未来の次の恋
彼との関係は問題なく進む。その思いに浸っていられたのはほんの一瞬だった。ずっと『患ってきた』予知の力は、嫌なしつこさで誠の人生に纏わりつく。
きっかけは久慈の電話だった。部屋に戻ってすぐ、親戚から電話が入ったと言って、誠に詫びてから彼が露天風呂の方に出てしまう。少し遅れて、誠を涼しい部屋に残して自分が外に出てくれたのだと気づいた。久慈の親戚ならただの親戚ではなく、仕事絡みの関係もあるのだろう。他人に聞かせられない内容があっても不思議ではない。この土日だって、本当はまだ予定があったのに空けてくれたのかもしれない。生まれ育った環境が違いすぎて想像することしかできないが、とにかく電話くらいで怒ったりしないということは伝えたい。長引きそうなら誠が部屋を出るから、彼に室内で話をしてほしい。
『ホテル内を見てきますから、中でゆっくり電話してください』
スマホにそう打って見せようかと画面に向かったところで、誠が気づくように久慈が手を振っているのに気づいた。顔を上げれば電話したまま彼が笑う。大した電話じゃないから部屋で寛いでいて。表情でそう言おうとしていることが伝わってくる。その様子が嬉しくて素直に従うことにした。見られているのも煩わしいだろうと思ったから、エントランスすぐのところにあるシャワールームを覗いてみる。タオルがビニールに入っているなら使いやすいように出しておこうか。マットも敷いておけば夜にバタバタすることもない。そうパウダールームの戸棚に近づいて、そこでふと、旅行に興味のない自分が何故そんなことを知っているのだと不思議になる。以前誰かとホテルに泊まったことがあっただろうか。誠の出不精を知っている光とではない。ならば一人? いや、誰かのために準備しておこうと思った記憶だ。里菜でもない。では誰だっただろう。思い出せないまま、大きな鏡の下の戸棚を開ける。
「あ……」
そこにあったグレーのタオルを見た瞬間思い出した。そうだ、あのときもグレーのタオルだった。もちろんこんな高級品ではなく安いざらざらとしたタオル。部屋の清掃が終わった印としてタオルをビニールに入れておくホテルだった。ああ、リゾートホテルなんかではなくラブホテルだ。すっかり忘れていたが、学生時代に二週間だけ付き合った男性がいた。もう名前も覚えていないが、一つ上の先輩だった。記憶が戻った瞬間、胸が嫌なリズムで騒ぎ始める。
予知が絡むものの中でも一、二を争うくらい嫌な思いをした恋愛だった。里菜の病気の嘘はともかく、能力を自覚するようになってからの恋愛はどこか達観していた。どうせ予知で見た通りに失恋するのだろう。ほら、やっぱり。そんな感じだったが、その二週間の恋愛は別の角度から誠を痛めつけた。記憶が鮮明になっていくにつれて、ますます鼓動は乱れていく。
最後には「お前なんか好きじゃなかった」と言われて別れると知っていた恋愛だった。それでも、たった一つの歳の差が嘘みたいに大人びた彼が好きだった。知的で女子たちの人気者だった彼に誘われたとき、何故自分なのだと思うよりも嬉しかった。だから初デートがホテルでも受け入れようと思ったのだ。彼が抱きたいと言うなら受け入れる。そう思ってついていった昼間のサービスタイムのホテル。
そこで耐えられない経験をした。痛みとか不快感ではない。行為中に予知の映像が鮮明に再生され続けたのだ。そうだ。中学で教師に身体を差し出したときも、行為中に予知の映像を見続ける羽目になった。惨事の映像に苦しみながら、愛されているのだと気持ちを誤魔化して抱かれていた。
思い出したところで回避できなくて、身体を差し出しながら中学時代と同じことを繰り返した。好きじゃなかった。付き合わなければよかった。時間を無駄にした。誠が好きになった知的で大人びた男の仮面が外れて、ただ勝手なだけの男が喚き立てる映像が脳内で流れ続ける。きっとこれはそう遠くない未来に現実になる。そう知りながら抱かれる時間は拷問だった。好きな相手に抱かれながら、別人のような本性を見る辛さは、きっと誰にも理解してもらえない。誠を抱くためにまだとても優しい彼が、中々盛り上がらない誠の身体に困ったように笑う。
「ごめん。まだこんなことはしたくなかったかな?」
問われて首を振った。行為が嫌な訳じゃない。ただ、見えてしまう。あなたに嫌な言葉を投げられて振られる未来が。そう話したところで信じてもらえる筈がない。
「嫌じゃないなら続けるよ」
「……っ」
ここでやめることはできないというように強引に侵入されて、圧迫感で壊れてしまいそうだった。経験は豊富らしく、丁寧に慣らしてくれたから傷はついていない。それでも腰の部分に鈍痛が広がって、どうか動かないでと願ってしまう。
