恋は乗り越えられない試練を与えない。
仕事の話なら滑らかに話せることがおかしかった。画面上ではKオリオンズのエースが初回から連続三振を取っていく。香りのいいチューハイが久しぶりの身体に沁みて、思ったより早く酔いが回りそうだ。これは酔う前に切り上げないとと思うのに、口当たりがよくて次が欲しくなってしまう。対照的に、内村はハイペースで飲んでも顔色が変わらない。
「内村さん、お酒強いんですか?」
「強い。どれだけ飲んでも普通に生活できるし、気持ち悪くなったこともないから」
うん、それは強い。彼の容姿で酒に弱かったら色々大変だっただろう。神様はそこも気を遣ったということだ。
「あ、打たれた」
「嘘。スリーラン? エースなのに」
そこから試合はシーソーゲームになった。取って取られて、早々に先発ピッチャーを諦めた両チームの監督がリリーフ陣の指示を出す。そうなればムードも何もあったものではなくて、飲みながら野球に夢中になってしまう。
「犠牲フライ。また勝ち越された」
「相手も必死だからな。代打を出してくる」
「えー、やめてよ」
お酒の力もあって、七回に入る頃にはすっかり寛ぎモードになっていた。アルコールのせいでタコみたいに身体の力が抜けて、内村の肩に頭を預けてしまう。
「よし、打った。これで同点」
八回表に同点に追いついたものの、その裏でまたKオリオンズはピンチを迎えた。一アウト満塁。そこで場内アナウンスがピッチャー交代を告げる。
『ピッチャー交代、藤田から安井』
「えー、ここで?」
安井投手の登場は嬉しいが状況が悪すぎる。満塁で二つアウトを取らなければならない。
「うー、観たくない」
投げる準備をする間から、彼の肩に顔を押しつけてしまう。
「なんで? 好きなんでしょ?」
「そうですけど。胃に悪いというか、打たれるところを観たくないというか」
「もったいないって」
「ファン心理は複雑なんです」
駄々っ子みたいな言い方をしているうちに勝負が始まる。
「あ、三振」
「ほんと?」
画面に顔を戻せば力強い表情の安井が目に映る。だが次のバッターが打席に入れば、また目を逸らしてしまう。
「なんで顔を逸らしちゃうかな」
「だって、俺が観たら打たれそうで」
「どんな理屈で」
クッと笑った彼が、両手で昊の頭を掴んで画面に顔を戻す。
「せっかくの地上波なんだからもったいない。観た方がいい。原田さんが観たって負けない」
彼には珍しい強引さだった。そうされれば嫌だと騒ぐ訳にもいかなくて、テレビの中の安井投手を見つめる。
『三振! スリーアウト!』
「やった」
昊の葛藤など知らんという感じで、安井はあっさり三振を取ってベンチに戻っていった。
「ね? 原田さんが観ても打たれなかったでしょ?」
「うん」
中継ぎ投手の活躍は、球団ホームページのショート動画でもなかなかアップされないのだ。観られてよかった。忙しい日々の癒しになった。何より、観ても負けないと言ってくれた彼の言葉が嬉しい。
「満足しました。凄くいい試合だった」
「まだ八回だから。ついでに同点だから」
「安井さんが八回を抑えたから、今日はもう勝つし」
一度に気が抜けて、また彼の肩に頭を預けてCMを眺める。アルコールの力は偉大で、違和感も罪悪感もない。彼も嫌がっていないからいいのだろう。
「あ、ヒット」
ぼんやり眺めるうちにKオリオンズがヒットで一点追加していた。追加点はその一点だけだが、あとは九回裏に護りきればいい。九回は安井から代わったクローザーの投手が出てくる。
『試合終了! 八対七!』
クローザーが零点に抑えて、ハラハラの試合はKオリオンズの勝利となった。
「勝った!」
勝てばやはり嬉しくて、内村の肩に抱きついてしまう。ああ、いつか、こんな行動には注意しようと思っていたのに、またやってしまった。そう思うが、アルコールが入っているからどうにもならない。
「……原田さん、酔った?」
「酔ってない」
ただちょっと身体がふわふわしているだけだ。ここ二年、アルコールもなしに馬鹿みたいな残業に耐えてきた。いっそ酒を飲みながら残業すればよかったと、酔っ払い特有の思考に襲われる。
