恋は乗り越えられない試練を与えない。
代わりにミネラルウォーターのボトルを握らされる。
「残り冷蔵庫に入れておくから、またあとで飲んで」
そう言って、一度昊の手から奪ったボトルの蓋を緩めて返してくれる。看病はできないと言う割に、ちゃんと昊の世話をしているじゃないか。ぼんやりと思う。彼にそうされることが特権のようで心が擽られる。
「冷蔵庫、勝手に開けるよ」
「どうぞ」
テレビを消して、彼は本当にお酒を片付けに立ってくれた。
「……ありがとう」
「いいえ。すっかりごちそうになったし」
「ああ、なんかこんなに幸せなの久しぶりかも」
幸せすぎて目蓋が落ちそうだ。
「そうなの?」
「うん。内村さんとご飯が食べられたし、久しぶりにお酒も飲めたし、Kオリオンズは勝ったし。派遣さんも減らないことになったし」
話しながら、自分が何を言っているのか分からなくなる。
「残業量が減った訳じゃないけどな」
ソファーに身体を預けてしまった昊に、ブランケットを持ってきて掛けてくれる。どうやら飲みすぎたらしい。自覚するが、起き上がろうと思う気持ちに反して、身体はソファーに沈んでいく。
「残業中は内村さんが傍にいてくれるから」
「だな」
「なんか、内村さんって救世主。いや、守護神?」
「大袈裟。てか守護神は九回を抑える投手に言うものだろ」
笑ってはぐらかそうとするのが大いに不満だった。不満のまま、ソファーの端に浅く座る彼の袖を引いてしまう。
「大袈裟じゃないよ。俺は本当に救われたし。もっと早く話しておけばよかったって思ったし」
「……俺も」
彼も同じ気持ちでいてくれた。堪らなく嬉しくて、もっと彼に近づきたいと思う。
「内村さん」
「ん?」
「好き」
告げた途端に彼が目を細める。その顔が近づいて、あ、と思ったときには唇が触れていた。ん? と思ううちに、彼がバッと音がする勢いで身体を離してしまう。
「……内村さん?」
「ごめん!」
クールな彼が慌てる様子に首を傾げる。
「今日ありがとう。また会社で」
そう言って素早く身支度をして帰ってしまった。玄関の閉まる音を聞きながら、何をそんなに慌てているのだろうと不思議に思う。
そのまま眠ってしまって、事態のマズさに気づいたのは眠りから覚めたあとだ。
「……キス?」
そうだ。内村とキスをした。一体何故そんなことになった。淡い恋心を抱いていたが告げるつもりはなかった。今日だって単純に、仕事の手伝いをしてくれたお礼をしたかった。それが何故。
「どんな顔で会えば会えばいいんだ」
その前に、この気持ちを抱えたまま残りの休日を過ごさなければならないことが拷問だった。早く彼に会ってなんとかしてしまいたい気持ちと、会いたくない気持ち。どうにかしなければならないが、どうにもならなかったらどうしよう。週明けからまた大量にやってくる書類以上に、厄介なものを抱えてしまった。
「残り冷蔵庫に入れておくから、またあとで飲んで」
そう言って、一度昊の手から奪ったボトルの蓋を緩めて返してくれる。看病はできないと言う割に、ちゃんと昊の世話をしているじゃないか。ぼんやりと思う。彼にそうされることが特権のようで心が擽られる。
「冷蔵庫、勝手に開けるよ」
「どうぞ」
テレビを消して、彼は本当にお酒を片付けに立ってくれた。
「……ありがとう」
「いいえ。すっかりごちそうになったし」
「ああ、なんかこんなに幸せなの久しぶりかも」
幸せすぎて目蓋が落ちそうだ。
「そうなの?」
「うん。内村さんとご飯が食べられたし、久しぶりにお酒も飲めたし、Kオリオンズは勝ったし。派遣さんも減らないことになったし」
話しながら、自分が何を言っているのか分からなくなる。
「残業量が減った訳じゃないけどな」
ソファーに身体を預けてしまった昊に、ブランケットを持ってきて掛けてくれる。どうやら飲みすぎたらしい。自覚するが、起き上がろうと思う気持ちに反して、身体はソファーに沈んでいく。
「残業中は内村さんが傍にいてくれるから」
「だな」
「なんか、内村さんって救世主。いや、守護神?」
「大袈裟。てか守護神は九回を抑える投手に言うものだろ」
笑ってはぐらかそうとするのが大いに不満だった。不満のまま、ソファーの端に浅く座る彼の袖を引いてしまう。
「大袈裟じゃないよ。俺は本当に救われたし。もっと早く話しておけばよかったって思ったし」
「……俺も」
彼も同じ気持ちでいてくれた。堪らなく嬉しくて、もっと彼に近づきたいと思う。
「内村さん」
「ん?」
「好き」
告げた途端に彼が目を細める。その顔が近づいて、あ、と思ったときには唇が触れていた。ん? と思ううちに、彼がバッと音がする勢いで身体を離してしまう。
「……内村さん?」
「ごめん!」
クールな彼が慌てる様子に首を傾げる。
「今日ありがとう。また会社で」
そう言って素早く身支度をして帰ってしまった。玄関の閉まる音を聞きながら、何をそんなに慌てているのだろうと不思議に思う。
そのまま眠ってしまって、事態のマズさに気づいたのは眠りから覚めたあとだ。
「……キス?」
そうだ。内村とキスをした。一体何故そんなことになった。淡い恋心を抱いていたが告げるつもりはなかった。今日だって単純に、仕事の手伝いをしてくれたお礼をしたかった。それが何故。
「どんな顔で会えば会えばいいんだ」
その前に、この気持ちを抱えたまま残りの休日を過ごさなければならないことが拷問だった。早く彼に会ってなんとかしてしまいたい気持ちと、会いたくない気持ち。どうにかしなければならないが、どうにもならなかったらどうしよう。週明けからまた大量にやってくる書類以上に、厄介なものを抱えてしまった。