恋は乗り越えられない試練を与えない。
「え?」
何を言っているのだと思った。富澤でもそんなことはできなかった。それが何故。
「胸倉を掴んでコンプラ担当に聴取されたとき、奴の悪事を事細かに話してやった。相手は課長だから調査に時間がかかったみたいだけど、育児と言って帰った日にパチスロに行っていた証拠写真を撮って渡したら信じてくれた」
「証拠写真?」
「ああ。三回くらい帰りについていったら、割と簡単に撮れた」
以前の彼からは考えられない行動力だ。
「課長の胸倉を掴んだのもコンプラ担当と個人面談をするためですか? 俺のためにリスクを冒した?」
「俺がムカついたからやっただけだ」
言ってから、ふと彼の眉が上がる。
「いや違うな。いいところを見せれば、昊が戻ってきてくれると思ったから」
彼らしい言葉に込み上げるものがある。自分はなんのためにここにいる? 安井と約束した。内村に思いを告げに来た。
「連絡を無視してごめん。もう嫌になったかもしれないけど、もし許してくれるなら透輝の傍にいたい」
一度に言って見上げれば眉を寄せた不機嫌で、これは許してもらえないパターンかとヒヤリとする。
「凄いな、安井パワーは」
だがそうではない。
「お兄さんから聞いた。安井と会って約束したんだろ? 三者三振を取ったら昊が行くから、それまで気長に待ってやってくれと言われて待っていた」
だから今日昊が現れても驚かなかった。
「俺が何度言っても聞かなかったのに、安井の言葉で動く。俺はこの先一生彼に敵うことはないんだろうな」
「そんな……」
「でも」
彼の口角が少し上がる。今度は単純に嬉しいときの顔。
「彼のお陰で昊が戻ってきてくれた」
言葉と一緒に腕を引かれて抱きしめられた。
「昊が戻ってくるならなんでもいい。俺は一生安井に感謝する」
「うん」
彼の肩に顔を乗せる形になって、顔が見えないから素直に言える。
「透輝、好き」
「漸く言ってくれた」
腕に力を籠められて、ああ、本音の本音はこれを望んでいたのだと気づかされる。彼にごく普通の幸せな人生を与えてやりたいなんて傲慢だ。彼がいることで昊が幸せになる。今はそれでいい。
「昊、体調は?」
「凄くいい」
「そう。じゃあ、色々順番が逆になっちゃうけど」
「……!」
そう言ってソファーから軽々抱き上げられてしまった。
「透輝、何?」
「抱く。限界」
そんな身も蓋もない言い方があるだろうか。それより、力仕事などしないイメージの彼の、意外な腕力に驚いている。片手でドアを開けて、昊を抱いたまま寝室に入っていく。
「色々言いたいことはあるけど、抱いてからにする」
ベッドに降ろされた瞬間宣言されて、彼に伸し掛かられる。
「透輝」
「ごめん。あとにして」
「……っ」
首元にキスが降りて、そのまま唇を奪われた。本気で限界だったらしく、彼にしては珍しく性急に昊の衣服を剥がしに掛かる。
「まさか、俺と別れてからずっとしていないの?」
「人間とはな」
彼らしい答えだ。
「流石に一人ではした。それは許して」
許すも何も、昊に咎める資格はない。
「余計なことを考えないで」
昊と恋人になるまで生身の人間を抱いたことがなかったくせに、すっかり彼主導になっているのがおかしい。
素肌を晒して抱きしめ合う。自分より高めの体温を感じた瞬間、昊も昂ってしまった。考えてみれば、病気が分かってから、この手の欲からは遠ざかっていた。それが彼の肌に触れて一瞬で甦る。
「誰かと練習していたみたい」
ぽつりと本音を零せば大いに機嫌を損ねられてしまった。
「ふーん。そういうこと言うんだ」
「や……っ」
胸の尖りを噛まれて声を上げる。
「前は……、そんなことしなかった」
「ずっとしたいと思っていた」
「……ずっと復縁できると思っていたんですか?」
