未来の次の恋
捻り出した言い訳にも彼は大らかに返してくるだけだ。
「そんな硬くならないで。海を漂っている感じでリラックスするといいよ」
首元にキスされて、身動いだところで唇が重ねられた。彼とのキスは気持ちよくて、まだどこか解放しきれずにいた部分をみな晒して委ねたくなる。彼が言うように心地よさに浸ってみたい。想いはすぐに行動になって、甘えるように彼の背に回した腕に力を籠める。
「気持ちよくなっちゃった?」
「……はい」
「じゃあ、もっと気持ちよくなろうか」
腕を解いた彼が肌を撫でて、指先が身体の中心に下りてくる。ああ、好きだ。この男になら何をされてもいい。そんな胸が痛むほどの想いに包まれて、彼の全て受け入れようとようと目を閉じる。
「……!」
だがそこで頭の中の映像が切り替わった。幻想的に揺れる海の青が消えて、リダイヤルを繰り返すスマホの画面に変わる。諦めずに掛けて、漸く出てくれた彼の声が疲れている。彼の指示で景色が歪むほど暑いアスファルトの道を歩いていく。見えてくるのは二階建ての交番だ。暑いのに立番をしている警察官が、手を伸ばして誠に声を掛ける──。
「……誠! 大丈夫!?」
久慈の声に我に返った。いつのまにか海の映像は消えていて、素肌をシーツで覆われた誠も枕に寄りかかるように身体を起こされている。
「……すみません。大丈夫です」
身体は大丈夫だが、消えてなくなりたいほど恥ずかしかった。最中の失態。二週間だけの元彼と同じことが起こってしまった。久慈を拒絶する気持ちなんてないのに、どうしてこうなってしまうのだろう。いや、誠のことより久慈だ。手早くナイトウェアに戻った彼が、ペットボトルの水を持ってくる。
「一瞬意識が飛んだみたいになって驚いた。病院に行かなくて平気かな?」
隣で背中を撫でてくれる彼は穏やかなままだ。だが内心はどうだろう。流石に誠に嫌気が差したのではないか。高価な部屋を用意したのに恋人がこれではやっていられない。同じ男だから途中でやめるストレスは分かる。本音はもう帰りたいと思っていたら。帰って誠との関係をなかったことにしたいと思っていたら。そういえばまだきちんとした恋人でもないのだ。
「平気です。すみません……、ほんとに」
「そんなに謝らないで。夕方体調が悪そうだったのに、無理をさせてしまった僕が悪いから」
「そんな……」
「あ、水より炭酸水の方がいいかな」
「いえ」
大丈夫ですと引き止めようとして、少し遅れて彼の気遣いだと分かった。彼がミニバーにいてくれる間にナイトウェアに戻って、少し迷ったあとでそのままベッドに横になる。せめて彼に綺麗なベッドで眠ってほしかった。
「誠、眠っちゃった?」
頭の上から降りてくる声に応えずに、ぎゅっと目を瞑る。寝たフリなのはバレているだろうが、今は何を話していいか分からない。久慈との不幸な未来を見てしまったことにだいぶ動揺していた。やはり警察が出てくる未来だった。何度もリダイヤルを繰り返す自分。景色が歪むほど暑い季節なら長くてあと二ヵ月だろう。そこで関係は終わる。来年の夏という可能性はゼロに近い。誠の恋はいつも短いと決まっている。それを思えば自身の呪われた運命がまた哀しくなる。能力を自覚してから、恋にはいつもどこか冷めていたのに、今は哀しい。彼となら忌まわしい能力も乗り越えられるのではないかと夢を見てしまった分、気持ちが沈む。けれどその気持ちを久慈にぶつける訳にはいかない。
「おやすみ、誠。また明日」
彼の声が優しいままで、その優しさに素直に甘えられない自分が苦しかった。せめて泣いて迷惑を掛けるような真似はしないでおこう。そう思って、ぎゅっと枕に顔を押しつけた。
