未来の次の恋
あなたとの終わりも見てしまうのではないかと思ったと、流石にそれは言えなくて、少し無理をして立ち上がる。
「もうすっかり平気みたいです。すみません。せっかくの旅行でみっともないところを見せて」
「誠」
同じように立ち上がった彼に腕を引かれて抱き寄せられていた。
「無理しないで」
子どもにするように、トントンと背中を叩いてくれる。
「ホテルを用意してもらったから元気にしていなきゃいけないと思っているなら、それはいらない心配だよ。ちょっと嫌な言い方をするけど、僕にとってこのホテル一泊の料金なんて大した額じゃないから」
彼ならではの説得にふっと肩の力が抜ける。
「言ってみたい台詞ですね」
「そう? 嫌われるよ。悪いこともしていないのに」
「それはそうですよ。普通の人間には簡単に手が出る金額ではないですから」
「じゃあ、誠も僕が嫌い?」
半分本気のような口調で聞かれて、なんだか愛おしくなる。
「俺は開き直りが早いですから。くれると言うものはありがたくいただきます」
「よかった。じゃあ、目一杯寛ごう」
そう言ってリビングのソファーに引かれていく頃には、身体の震えも恐怖心も引いている。
夕食はレストランに出るのをやめて、ルームサービスを頼むことにした。
「すみません。予定していたレストランがあったんじゃないですか?」
「ううん。誠と一緒にいられればどこでもよかったんだ。強いて言えば、誠が喜んで、もっと僕を好きになってくれるチョイスだといいなって」
「なんですか、それ」
呆れたように言いながら、上手いなと感謝していた。彼が自分の下心の話にすり替えてくれると気持ちが楽になる。
「凄い。綺麗ですね」
「うん。思ったより凝っているしね」
リビングのテーブルで目にした夕食に二人で声を上げる。正角箱の中に、お刺身とお寿司、煮物や焼き物が綺麗に収まっている。リビングのテーブルに料理を広げるのも大変だからと、仕切り箱に収められたメニューにしたのだが、思ったよりずっと華やかでボリュームがある。
「アオリイカだね。おいしいから食べてみて」
「こっちの鮪もおいしいです」
ソファーで並んで楽しむ食事は想像よりずっと和やかなものになって、部屋で過ごして却ってよかったと思うほどだ。一緒に頼んだ日本酒も口当たりがよくて、ほんのり気分が高揚してくる。
「……白身魚に金箔が乗っているんですけど」
「うん。綺麗でいいね」
「その感想がもう庶民とは違うんですよ」
「何を言っているの。僕はごく普通の庶民でしょう?」
なんでもないやりとりが、誠の怯えて震えていた心を解かしてくれる。
「オーラが違うんですよ。職場では一部の人しか紺華建設会長の孫だと知らないんでしょう? でもみんなどこかの御曹司だとは思っているみたいだし。バレるのは時間の問題かもしれないですね」
「うーん。僕はバレようがバレまいがどっちでもいいんだけど。みんな職場異動してきたとき、いちいち家族のことまで自己紹介しないでしょう? それと一緒だよ」
「なるほど」
言われてみれば確かにそうだ。家族がグループのトップ企業の経営者一族というだけで、ある種のフィルターを通して見られるのは気の毒だと思う。久慈なら全く別の会社に入っても評価を受けて上り詰めただろうに、紺華グループにいればどうしたって、親族だから優遇されているという話が出てきてしまう。
「まぁ、目の前の仕事を一生懸命やるだけだよ。職場に誠みたいに好きになれる人がいたのは嬉しい誤算だったけど」
「……結局そんな話に戻っちゃうんですね」
「それはそうでしょう。二人の旅行なんだから」
綺麗に微笑まれて頬に血が上る。お酒のせいにしたくて日本酒の瓶に手を伸ばせば、気づいた久慈が誠のグラスに注いでくれる。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。僕は使える男ですので、ぜひ好きになっていただけると嬉しい」
「……考えておきます」
好きじゃない相手と旅行になんて来ないだろうと思うが、照れるからクールを気取っておく。誠の気持ちを読んだように久慈も上機嫌だから、今はこれでいいのだろう。
露天風呂越しに広がる海を眺めながら、時間を気にすることなく食事を堪能した。小さな日本酒の瓶も空けてしまって、すっかり満足したところでスタッフが片付けに来てくれる。
