が募った。その行動を咎められないために、以前より仕事はきちんとするようになったのが憎らしい。
「立成さんは男性が好きなの?」
王子が好きなの? と聞く代わりにそう聞けば、手応えがあったと喜ぶように口角を上げられた。その顔に、ああ、知らん顔が正解だったと後悔するが、惚れた相手が絡めば恩田も正常な判断を失うのだ。
「男も女も必要に応じて落とすよ。俺が本気になったら成功率は百パーセント」
そんな嫌な台詞を残して去っていく彼に、返す言葉が見つからなかった。熊田とも相談したが、結局沢田の件も厳しく咎められずにいる。SNSは本当に会社の害になると思ったから注意したし、三人辞めたのも最終的には彼らの意思。そんな彼の言い分が完全に間違っているとは言えないからだ。恩田はまだいいが、強引なことをすれば奇人の親戚の役員に睨まれた熊田がマズいことになる。非はなかった筈が、いつのまにか恩田が公私ともに不利な立場に押しやられている。
「……冥賀さんは、綺麗な男性に迫られて揺れる人間じゃないですよね」
眠る前の戯言で誤魔化してしまえるタイミングで聞いた。そんな風にしか聞けない自分が情けないが、言葉がなければ壊れてしまいそうに不安なのだ。
「綺麗な快に迫られたら揺れるよ」
返された軽口に笑う。だが欲しいのはそんな言葉ではない。無言になってしまえば、全部分かっているというように抱きしめられる。
「ごめん。そうじゃないよね。心配しなくても、僕は立成くんとどうにかなったりしないよ。でもきつくあたると彼が何をするか分からないから」
「……分かっています」
「僕は快に夢中だよ。せっかく手に入れたのに目移りなんてしない」
「冥賀さん」
髪を撫でられるだけでは足りなくて、彼の胸に顔を押しつける。
「もう一度」
ねだる自分が信じられない。だが今はそうしたかった。導入研修で二人、三人と辞められるのは初めてではない。そのたびに心を立ち上げて耐えてきた。だが今の自分はどうしようもなく弱い。仕事だけでなく恋まで失ってしまうかもしれない不安が、自分を弱くする。
「僕は歓迎だけど、大丈夫? 身体持ちそう?」
「平気」
「そう。じゃあ、気持ちよく眠れるようにしてあげる」
王子は恩田を昂らせる術をいくつも持っていて、触れられている間は嫌なことを忘れられた。彼もよくしてあげたくて伸ばした手は、手首を掴んで止められる。
「今日はただ気持ちよくなってくれればいいよ。そのまま眠ってもいい」
「でも……」
「快が気持ちよく眠ってくれれば僕も幸せだから」
言葉と一緒に降りてきた唇に素直に目を閉じる。眠るつもりはなかったのに、思ったより疲れていたのか意識が落ちていく。日曜の昼まで一緒にいてくれた彼のお陰で心は回復して、気持ちを新たに週明けの仕事に向かう。