「うん。昊しかいらないと思っていたから」
何を言っているのだと思った。富澤でもそんなことはできなかった。それが何故。
「胸倉を掴んでコンプラ担当に聴取されたとき、奴の悪事を事細かに話してやった。相手は課長だから調査に時間がかかったみたいだけど、育児と言って帰った日にパチスロに行っていた証拠写真を撮って渡したら信じてくれた」
「証拠写真?」
「ああ。三回くらい帰りについていったら、割と簡単に撮れた」
以前の彼からは考えられない行動力だ。
「課長の胸倉を掴んだのもコンプラ担当と個人面談をするためですか? 俺のためにリスクを冒した?」
「俺がムカついたからやっただけだ」
言ってから、ふと彼の眉が上がる。
「いや違うな。いいところを見せれば、昊が戻ってきてくれると思ったから」
彼らしい言葉に込み上げるものがある。自分はなんのためにここにいる? 安井と約束した。内村に思いを告げに来た。
「連絡を無視してごめん。もう嫌になったかもしれないけど、もし許してくれるなら透輝の傍にいたい」
一度に言って見上げれば眉を寄せた不機嫌で、これは許してもらえないパターンかとヒヤリとする。
「凄いな、安井パワーは」
だがそうではない。
「お兄さんから聞いた。安井と会って約束したんだろ? 三者三振を取ったら昊が行くから、それまで気長に待ってやってくれと言われて待っていた」
だから今日昊が現れても驚かなかった。
「俺が何度言っても聞かなかったのに、安井の言葉で動く。俺はこの先一生彼に敵うことはないんだろうな」
「そんな……」
「でも」
彼の口角が少し上がる。今度は単純に嬉しいときの顔。
「彼のお陰で昊が戻ってきてくれた」
言葉と一緒に腕を引かれて抱きしめられた。
「昊が戻ってくるならなんでもいい。俺は一生安井に感謝する」
「うん」
彼の肩に顔を乗せる形になって、顔が見えないから素直に言える。
「透輝、好き」
「漸く言ってくれた」
腕に力を籠められて、ああ、本音の本音はこれを望んでいたのだと気づかされる。彼にごく普通の幸せな人生を与えてやりたいなんて傲慢だ。彼がいることで昊が幸せになる。今はそれでいい。
「昊、体調は?」
「凄くいい」
「そう。じゃあ、色々順番が逆になっちゃうけど」
「……!」
そう言ってソファーから軽々抱き上げられてしまった。
「透輝、何?」
「抱く。限界」
そんな身も蓋もない言い方があるだろうか。それより、力仕事などしないイメージの彼の、意外な腕力に驚いている。片手でドアを開けて、昊を抱いたまま寝室に入っていく。
「色々言いたいことはあるけど、抱いてからにする」
ベッドに降ろされた瞬間宣言されて、彼に伸し掛かられる。
「透輝」
「ごめん。あとにして」
「……っ」
首元にキスが降りて、そのまま唇を奪われた。本気で限界だったらしく、彼にしては珍しく性急に昊の衣服を剥がしに掛かる。
「まさか、俺と別れてからずっとしていないの?」
「人間とはな」
彼らしい答えだ。
「流石に一人ではした。それは許して」
許すも何も、昊に咎める資格はない。
「余計なことを考えないで」
昊と恋人になるまで生身の人間を抱いたことがなかったくせに、すっかり彼主導になっているのがおかしい。
素肌を晒して抱きしめ合う。自分より高めの体温を感じた瞬間、昊も昂ってしまった。考えてみれば、病気が分かってから、この手の欲からは遠ざかっていた。それが彼の肌に触れて一瞬で甦る。
「誰かと練習していたみたい」
ぽつりと本音を零せば大いに機嫌を損ねられてしまった。
「ふーん。そういうこと言うんだ」
「や……っ」
胸の尖りを噛まれて声を上げる。
「前は……、そんなことしなかった」
「ずっとしたいと思っていた」
「……ずっと復縁できると思っていたんですか?」
「うん。昊しかいらないと思っていたから」