未来の次の恋
過去の失敗話は終わりというように、彼女が隣の椅子に置いていた鞄から週刊誌を取り出した。
「コールの先輩が、失恋したときは芸能人のゴシップを眺めるといいって言って、私の分も買ってくれたんです」
「なんだ、それ」
「ふふ。実は好きな芸能人の映画の試写会の応募用紙が欲しいから、二冊買っただけみたいですけど」
「……いい性格だな」
だが捨てるよりずっといい。
「くれるなら嬉しいですよ。女性週刊誌って買ったことなかったですけど意外に面白かったんです。芸能人って恋愛絡みで何千万単位の賠償金が発生することがあるから、私なんかはマシだったなって思えて」
「なるほど」
そんな励まし方があるのだなと思った。どんな思惑にせよ矢崎のメンタルは回復している。そこで漸く笑うことができる。
「あ、そうそう、この写真」
だが誠の僅かな心の回復などすぐに落とされた。
「ちょっと久慈さんに似ていませんか?」
「……!」
矢崎の前だというのに、目にした記事に顔色をなくす。
「横顔だからはっきり分からないけど、背格好も似ているし」
似ているのではない。記事の写真の中にいるのは確かに彼だった。笑うときに下がる眉も高い鼻梁も、相手に向ける穏やかな微笑みも全て久慈のものだ。何故、マネージャーとはいえ企業の一社員に過ぎない彼が週刊誌に乗る羽目になっているのだろう。
「この女優さん、紺華建設のCMの人だよね。なんて名前だっけ?」
さして興味のないフリをしながら、懸命に記事の内容を把握しようとする。
「千布花江さん。可愛らしい感じですよね。男の人はみんな好きになってしまいそうって言われていますけど、実は女性ファンも多いんですよ。まだ独身ですけど、やっぱりこんな女性ならいいところの男の人を結婚相手に選びますよね。K社の御曹司って納得です」
雑談に応じながら、矢崎の話はほとんど耳に入っていなかった。千布花江がある企業のパーティーで、人目も憚らず恋人の男性と仲睦まじい時間を過ごした。矢崎に熟読していることがバレないように読んだ記事に書かれていたのはそんな内容だ。その千布花江が笑い合っている相手が久慈なのだ。独身男性の希望の星、ついに結婚。そんな見出しが躍っている。そういえば先週、彼は土曜の夜から日曜まで予定があると言っていた。このパーティーのことだろう。まさか彼女と泊ったのだろうかと、嫌な予感が猛スピードで身体中を巡る。
「この週刊誌って今週号かな」
「今日貰ったからそうだと思いますけど」
「そっか。矢崎さんも週刊誌に嵌って、これから毎週買うようになりそうだね」
「興味はありますけど、そこまでお金に余裕はありません」
「確かに。結構な出費になっちゃうしね」
軽い感じで話を終わらせて、同じ週刊誌を求めて地上階へと下りていった。テナントのコンビニでもビルのすぐ前のコンビニでも見つけられなくて、不安を抱えて執務室に戻ることになる。社会人が勤務時間中も感情に振り回されている訳にはいかない。とにかく仕事を終わらせて、帰る途中の本屋で探せばいい。そう心を落ち着けてパソコンのロックを解除する。
だがボールペンを取り出そうと引き出しを開けたところで、誠のメンタルはボロボロに崩れてしまった。
『誠へ 勝手に開けてごめん。帰宅命令が出てしまいました。しばらく出社も難しくなりそうです。総務の仕事ができなくてごめん。また連絡します』
そんな言葉が書かれた付箋が残されている。
「どうして……」
何故帰宅命令などという厳しい話になっているのだ。紺華バリューは穏やかな社風だし、久慈も非の打ちどころのないマネージャーだ。それがどうして。吐き気を覚えるほどの不安に襲われて、しばらく腕を抱いて身体の震えに耐える羽目になった。
「コールの先輩が、失恋したときは芸能人のゴシップを眺めるといいって言って、私の分も買ってくれたんです」
「なんだ、それ」
「ふふ。実は好きな芸能人の映画の試写会の応募用紙が欲しいから、二冊買っただけみたいですけど」
「……いい性格だな」
だが捨てるよりずっといい。
「くれるなら嬉しいですよ。女性週刊誌って買ったことなかったですけど意外に面白かったんです。芸能人って恋愛絡みで何千万単位の賠償金が発生することがあるから、私なんかはマシだったなって思えて」
「なるほど」
そんな励まし方があるのだなと思った。どんな思惑にせよ矢崎のメンタルは回復している。そこで漸く笑うことができる。
「あ、そうそう、この写真」
だが誠の僅かな心の回復などすぐに落とされた。
「ちょっと久慈さんに似ていませんか?」
「……!」
矢崎の前だというのに、目にした記事に顔色をなくす。
「横顔だからはっきり分からないけど、背格好も似ているし」
似ているのではない。記事の写真の中にいるのは確かに彼だった。笑うときに下がる眉も高い鼻梁も、相手に向ける穏やかな微笑みも全て久慈のものだ。何故、マネージャーとはいえ企業の一社員に過ぎない彼が週刊誌に乗る羽目になっているのだろう。
「この女優さん、紺華建設のCMの人だよね。なんて名前だっけ?」
さして興味のないフリをしながら、懸命に記事の内容を把握しようとする。
「千布花江さん。可愛らしい感じですよね。男の人はみんな好きになってしまいそうって言われていますけど、実は女性ファンも多いんですよ。まだ独身ですけど、やっぱりこんな女性ならいいところの男の人を結婚相手に選びますよね。K社の御曹司って納得です」
雑談に応じながら、矢崎の話はほとんど耳に入っていなかった。千布花江がある企業のパーティーで、人目も憚らず恋人の男性と仲睦まじい時間を過ごした。矢崎に熟読していることがバレないように読んだ記事に書かれていたのはそんな内容だ。その千布花江が笑い合っている相手が久慈なのだ。独身男性の希望の星、ついに結婚。そんな見出しが躍っている。そういえば先週、彼は土曜の夜から日曜まで予定があると言っていた。このパーティーのことだろう。まさか彼女と泊ったのだろうかと、嫌な予感が猛スピードで身体中を巡る。
「この週刊誌って今週号かな」
「今日貰ったからそうだと思いますけど」
「そっか。矢崎さんも週刊誌に嵌って、これから毎週買うようになりそうだね」
「興味はありますけど、そこまでお金に余裕はありません」
「確かに。結構な出費になっちゃうしね」
軽い感じで話を終わらせて、同じ週刊誌を求めて地上階へと下りていった。テナントのコンビニでもビルのすぐ前のコンビニでも見つけられなくて、不安を抱えて執務室に戻ることになる。社会人が勤務時間中も感情に振り回されている訳にはいかない。とにかく仕事を終わらせて、帰る途中の本屋で探せばいい。そう心を落ち着けてパソコンのロックを解除する。
だがボールペンを取り出そうと引き出しを開けたところで、誠のメンタルはボロボロに崩れてしまった。
『誠へ 勝手に開けてごめん。帰宅命令が出てしまいました。しばらく出社も難しくなりそうです。総務の仕事ができなくてごめん。また連絡します』
そんな言葉が書かれた付箋が残されている。
「どうして……」
何故帰宅命令などという厳しい話になっているのだ。紺華バリューは穏やかな社風だし、久慈も非の打ちどころのないマネージャーだ。それがどうして。吐き気を覚えるほどの不安に襲われて、しばらく腕を抱いて身体の震えに耐える羽目になった。