未来の次の恋
そう言われて行き先も聞かずにいたのを、当日後悔する羽目になった。近場で悪いけどと彼の車で連れてこられたのは高級リゾートホテルだった。それも専用露天風呂のついた広々としたツインルームなのだから御曹司は困る。オーシャンビュー露天風呂。デラックススイート。そんなもの、疲れた社会人の現実逃避の世界にしかないと思っていた。
「……この部屋一泊いくらするんですか?」
「野暮なことを聞くもんじゃないよ」
微笑まれて何も言えなくなった。普通にホテル代の半分は払うつもりでいたが、こっそりネットで一泊の料金を調べて諦めた。少し高めに考えていた料金の三倍だ。平然と誠の分まで払う気でいる彼の気が知れない。なるほど。普通のカップルには手の出ない部屋だから空いていた訳だ。流石に申し訳なくなるが、ここで帰ると言ったところで料金の支払いはなくならない。それなら素直に甘えようと開き直る。
一泊だから普通サイズのトートバッグだけという荷物を置いたあとで、室内を見て回った。高価な部屋にはしゃぐ素振りを見せずにクールでいようなどと、そんな見栄は久慈の前では意味がない。素直に貴重な体験を楽しもうと、リビングを進んだ先のガラス窓を出てみる。
「凄い。本当にこの部屋専用の露天風呂だ」
転落と覗き見防止用のフェンスは設置されているが、その向こうは海だ。四角い露天風呂の傍にサンベッドが二台置かれていて、入浴も景色を楽しむこともできるようになっている。露天風呂だけでなく、エントランスの傍にはシャワールームまであるから至れり尽くせりだ。
「流石、デラックススイートと名乗るだけのことはありますね」
「気に入った?」
「ちょっと恐れ多いかも……っ」
フェンスの前で海を見ていたところで聞かれて、振り向いた瞬間抱き寄せられた。強く抱きしめるのではなく、嫌なら逃げていいという力加減で手を出してくるのは卑怯だ。こっちがどうするか決めなくてはならないではないかと、そう思ってしまうのは我が侭だろうか。
「余計な気を遣わせないように初めに言っておくけど」
彼の肩に顎を乗せる姿勢で耳元に響く声が擽ったい。
「露天風呂に一緒に入ることも、一つのベッドで寝ることも強要しない」
強要しないと言われて、逆に想像して鼓動を速めてしまうのは何故だろう。
「気楽に楽しんで。僕の望みは、明日まで加村さんと一緒に過ごすことだけだから」
できれば逃亡しないでほしいと言われて笑ってしまう。
「こんないいホテルを取ってもらって逃亡なんて罰が当たります」
「うーん。そうじゃなくて、僕と一緒にいたいからと言ってほしいんだけど。でもまぁ、傍にいてくれるなら嬉しい」
「……!」
不意討ちで強く誠の身体を抱いた彼が、ぽんと頭に手を置いて離れていく。その引きの早さが不満だと思うのだから、今日は胸の中の我が侭ぶりが酷いと、自分に呆れてしまう。
「ビーチを散歩してみようか。まだこの時間は空いている筈だから」
誠の複雑な気持ちに気づかない彼が、さらりと切り替えて言う。
「この時間は空いている?」
まだ三時を過ぎたばかりで、窓の外には気持ちのいい青空が広がっている。逆ではないのか? と思った疑問は、実際ビーチまで歩いてみて簡単に解けた。夕方に向かって日差しが弱くなっていく時間とはいえ、まだまだ太陽は今日の分の力を失っていない。
「いいところの奥様、お嬢様方は、日差しが強いうちから屋根のない砂浜の散策なんてしないからね」
「なるほど」
痛いほどの日差しというほどではないし、湿度が低いから気持ちいいのだが、日焼けを気にする人間は避けておきたいだろう。
「加村さんも実は日焼けが嫌だったりする? それとも焼けないタイプかな?」
「普通に焼けるし、気にするタイプでもありません。単に出歩かないタイプなので。男性にしては白すぎだと思われているんでしょうけど」
「僕は好き」
「……この部屋一泊いくらするんですか?」
「野暮なことを聞くもんじゃないよ」
微笑まれて何も言えなくなった。普通にホテル代の半分は払うつもりでいたが、こっそりネットで一泊の料金を調べて諦めた。少し高めに考えていた料金の三倍だ。平然と誠の分まで払う気でいる彼の気が知れない。なるほど。普通のカップルには手の出ない部屋だから空いていた訳だ。流石に申し訳なくなるが、ここで帰ると言ったところで料金の支払いはなくならない。それなら素直に甘えようと開き直る。
一泊だから普通サイズのトートバッグだけという荷物を置いたあとで、室内を見て回った。高価な部屋にはしゃぐ素振りを見せずにクールでいようなどと、そんな見栄は久慈の前では意味がない。素直に貴重な体験を楽しもうと、リビングを進んだ先のガラス窓を出てみる。
「凄い。本当にこの部屋専用の露天風呂だ」
転落と覗き見防止用のフェンスは設置されているが、その向こうは海だ。四角い露天風呂の傍にサンベッドが二台置かれていて、入浴も景色を楽しむこともできるようになっている。露天風呂だけでなく、エントランスの傍にはシャワールームまであるから至れり尽くせりだ。
「流石、デラックススイートと名乗るだけのことはありますね」
「気に入った?」
「ちょっと恐れ多いかも……っ」
フェンスの前で海を見ていたところで聞かれて、振り向いた瞬間抱き寄せられた。強く抱きしめるのではなく、嫌なら逃げていいという力加減で手を出してくるのは卑怯だ。こっちがどうするか決めなくてはならないではないかと、そう思ってしまうのは我が侭だろうか。
「余計な気を遣わせないように初めに言っておくけど」
彼の肩に顎を乗せる姿勢で耳元に響く声が擽ったい。
「露天風呂に一緒に入ることも、一つのベッドで寝ることも強要しない」
強要しないと言われて、逆に想像して鼓動を速めてしまうのは何故だろう。
「気楽に楽しんで。僕の望みは、明日まで加村さんと一緒に過ごすことだけだから」
できれば逃亡しないでほしいと言われて笑ってしまう。
「こんないいホテルを取ってもらって逃亡なんて罰が当たります」
「うーん。そうじゃなくて、僕と一緒にいたいからと言ってほしいんだけど。でもまぁ、傍にいてくれるなら嬉しい」
「……!」
不意討ちで強く誠の身体を抱いた彼が、ぽんと頭に手を置いて離れていく。その引きの早さが不満だと思うのだから、今日は胸の中の我が侭ぶりが酷いと、自分に呆れてしまう。
「ビーチを散歩してみようか。まだこの時間は空いている筈だから」
誠の複雑な気持ちに気づかない彼が、さらりと切り替えて言う。
「この時間は空いている?」
まだ三時を過ぎたばかりで、窓の外には気持ちのいい青空が広がっている。逆ではないのか? と思った疑問は、実際ビーチまで歩いてみて簡単に解けた。夕方に向かって日差しが弱くなっていく時間とはいえ、まだまだ太陽は今日の分の力を失っていない。
「いいところの奥様、お嬢様方は、日差しが強いうちから屋根のない砂浜の散策なんてしないからね」
「なるほど」
痛いほどの日差しというほどではないし、湿度が低いから気持ちいいのだが、日焼けを気にする人間は避けておきたいだろう。
「加村さんも実は日焼けが嫌だったりする? それとも焼けないタイプかな?」
「普通に焼けるし、気にするタイプでもありません。単に出歩かないタイプなので。男性にしては白すぎだと思われているんでしょうけど」
「僕は好き」