「テレビで海の映像が観られるから、ちょっと流していいかな? 誠はそのまま眠ってくれていいから」
「もうすっかり平気みたいです。すみません。せっかくの旅行でみっともないところを見せて」
「誠」
同じように立ち上がった彼に腕を引かれて抱き寄せられていた。
「無理しないで」
子どもにするように、トントンと背中を叩いてくれる。
「ホテルを用意してもらったから元気にしていなきゃいけないと思っているなら、それはいらない心配だよ。ちょっと嫌な言い方をするけど、僕にとってこのホテル一泊の料金なんて大した額じゃないから」
彼ならではの説得にふっと肩の力が抜ける。
「言ってみたい台詞ですね」
「そう? 嫌われるよ。悪いこともしていないのに」
「それはそうですよ。普通の人間には簡単に手が出る金額ではないですから」
「じゃあ、誠も僕が嫌い?」
半分本気のような口調で聞かれて、なんだか愛おしくなる。
「俺は開き直りが早いですから。くれると言うものはありがたくいただきます」
「よかった。じゃあ、目一杯寛ごう」
そう言ってリビングのソファーに引かれていく頃には、身体の震えも恐怖心も引いている。
夕食はレストランに出るのをやめて、ルームサービスを頼むことにした。
「すみません。予定していたレストランがあったんじゃないですか?」
「ううん。誠と一緒にいられればどこでもよかったんだ。強いて言えば、誠が喜んで、もっと僕を好きになってくれるチョイスだといいなって」
「なんですか、それ」
呆れたように言いながら、上手いなと感謝していた。彼が自分の下心の話にすり替えてくれると気持ちが楽になる。
「凄い。綺麗ですね」
「うん。思ったより凝っているしね」
リビングのテーブルで目にした夕食に二人で声を上げる。正角箱の中に、お刺身とお寿司、煮物や焼き物が綺麗に収まっている。リビングのテーブルに料理を広げるのも大変だからと、仕切り箱に収められたメニューにしたのだが、思ったよりずっと華やかでボリュームがある。
「アオリイカだね。おいしいから食べてみて」
「こっちの鮪もおいしいです」
ソファーで並んで楽しむ食事は想像よりずっと和やかなものになって、部屋で過ごして却ってよかったと思うほどだ。一緒に頼んだ日本酒も口当たりがよくて、ほんのり気分が高揚してくる。
「……白身魚に金箔が乗っているんですけど」
「うん。綺麗でいいね」
「その感想がもう庶民とは違うんですよ」
「何を言っているの。僕はごく普通の庶民でしょう?」
なんでもないやりとりが、誠の怯えて震えていた心を解かしてくれる。
「オーラが違うんですよ。職場では一部の人しか紺華建設会長の孫だと知らないんでしょう? でもみんなどこかの御曹司だとは思っているみたいだし。バレるのは時間の問題かもしれないですね」
「うーん。僕はバレようがバレまいがどっちでもいいんだけど。みんな職場異動してきたとき、いちいち家族のことまで自己紹介しないでしょう? それと一緒だよ」
「なるほど」
言われてみれば確かにそうだ。家族がグループのトップ企業の経営者一族というだけで、ある種のフィルターを通して見られるのは気の毒だと思う。久慈なら全く別の会社に入っても評価を受けて上り詰めただろうに、紺華グループにいればどうしたって、親族だから優遇されているという話が出てきてしまう。
「まぁ、目の前の仕事を一生懸命やるだけだよ。職場に誠みたいに好きになれる人がいたのは嬉しい誤算だったけど」
「……結局そんな話に戻っちゃうんですね」
「それはそうでしょう。二人の旅行なんだから」
綺麗に微笑まれて頬に血が上る。お酒のせいにしたくて日本酒の瓶に手を伸ばせば、気づいた久慈が誠のグラスに注いでくれる。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。僕は使える男ですので、ぜひ好きになっていただけると嬉しい」
「……考えておきます」
好きじゃない相手と旅行になんて来ないだろうと思うが、照れるからクールを気取っておく。誠の気持ちを読んだように久慈も上機嫌だから、今はこれでいいのだろう。
露天風呂越しに広がる海を眺めながら、時間を気にすることなく食事を堪能した。小さな日本酒の瓶も空けてしまって、すっかり満足したところでスタッフが片付けに来てくれる。
「テレビで海の映像が観られるから、ちょっと流していいかな? 誠はそのまま眠ってくれていいから」