未来の次の恋

 酔ったから露天風呂は明日にしようということになって、互いにシャワーを浴びでベッドに入った。それぞれのベッドに収まったあと、久慈が綺麗なブルーの深海の映像を流してくれる。
「綺麗……」
「でしょう? 実はこのホテルのサービスなんだよね。知る人ぞ知る裏メニューっていうか。まだこのサービスがあるかネットで確認できなかったから、さっきこっそりホテルマンに聞いちゃった。誠にもぜひ観てほしくて」
 そんな裏話が微笑ましい。
「暗くするよ。音も消しちゃうからリラックスして眠ってね」
 ベッドの足元側の壁のテレビが深海の青を映し出して、灯りを消した部屋中に反射する。ゆらゆらと揺れる美しい青がそこら中に撒き散らされて、まるで自分が海の中にいるような感覚に包まれる。それは多めに飲んでしまった日本酒の影響もあるだろうか。
「……久慈さんは海が好きなんですか?」
 眠っていいと言われたが、なんだかもったいなくて聞いてしまう。
「うん。好きだよ。特にこういう深いところがね」
 ヘッドボードに背を預けて身体を起こしていた彼が微笑む。
「でも実際潜ったり船に乗ったりするのは好きじゃないんだ。こうやって誰かが撮影してくれた綺麗な映像を観るのが好き。撮ってきてくれて、綺麗に編集して流してくれてありがとうございますって、感謝しながら観る」
「凄いな。俺、そこまで考えたことなかった」
「単なるいい人のフリだよ。本当はウェットスーツとか酸素ボンベとか、道具を色々揃えるのが面倒なだけ。今はまだ、そういう労力は仕事と日々の生活に向けていたいしね」
 そんな本音に心惹かれる。マネージャー職も難なく熟しているように見えるが、紺華建設と紺華バリューでは業種が全く違う。見えないところで努力している。今更そんなことを理解する。
「久慈さん」
「ん?」
「そっちに行ってもいいですか?」
「ごめん。困る」
 あっさり拒絶されてしまった。
「じゃあ、諦めます」
 素直に掛け物を被って引き下がれば彼が苦笑する。
「諦めが早すぎるでしょう。そこは一旦理由を聞いてくれないと」
 旅先だからか、彼の言葉のチョイスが砕けているのが微笑ましい。
「どうして困るんですか?」
「同じベッドにいれば手を出したくなるでしょう?」
 ストレートな言葉が返ってきて、誠の方が赤面してしまう。それを面白がるように、久慈は更に攻撃を続ける。
「誠に好かれるために大人のフリをしているけど、それと欲望は別物だよ。一度火が点いたら止められなくなるタイプだし、誠は魅力的だし」
「……すみません。俺が悪かったです」
 赤裸裸な告白に降参すれば、彼がふっと笑った。
「夕方体調が悪そうだったでしょう? そんな人に無理はさせないから安心して」
 その台詞に寂しさを覚えたのは誠の方だ。大人のフリと言ったが彼は本当に大人だ。誠の方が子どもで、このまま何事もなく朝を迎えられない気分になっている。
「あ、観て、珊瑚礁……っ!」
 彼が画面を指したところであっさりと彼のベッドに移動してしまった。
「えっと、誠。そういうことをされると僕も仮面が剥がれてしまうというか」
「……どうぞ。素の久慈さんを見せてください」
 その言い方は流石に恥ずかしくて、彼の胸に顔を寄せる。
「そう。じゃあ、遠慮なく」
 途端に強く抱きしめられて、そのまま彼の背がベッドに倒れた。身動きが取れずにいれば彼が体位を入れ替えて、真上から見下ろされる。
「ごめん、スイッチが入ってしまった。もう逃げられないと思って」
「……はい」
 応じた瞬間唇が降りてきた。誘った割に動けずにいた誠の唇を突くようにして、薄く開いた隙間から彼の舌が侵入してくる。
「ん……っ」
 一夜の相手と身体を重ねることはあっても、単なる性欲解消に過ぎなかったから、キスの経験はごく僅かだ。臆病な誠を導くような舌遣いに応えるうちに、煽られて全身が昂っていく。熱くなる身体に気づいたように、彼が誠のナイトウェアに手を入れてくる。
「や……」
 素肌を撫でられて声が上がる。口元に手をやろうとするのを手首を掴んで封じられる。
「そんな仕種も色っぽくていいんだけど、でも声は我慢しないで。その方が楽しめるでしょう?」
 久慈はスマートだった。額や頬にキスをしながら器用に誠の衣服を脱がせて、自らも手早く全てを取り去ってしまう。
「寒い?」
「……いえ」
 首を振れば掛け物を除けた彼が一糸纏わぬ姿で覆い被さってきた。誠よりも少し高い体温に触れてドクドクと鼓動が速まる。ただ抱き合って肌を触れ合わせているだけで、みっともないほど感じてしまう。腰回りに熱が集まって、すっかり反応している自身を恥じて、彼から顔を逸らす。
「どうしたの?」
「あの……、テレビ消さなくていいのかなって」
「いいじゃない。灯りの代わりになるし、幻想的でしょう?」
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