恋は乗り越えられない試練を与えない。
同じではない。内村はずっと綺麗なままだが、昊は醜いものを見せてしまう。その不安をどう伝えたらいいのだろう。三分間隔の電車が本数を落としていく時間だ。それが昊への執着を失っていく内村を見ているようで今は怖い。
「昊」
ぽんぽんと昊の背を叩いて身体を離した彼が、そこで笑った。いつかも見た花が咲くような微笑み。彼の笑顔には周りをフリーズさせる力がある。昊も無事ではいられない。見惚れるうちに手を握られる。
「二週間後の土曜日、Kオリオンズの試合がTドームであることは知っている?」
「いえ……」
突然なんの話だと思った。
「その試合のチケットが取れそうなんだ」
「嘘。まさか」
Kオリオンズは本拠地が遠方だし、Tドームは日本で一番有名なチームの本拠地だ。リーグも違うからKオリオンズがそこで試合をすることは滅多にない。だからチケットはレア中のレア。二週間前に取れる筈がない。昊の反応に気をよくしたように、彼の顔が華やかさを増す。
「正確には、それほど興味がないのにチケットが当たってしまった同僚から譲ってもらえそうなんだ。ずっと交渉していて」
「交渉って、透輝が?」
「そう。俺もやれば仕事以外の交渉もできるって自信になった。それがきっかけで富澤さんの他にも親しい人ができそうだし」
昊と離れてから内村は成長した。自分はどうだろうと思えば胸が痛む。ここで拒否すれば、これからもずっと成長のない人生を送ることになるかもしれない。そんな思いが頭を擡げる。
「まだ交渉が成立した訳じゃないんでしょう?」
「うん。彼が野球好きの友人にプレゼントするかもしれないと言っていて、その友人の返事待ち。でもそのチケットは俺たちのところに来るって予感がある」
「何それ」
頑なだった気持ちが少し和らぐ。
「だから運を天に任せよう。チケットが俺のところに来たら一緒に試合を見に行く。今日はとりあえずその約束をしよう?」
「俺は」
「昊」
ずっと握られたままの手が熱かった。うんと言うまで離してくれない。その強引さに流されてみたいと思う。
「記憶が飛んだ状態でも、今日昊は相手を殴っていない。それは自信を持っていいと思う」
「透輝」
「そんなに苦しまなくていい。俺は昊を嫌わないし、俺が盾になるから」
何故そこまで言ってくれるのだろう。だが胸の中に、信じてみたいという思いが湧く。
「チケットが取れたら連絡する。恋人に戻るかどうかはゆっくり考えればいい。でも野球は行こう。絶対」
昊に手を振ってホームを戻った彼が、タイミングよくやってきた電車に乗って帰っていく。こんな風に昊の駅まで送ってもらうことを、これからも続けていいのだろうか。
相手を殴っていない。それは自信を持っていいこと。胸の中で彼の言葉を繰り返していた。
「昊」
ぽんぽんと昊の背を叩いて身体を離した彼が、そこで笑った。いつかも見た花が咲くような微笑み。彼の笑顔には周りをフリーズさせる力がある。昊も無事ではいられない。見惚れるうちに手を握られる。
「二週間後の土曜日、Kオリオンズの試合がTドームであることは知っている?」
「いえ……」
突然なんの話だと思った。
「その試合のチケットが取れそうなんだ」
「嘘。まさか」
Kオリオンズは本拠地が遠方だし、Tドームは日本で一番有名なチームの本拠地だ。リーグも違うからKオリオンズがそこで試合をすることは滅多にない。だからチケットはレア中のレア。二週間前に取れる筈がない。昊の反応に気をよくしたように、彼の顔が華やかさを増す。
「正確には、それほど興味がないのにチケットが当たってしまった同僚から譲ってもらえそうなんだ。ずっと交渉していて」
「交渉って、透輝が?」
「そう。俺もやれば仕事以外の交渉もできるって自信になった。それがきっかけで富澤さんの他にも親しい人ができそうだし」
昊と離れてから内村は成長した。自分はどうだろうと思えば胸が痛む。ここで拒否すれば、これからもずっと成長のない人生を送ることになるかもしれない。そんな思いが頭を擡げる。
「まだ交渉が成立した訳じゃないんでしょう?」
「うん。彼が野球好きの友人にプレゼントするかもしれないと言っていて、その友人の返事待ち。でもそのチケットは俺たちのところに来るって予感がある」
「何それ」
頑なだった気持ちが少し和らぐ。
「だから運を天に任せよう。チケットが俺のところに来たら一緒に試合を見に行く。今日はとりあえずその約束をしよう?」
「俺は」
「昊」
ずっと握られたままの手が熱かった。うんと言うまで離してくれない。その強引さに流されてみたいと思う。
「記憶が飛んだ状態でも、今日昊は相手を殴っていない。それは自信を持っていいと思う」
「透輝」
「そんなに苦しまなくていい。俺は昊を嫌わないし、俺が盾になるから」
何故そこまで言ってくれるのだろう。だが胸の中に、信じてみたいという思いが湧く。
「チケットが取れたら連絡する。恋人に戻るかどうかはゆっくり考えればいい。でも野球は行こう。絶対」
昊に手を振ってホームを戻った彼が、タイミングよくやってきた電車に乗って帰っていく。こんな風に昊の駅まで送ってもらうことを、これからも続けていいのだろうか。
相手を殴っていない。それは自信を持っていいこと。胸の中で彼の言葉を繰り返していた。
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