「誠、ちょっと我慢していて」
きっかけは久慈の電話だった。部屋に戻ってすぐ、親戚から電話が入ったと言って、誠に詫びてから彼が露天風呂の方に出てしまう。少し遅れて、誠を涼しい部屋に残して自分が外に出てくれたのだと気づいた。久慈の親戚ならただの親戚ではなく、仕事絡みの関係もあるのだろう。他人に聞かせられない内容があっても不思議ではない。この土日だって、本当はまだ予定があったのに空けてくれたのかもしれない。生まれ育った環境が違いすぎて想像することしかできないが、とにかく電話くらいで怒ったりしないということは伝えたい。長引きそうなら誠が部屋を出るから、彼に室内で話をしてほしい。
『ホテル内を見てきますから、中でゆっくり電話してください』
スマホにそう打って見せようかと画面に向かったところで、誠が気づくように久慈が手を振っているのに気づいた。顔を上げれば電話したまま彼が笑う。大した電話じゃないから部屋で寛いでいて。表情でそう言おうとしていることが伝わってくる。その様子が嬉しくて素直に従うことにした。見られているのも煩わしいだろうと思ったから、エントランスすぐのところにあるシャワールームを覗いてみる。タオルがビニールに入っているなら使いやすいように出しておこうか。マットも敷いておけば夜にバタバタすることもない。そうパウダールームの戸棚に近づいて、そこでふと、旅行に興味のない自分が何故そんなことを知っているのだと不思議になる。以前誰かとホテルに泊まったことがあっただろうか。誠の出不精を知っている光とではない。ならば一人? いや、誰かのために準備しておこうと思った記憶だ。里菜でもない。では誰だっただろう。思い出せないまま、大きな鏡の下の戸棚を開ける。
「あ……」
そこにあったグレーのタオルを見た瞬間思い出した。そうだ、あのときもグレーのタオルだった。もちろんこんな高級品ではなく安いざらざらとしたタオル。部屋の清掃が終わった印としてタオルをビニールに入れておくホテルだった。ああ、リゾートホテルなんかではなくラブホテルだ。すっかり忘れていたが、学生時代に二週間だけ付き合った男性がいた。もう名前も覚えていないが、一つ上の先輩だった。記憶が戻った瞬間、胸が嫌なリズムで騒ぎ始める。
予知が絡むものの中でも一、二を争うくらい嫌な思いをした恋愛だった。里菜の病気の嘘はともかく、能力を自覚するようになってからの恋愛はどこか達観していた。どうせ予知で見た通りに失恋するのだろう。ほら、やっぱり。そんな感じだったが、その二週間の恋愛は別の角度から誠を痛めつけた。記憶が鮮明になっていくにつれて、ますます鼓動は乱れていく。
最後には「お前なんか好きじゃなかった」と言われて別れると知っていた恋愛だった。それでも、たった一つの歳の差が嘘みたいに大人びた彼が好きだった。知的で女子たちの人気者だった彼に誘われたとき、何故自分なのだと思うよりも嬉しかった。だから初デートがホテルでも受け入れようと思ったのだ。彼が抱きたいと言うなら受け入れる。そう思ってついていった昼間のサービスタイムのホテル。
そこで耐えられない経験をした。痛みとか不快感ではない。行為中に予知の映像が鮮明に再生され続けたのだ。そうだ。中学で教師に身体を差し出したときも、行為中に予知の映像を見続ける羽目になった。惨事の映像に苦しみながら、愛されているのだと気持ちを誤魔化して抱かれていた。
思い出したところで回避できなくて、身体を差し出しながら中学時代と同じことを繰り返した。好きじゃなかった。付き合わなければよかった。時間を無駄にした。誠が好きになった知的で大人びた男の仮面が外れて、ただ勝手なだけの男が喚き立てる映像が脳内で流れ続ける。きっとこれはそう遠くない未来に現実になる。そう知りながら抱かれる時間は拷問だった。好きな相手に抱かれながら、別人のような本性を見る辛さは、きっと誰にも理解してもらえない。誠を抱くためにまだとても優しい彼が、中々盛り上がらない誠の身体に困ったように笑う。
「ごめん。まだこんなことはしたくなかったかな?」
問われて首を振った。行為が嫌な訳じゃない。ただ、見えてしまう。あなたに嫌な言葉を投げられて振られる未来が。そう話したところで信じてもらえる筈がない。
「嫌じゃないなら続けるよ」
「……っ」
ここでやめることはできないというように強引に侵入されて、圧迫感で壊れてしまいそうだった。経験は豊富らしく、丁寧に慣らしてくれたから傷はついていない。それでも腰の部分に鈍痛が広がって、どうか動かないでと願ってしまう。
「誠、ちょっと我慢していて」