「そんな硬くならないで。海を漂っている感じでリラックスするといいよ」
首元にキスされて、身動いだところで唇が重ねられた。彼とのキスは気持ちよくて、まだどこか解放しきれずにいた部分をみな晒して委ねたくなる。彼が言うように心地よさに浸ってみたい。想いはすぐに行動になって、甘えるように彼の背に回した腕に力を籠める。
「気持ちよくなっちゃった?」
「……はい」
「じゃあ、もっと気持ちよくなろうか」
腕を解いた彼が肌を撫でて、指先が身体の中心に下りてくる。ああ、好きだ。この男になら何をされてもいい。そんな胸が痛むほどの想いに包まれて、彼の全て受け入れようとようと目を閉じる。
「……!」
だがそこで頭の中の映像が切り替わった。幻想的に揺れる海の青が消えて、リダイヤルを繰り返すスマホの画面に変わる。諦めずに掛けて、漸く出てくれた彼の声が疲れている。彼の指示で景色が歪むほど暑いアスファルトの道を歩いていく。見えてくるのは二階建ての交番だ。暑いのに立番をしている警察官が、手を伸ばして誠に声を掛ける──。
「……誠! 大丈夫!?」
久慈の声に我に返った。いつのまにか海の映像は消えていて、素肌をシーツで覆われた誠も枕に寄りかかるように身体を起こされている。
「……すみません。大丈夫です」
身体は大丈夫だが、消えてなくなりたいほど恥ずかしかった。最中の失態。二週間だけの元彼と同じことが起こってしまった。久慈を拒絶する気持ちなんてないのに、どうしてこうなってしまうのだろう。いや、誠のことより久慈だ。手早くナイトウェアに戻った彼が、ペットボトルの水を持ってくる。
「一瞬意識が飛んだみたいになって驚いた。病院に行かなくて平気かな?」
隣で背中を撫でてくれる彼は穏やかなままだ。だが内心はどうだろう。流石に誠に嫌気が差したのではないか。高価な部屋を用意したのに恋人がこれではやっていられない。同じ男だから途中でやめるストレスは分かる。本音はもう帰りたいと思っていたら。帰って誠との関係をなかったことにしたいと思っていたら。そういえばまだきちんとした恋人でもないのだ。
「平気です。すみません……、ほんとに」
「そんなに謝らないで。夕方体調が悪そうだったのに、無理をさせてしまった僕が悪いから」
「そんな……」
「あ、水より炭酸水の方がいいかな」
「いえ」
大丈夫ですと引き止めようとして、少し遅れて彼の気遣いだと分かった。彼がミニバーにいてくれる間にナイトウェアに戻って、少し迷ったあとでそのままベッドに横になる。せめて彼に綺麗なベッドで眠ってほしかった。
「誠、眠っちゃった?」
頭の上から降りてくる声に応えずに、ぎゅっと目を瞑る。寝たフリなのはバレているだろうが、今は何を話していいか分からない。久慈との不幸な未来を見てしまったことにだいぶ動揺していた。やはり警察が出てくる未来だった。何度もリダイヤルを繰り返す自分。景色が歪むほど暑い季節なら長くてあと二ヵ月だろう。そこで関係は終わる。来年の夏という可能性はゼロに近い。誠の恋はいつも短いと決まっている。それを思えば自身の呪われた運命がまた哀しくなる。能力を自覚してから、恋にはいつもどこか冷めていたのに、今は哀しい。彼となら忌まわしい能力も乗り越えられるのではないかと夢を見てしまった分、気持ちが沈む。けれどその気持ちを久慈にぶつける訳にはいかない。
「おやすみ、誠。また明日」
彼の声が優しいままで、その優しさに素直に甘えられない自分が苦しかった。せめて泣いて迷惑を掛けるような真似はしないでおこう。そう思って、ぎゅっと枕に顔を押しつけた。