未来の次の恋
「う……」
若い欲望が止まる筈はなくて、開き直ったように激しく突かれ始めた。自分は彼が好きだ。この時間が幸せなのだと思い込もうとすればするほど、近未来の映像が鮮明になる。あいつなんか好きじゃなかったと言われて恋が終わる瞬間。過去の恋愛に比べれば惨事というほどでもない。だが過去一番傷つくことになると分かっている。映像はますます鮮明になって、痛みとともに誠を苦しめ続ける。誠に快感はやってこなくて、ただ彼が早く達してくれますようにと願っている。
「──……別れようか」
彼が吐き出して事が済んだところでそう言われた。付き合って二週間で、初デートがラブホテル。終わった途端に振られるなんて、それ以上惨めな恋愛があるだろうか。だが回避できないことだと分かっていたから、受け入れるしかなかった。もう振られているというのに律儀に予知の答え合わせはやってきて、数日後に追い打ちで傷つく羽目になる。
「……ったく、男と付き合えば面倒なくヤリまくれると思ったのに全然だったぜ。ヤってる間中辛そうにされて萎えるっての。ちょっと顔が綺麗だからって手を出して失敗した」
空き教室で偶然、彼が仲間とそんな風に話すのを聞いてしまった。いや、多分偶然ではなく、彼は誠が部屋の外にいると分かってわざと声のボリュームを上げたのだ。
「好きでもないのに付き合うなんて言うんじゃなかった。時間と金を無駄にした」
予知通りに続く言葉に耐え切れずに、走ってその場を去った若くて未熟な恋。短いわりに辛すぎて記憶から無意識に抹消していたのだ。
それがトラウマになったのか分からないが、社会人になってから、バーで出会った相手と一夜を共にすることはあっても、恋人に抱かれたことはなかった。恋愛自体が怖くなっていた。今となっては嘘だと分かる訳だが、里菜も「結婚するまでそういうことはしたくない」と言うタイプだったから、あの地獄のようなホテルの時間のあと、自分には恋人と夜を過ごすという経験がない。今更そんなことに気づいて、ザッと血の気が引くような感覚に襲われる。
久慈を受け入れようとすれば、また同じことが起こるのではないか。辛い未来を見ながら抱かれる地獄のような時間。
いや、誠が耐えて済むならまだいいのだ。久慈に嫌な思いをさせてしまったらどうしよう。誠が苦しむ姿に自分を責めてしまったら? それで嫌われてしまったら? 違う。まだ電話を繰り返す未来が来ていないし、久慈に振られるのは残暑が厳しい昼間の警察署前だ。それなら今日は無事に過ごせるのだろうか。考えすぎて訳が分からなくなって、鏡の下の棚に寄りかかるようにして座り込んでしまう。
「誠? どうした? 大丈夫?」
いつのまにかパウダールームの前に彼が立っていた。誠の様子に気づいて、傍にやってきて肩に触れる。
「……っ!」
恐怖に近い気持ちで、反射的にその手を払ってしまった。触れたら見てしまう。久慈との終わりのシーンを。きっと以前より鮮明に。見れば現実になってしまう。それが怖くて、今この現実で久慈に嫌われる態度を取っていることにまで頭が回らない。ただ恐ろしいものから逃れるように膝を抱いて震える。
「誠」
滅茶苦茶な誠に久慈が動じることはなかった。
「大丈夫。大丈夫だから。少し触るよ」
そう言ってそっと背中を撫でてくれた。一度びくりとしてしまったが、頭の中に映像が再生されることもなく、そのうち彼の手を感じることで一杯になる。
「一度深呼吸しようか。そう。大丈夫。ホテルの傍にクリニックがあるから診てもらうこともできる。だから何も心配はいらない」
身体の深い部分まで入り込むような声で繰り返されれば、誠も次第に落ち着きを取り戻していった。隣に座った彼が誠を寄りかからせてくれて、素直に身体を預ける。そうしていても予知の映像はやってこない。
「少し落ち着いたみたいだね。どう? 念のためクリニックに行こうか?」
「いえ、もう大丈夫です。すみません、いきなり」
「ううん。僕はいいんだけど。何か嫌なものでも見えてしまった?」
問われて咄嗟に嘘が浮かばないから、有りの侭を話すことにする。
「……昔の恋愛を思い出して。そしたら色々怖くなって」
