恋愛メンタルマネジメント

「う……」
 逆に聞かれて一番困ることを聞かれてしまった。
「すみません」
「ふふ。どうして謝るの?」
 到着したエレベーターで、スマートに開のボタンを押して先に降りるよう促される。そこで王子のポケットのスマホが震える。
「……っと、ごめん。今日は食堂で一緒にご飯にしたかったんだけど、邪魔が入った」
 画面を見ただけで出ようとはしないまま、エレベーターホールで彼が微笑む。
「今度僕とデートしてくれない?」
「デート?」
 直球すぎて何を言われたか分からなかった。
「恩田さんの二三歳のときの話が聞きたいし、僕も話したいことがあるから」
「えっと、それはあの絵日記がコンプラ違反とかそういう話……」
「まさか」
 王子が本気で面白がるように笑う。
「言葉通りデートだよ。とりあえず一緒にランチをして、その辺りを歩いてみよう。あのアプリのDMに僕の連絡先を送っておくから、デートが嫌じゃなければ恩田さんの連絡先も送って。じゃあ、またね」
 仕事の呼び出しだったらしく、降りたばかりのエレベーターに乗って彼は上の階に戻っていく。
 デート? 連絡先? 彼の言葉がみなありえなくて、狐につままれたような気分だった。ぼんやり食堂に向かって定食を食べ始める頃、漸く胸に嬉しさが広がっていく。
「連絡先の交換……」
 綺麗に揚がったアジフライを眺めながら反芻する。
 嫌な訳がないじゃないか。我に返れば、身体中に血が巡るような感覚に襲われた。王子がデートに誘ってくれた。断る理由などない。思いもよらない幸運だ。
 食事を終えて執務室に戻れば、不機嫌がテンプレートの奇人がパソコンに向かっている。
「ったく、なんで俺がこんな資料作りなんてしないといけないんだ。駒みたいに社員を動かす仕事がしたいのに」
 熊田がまだ戻らないから、条件反射のように恩田に愚痴をぶつけてくるが、そんなものは奇人語だと思って流しておけばいい。なんせ王子とデートなのだ。
「お盆明け、予定通りコール部門に十人入ってくるから忙しくなるよ。あ、資料もちゃんとできているじゃない。流石」
 上機嫌で接してやれば大袈裟に眉を寄せられるが、それも奇人らしくていいと思う。
「元からおかしな男だと思っていたけど、あんた、本気で馬鹿なのか?」
「そうかもしれないね」
 最早、奇人の悪態に落ち込んでいる暇などなかった。
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