恋は乗り越えられない試練を与えない。

「……」
 蒸し返されて頬に血が上る。酔っていたが自分が言ったことは覚えている。確かに好きだと言った。だって昊は内村が好きなのだ。
「あれはKオリオンズを一緒に応援してくれる友達としてという意味で」
「友達、ね」
 いつまでも個包装を弄る彼が昊を見ないまま呟く。これじゃ、昊が彼を苛めているみたいだ。ああ、もうなんだこの時間は。
「もう遅いし、帰りましょうか」
「俺は」
 昊が立ち上がるのと彼の言葉が同時だった。
「俺は原田さんが好きだから」
 怒ったような不貞腐れたような声だった。神様が綺麗に作り上げたような彼が、そんな言い方をするのが珍しい。いや、今はそんなことを思っている場合ではない。
「えっと、時々ご飯に行く友人として」
「違う!」
 キレられてしまった。
「散々褒めるくせに、素を見せるとすぐ手のひらを反す奴らと違って、原田さんは俺に普通に接してくれた」
「え、と」
「馬鹿な課長に苦しめられているなら護ってやりたいと思った。他人にそんな気持ちになるのは初めてなんだ」
「内村さん」
「だから好き。原田さんも好きになってほしい」
 どストレートだ。野球の試合なら三振が取れてしまう。いや、三振じゃダメなのか。ホームランでも打つ? それじゃKオリオンズが負けてしまう。一体、なんの話だ。予想外の台詞に思考がパニックを起こす。
「ダメ?」
 ゆっくり考えてと言って去っていくような彼ではなかった。
「土曜から今日まで考えすぎたから、もうこれ以上待ちたくない」
「えっと」
「俺のものになってほしい」
 まさか自分の身にこんなことが起こるとは思わなかった。美しすぎる男の告白は破壊力が凄い。絆されてしまいそうだと思って、いや、そもそも自分も彼が好きじゃないかと思い直す。
「……よろしくお願いします」
 プロポーズに応えるみたいな答えだった。
「え? いいの?」
 拍子抜けした彼が瞬く。
「ダメだと思って告白したんですか?」
「いや、なんていうか、後先考えないっていうか。言わずにいられなかったというか」
 彼がそんな気持ちでいてくれたとは嬉しい限りだ。
「俺は内村さんがいいなら恋人になりたいですけど、それで間違いないですよね?」
「そう、それ」
 なんだ、この色気のないやりとりはと思うが、どうやら間違っていない。彼と恋人になるということでいいらしい。
「じゃあ、よければまたうちに来ませんか? 今度の土曜日、今度はCブルータス戦が地上波放送されて」
「ブルータス戦を観るの?」
「安井投手を追い出した憎き球団だから、相手チームを応援しようかと」
 憎むほど恨んではいないが、ここはそう言っておく。今のところCブルータスがリーグ一位でKオリオンズが三位だから、負けておいてもらって損はない。
「じゃあ、ケーキ買っていく」
「楽しみにしています」
「送る。また原田さんの駅まで一緒に行く」
「ありがとうございます」
 そんなどこか色気のないやりとりで、内村と恋人になってしまったのだ。
24/47ページ
スキ