若い欲望が止まる筈はなくて、開き直ったように激しく突かれ始めた。自分は彼が好きだ。この時間が幸せなのだと思い込もうとすればするほど、近未来の映像が鮮明になる。あいつなんか好きじゃなかったと言われて恋が終わる瞬間。過去の恋愛に比べれば惨事というほどでもない。だが過去一番傷つくことになると分かっている。映像はますます鮮明になって、痛みとともに誠を苦しめ続ける。誠に快感はやってこなくて、ただ彼が早く達してくれますようにと願っている。
「──……別れようか」
彼が吐き出して事が済んだところでそう言われた。付き合って二週間で、初デートがラブホテル。終わった途端に振られるなんて、それ以上惨めな恋愛があるだろうか。だが回避できないことだと分かっていたから、受け入れるしかなかった。もう振られているというのに律儀に予知の答え合わせはやってきて、数日後に追い打ちで傷つく羽目になる。
「……ったく、男と付き合えば面倒なくヤリまくれると思ったのに全然だったぜ。ヤってる間中辛そうにされて萎えるっての。ちょっと顔が綺麗だからって手を出して失敗した」
空き教室で偶然、彼が仲間とそんな風に話すのを聞いてしまった。いや、多分偶然ではなく、彼は誠が部屋の外にいると分かってわざと声のボリュームを上げたのだ。
「好きでもないのに付き合うなんて言うんじゃなかった。時間と金を無駄にした」
予知通りに続く言葉に耐え切れずに、走ってその場を去った若くて未熟な恋。短いわりに辛すぎて記憶から無意識に抹消していたのだ。
それがトラウマになったのか分からないが、社会人になってから、バーで出会った相手と一夜を共にすることはあっても、恋人に抱かれたことはなかった。恋愛自体が怖くなっていた。今となっては嘘だと分かる訳だが、里菜も「結婚するまでそういうことはしたくない」と言うタイプだったから、あの地獄のようなホテルの時間のあと、自分には恋人と夜を過ごすという経験がない。今更そんなことに気づいて、ザッと血の気が引くような感覚に襲われる。
久慈を受け入れようとすれば、また同じことが起こるのではないか。辛い未来を見ながら抱かれる地獄のような時間。
いや、誠が耐えて済むならまだいいのだ。久慈に嫌な思いをさせてしまったらどうしよう。誠が苦しむ姿に自分を責めてしまったら? それで嫌われてしまったら? 違う。まだ電話を繰り返す未来が来ていないし、久慈に振られるのは残暑が厳しい昼間の警察署前だ。それなら今日は無事に過ごせるのだろうか。考えすぎて訳が分からなくなって、鏡の下の棚に寄りかかるようにして座り込んでしまう。
「誠? どうした? 大丈夫?」
いつのまにかパウダールームの前に彼が立っていた。誠の様子に気づいて、傍にやってきて肩に触れる。
「……っ!」
恐怖に近い気持ちで、反射的にその手を払ってしまった。触れたら見てしまう。久慈との終わりのシーンを。きっと以前より鮮明に。見れば現実になってしまう。それが怖くて、今この現実で久慈に嫌われる態度を取っていることにまで頭が回らない。ただ恐ろしいものから逃れるように膝を抱いて震える。
「誠」
滅茶苦茶な誠に久慈が動じることはなかった。
「大丈夫。大丈夫だから。少し触るよ」
そう言ってそっと背中を撫でてくれた。一度びくりとしてしまったが、頭の中に映像が再生されることもなく、そのうち彼の手を感じることで一杯になる。
「一度深呼吸しようか。そう。大丈夫。ホテルの傍にクリニックがあるから診てもらうこともできる。だから何も心配はいらない」
身体の深い部分まで入り込むような声で繰り返されれば、誠も次第に落ち着きを取り戻していった。隣に座った彼が誠を寄りかからせてくれて、素直に身体を預ける。そうしていても予知の映像はやってこない。
「少し落ち着いたみたいだね。どう? 念のためクリニックに行こうか?」
「いえ、もう大丈夫です。すみません、いきなり」
「ううん。僕はいいんだけど。何か嫌なものでも見えてしまった?」
問われて咄嗟に嘘が浮かばないから、有りの侭を話すことにする。
「……昔の恋愛を思い出して。そしたら色々怖くなって」