未来の次の恋
零した瞬間ハッと我に返った。自分は一体何を考えた? 悪いことなどしていない彼女になんてことを。恨むなら婚約者がいるのに誠に期待をさせた久慈を恨むのが筋だと分かっていて、それができない自分が嫌になった。自身への嫌悪感に苦しめば、その後恐怖がやってくる。現実になる筈がない。自分には人を呪う能力なんてないと分かっているのに、恐ろしいことをしてしまった恐怖に震えが止まらない。
光に連絡をしようかと思った。彼の冷静な声を聞けば落ち着くかもしれない。だが久慈と付き合い出してから光に嘘ばかり吐いてきた。すぐバレるような嘘を吐いて久慈と会い続けた。先週も治療院に行く約束をキャンセルしている。光だってもう誠に構いきれないのではないか。
感情の激しい上下がよくなかったのか息苦しくなって、そのうち気分が悪くなった。這うようにしてベッドに向かい、仰向けになって腕で目を覆う。そうしていないと泣いてしまいそうだ。苦しい。ずっと穏やかで平和な日々を過ごしていたのに、何故こんな目に遭わなければならないのだろう。久慈に初めて会ったあの日の夕方まで時を戻せたら、今度は上手く躱せるだろうか。考えてみるが、すぐに彼と恋人になれないルートなんていらないと思う。きっと何度やり直しても自分は久慈を好きになる。予知に警告されても光に反対されても突き進んでしまっているのだ。
会いたい。会って一言何も心配いらないと言ってくれれば耐えられる。信じて待つことができる。会うのが無理なら電話でもラインのメッセージでもいい。だが彼からは一言も返ってこない。関係各所の対応に追われているのだろう。名倉のもっと上の上司と話して、紺華建設の、それこそ会長と話さなければならない状況かもしれない。迷惑になりたくない。いや、それは建前で、本音は怖かった。色々考えた結果、千布花江と結婚することにした。短い間だったけど、誠と付き合えてよかった。紺華バリューにいる間の思い出をありがとう。彼の太陽みたいな笑顔で言われたら、誠はその後の人生で笑うことを忘れてしまう。
会いたい。声が聞きたい。その思いが強くなる。ああ、本当の自分はこうなのだと思った。恋で気持ちの制御を失い、恋に惑う。頂き物のお菓子を食べながら静かにしている方の自分がまやかしなのだ。本当の自分はこんなにも激しい。だから間違いを犯さないように神様はおかしな力を与えたのかもしれない。恋などしないように。恋をすれば激しい思いで相手を苦しめてしまうから。もしかしたら、惨事を予知しているのではなく、誠が引き起こして巻き込んでいるのかもしれない。誠と恋愛をしなければ、これまでの相手がみな普通の生活を送ることができたかもしれない。今久慈が苦しんでいるのも誠のせいだとしたら、どう詫びればいいのだろう。だがそこでふと思う。久慈は苦しんでいるだろうか? 美しい婚約者を公表できて喜んでいるのではないか。一体どこまでが惨事なのだろう。訳が分からなくなって、考えることを放棄する。
小刻みに震える身体を抱えて小さくなって、漸く訪れた浅い眠りに身を任せる。嫌な夢を見た気がして目を覚ませば、ほんの数分しか眠っていないような感覚に反して六時間が過ぎている。
支度をして仕事に行かなければ。そう思うのに身体を起こすのが億劫で、とりあえず枕元に投げ出してあったスマートフォンを手にする。今日の天気を確認するつもりでニュース一覧の画面を開いて、目にしたものに息が止まる。
『千布花江、舞台装置から落下。全治三ヵ月の大怪我。主演舞台は降板に』
本当に息のしかたを忘れたのかもしれない。酸素が入ってこない苦しさで我に返って、陸に引き上げられた魚のような浅い呼吸を繰り返す。もう限界だった。
「──どうした?」
六時を過ぎたばかりだというのに、彼はワンコールで出てくれる。
「……兄さん、ごめん。助けてほしい」
言葉にした途端に耐えられなくなって、繋がったままの電話に構わず泣いた。
光に連絡をしようかと思った。彼の冷静な声を聞けば落ち着くかもしれない。だが久慈と付き合い出してから光に嘘ばかり吐いてきた。すぐバレるような嘘を吐いて久慈と会い続けた。先週も治療院に行く約束をキャンセルしている。光だってもう誠に構いきれないのではないか。
感情の激しい上下がよくなかったのか息苦しくなって、そのうち気分が悪くなった。這うようにしてベッドに向かい、仰向けになって腕で目を覆う。そうしていないと泣いてしまいそうだ。苦しい。ずっと穏やかで平和な日々を過ごしていたのに、何故こんな目に遭わなければならないのだろう。久慈に初めて会ったあの日の夕方まで時を戻せたら、今度は上手く躱せるだろうか。考えてみるが、すぐに彼と恋人になれないルートなんていらないと思う。きっと何度やり直しても自分は久慈を好きになる。予知に警告されても光に反対されても突き進んでしまっているのだ。
会いたい。会って一言何も心配いらないと言ってくれれば耐えられる。信じて待つことができる。会うのが無理なら電話でもラインのメッセージでもいい。だが彼からは一言も返ってこない。関係各所の対応に追われているのだろう。名倉のもっと上の上司と話して、紺華建設の、それこそ会長と話さなければならない状況かもしれない。迷惑になりたくない。いや、それは建前で、本音は怖かった。色々考えた結果、千布花江と結婚することにした。短い間だったけど、誠と付き合えてよかった。紺華バリューにいる間の思い出をありがとう。彼の太陽みたいな笑顔で言われたら、誠はその後の人生で笑うことを忘れてしまう。
会いたい。声が聞きたい。その思いが強くなる。ああ、本当の自分はこうなのだと思った。恋で気持ちの制御を失い、恋に惑う。頂き物のお菓子を食べながら静かにしている方の自分がまやかしなのだ。本当の自分はこんなにも激しい。だから間違いを犯さないように神様はおかしな力を与えたのかもしれない。恋などしないように。恋をすれば激しい思いで相手を苦しめてしまうから。もしかしたら、惨事を予知しているのではなく、誠が引き起こして巻き込んでいるのかもしれない。誠と恋愛をしなければ、これまでの相手がみな普通の生活を送ることができたかもしれない。今久慈が苦しんでいるのも誠のせいだとしたら、どう詫びればいいのだろう。だがそこでふと思う。久慈は苦しんでいるだろうか? 美しい婚約者を公表できて喜んでいるのではないか。一体どこまでが惨事なのだろう。訳が分からなくなって、考えることを放棄する。
小刻みに震える身体を抱えて小さくなって、漸く訪れた浅い眠りに身を任せる。嫌な夢を見た気がして目を覚ませば、ほんの数分しか眠っていないような感覚に反して六時間が過ぎている。
支度をして仕事に行かなければ。そう思うのに身体を起こすのが億劫で、とりあえず枕元に投げ出してあったスマートフォンを手にする。今日の天気を確認するつもりでニュース一覧の画面を開いて、目にしたものに息が止まる。
『千布花江、舞台装置から落下。全治三ヵ月の大怪我。主演舞台は降板に』
本当に息のしかたを忘れたのかもしれない。酸素が入ってこない苦しさで我に返って、陸に引き上げられた魚のような浅い呼吸を繰り返す。もう限界だった。
「──どうした?」
六時を過ぎたばかりだというのに、彼はワンコールで出てくれる。
「……兄さん、ごめん。助けてほしい」
言葉にした途端に耐えられなくなって、繋がったままの電話に構わず泣いた。