「さっきのおいしかった。もう一本の飲もうかな」
手探りでチューハイ缶を探そうとして、その手を止められた。
「もう飲まない方がいい」
「内村さん、お酒強いんですか?」
「強い。どれだけ飲んでも普通に生活できるし、気持ち悪くなったこともないから」
うん、それは強い。彼の容姿で酒に弱かったら色々大変だっただろう。神様はそこも気を遣ったということだ。
「あ、打たれた」
「嘘。スリーラン? エースなのに」
そこから試合はシーソーゲームになった。取って取られて、早々に先発ピッチャーを諦めた両チームの監督がリリーフ陣の指示を出す。そうなればムードも何もあったものではなくて、飲みながら野球に夢中になってしまう。
「犠牲フライ。また勝ち越された」
「相手も必死だからな。代打を出してくる」
「えー、やめてよ」
お酒の力もあって、七回に入る頃にはすっかり寛ぎモードになっていた。アルコールのせいでタコみたいに身体の力が抜けて、内村の肩に頭を預けてしまう。
「よし、打った。これで同点」
八回表に同点に追いついたものの、その裏でまたKオリオンズはピンチを迎えた。一アウト満塁。そこで場内アナウンスがピッチャー交代を告げる。
『ピッチャー交代、藤田から安井』
「えー、ここで?」
安井投手の登場は嬉しいが状況が悪すぎる。満塁で二つアウトを取らなければならない。
「うー、観たくない」
投げる準備をする間から、彼の肩に顔を押しつけてしまう。
「なんで? 好きなんでしょ?」
「そうですけど。胃に悪いというか、打たれるところを観たくないというか」
「もったいないって」
「ファン心理は複雑なんです」
駄々っ子みたいな言い方をしているうちに勝負が始まる。
「あ、三振」
「ほんと?」
画面に顔を戻せば力強い表情の安井が目に映る。だが次のバッターが打席に入れば、また目を逸らしてしまう。
「なんで顔を逸らしちゃうかな」
「だって、俺が観たら打たれそうで」
「どんな理屈で」
クッと笑った彼が、両手で昊の頭を掴んで画面に顔を戻す。
「せっかくの地上波なんだからもったいない。観た方がいい。原田さんが観たって負けない」
彼には珍しい強引さだった。そうされれば嫌だと騒ぐ訳にもいかなくて、テレビの中の安井投手を見つめる。
『三振! スリーアウト!』
「やった」
昊の葛藤など知らんという感じで、安井はあっさり三振を取ってベンチに戻っていった。
「ね? 原田さんが観ても打たれなかったでしょ?」
「うん」
中継ぎ投手の活躍は、球団ホームページのショート動画でもなかなかアップされないのだ。観られてよかった。忙しい日々の癒しになった。何より、観ても負けないと言ってくれた彼の言葉が嬉しい。
「満足しました。凄くいい試合だった」
「まだ八回だから。ついでに同点だから」
「安井さんが八回を抑えたから、今日はもう勝つし」
一度に気が抜けて、また彼の肩に頭を預けてCMを眺める。アルコールの力は偉大で、違和感も罪悪感もない。彼も嫌がっていないからいいのだろう。
「あ、ヒット」
ぼんやり眺めるうちにKオリオンズがヒットで一点追加していた。追加点はその一点だけだが、あとは九回裏に護りきればいい。九回は安井から代わったクローザーの投手が出てくる。
『試合終了! 八対七!』
クローザーが零点に抑えて、ハラハラの試合はKオリオンズの勝利となった。
「勝った!」
勝てばやはり嬉しくて、内村の肩に抱きついてしまう。ああ、いつか、こんな行動には注意しようと思っていたのに、またやってしまった。そう思うが、アルコールが入っているからどうにもならない。
「……原田さん、酔った?」
「酔ってない」
ただちょっと身体がふわふわしているだけだ。ここ二年、アルコールもなしに馬鹿みたいな残業に耐えてきた。いっそ酒を飲みながら残業すればよかったと、酔っ払い特有の思考に襲われる。
「さっきのおいしかった。もう一本の飲もうかな」
手探りでチューハイ缶を探そうとして、その手を止められた。
「もう飲まない方がいい」