未来の次の恋
久慈とプライベートで会うことを繰り返しながら、光にはずっとそれを言えずにいた。土曜の昼に治療院に行き、夜から久慈と食事に行ったり日曜に会うことを続けている。
「報告は僕たちの関係がしっかりしたものになってからでもいいと思うしね」
久慈はそう言ってくれるが、それは誠への気遣いだと分かっていた。仕事もプライベートも一つ一つきちんと片付けていくタイプの彼だ。騙すような真似はきっと性に合わない。光にきちんと報告したいのが本音だろう。そう思いながら、やはり光に話すのは気が進まなかった。光は誠に甘いから、俺のアドバイスを無視するのかと怒ることはない。それよりも、俺もお前ら二人の未来が見えてしまったと言われるのが怖かった。誠よりも能力が高いのだ。誠が起こすであろう罪や久慈の心変わりまで予知されれば、その通りになってしまいそうで怖い。
幸い誠の方は、久慈の傍にいても予知の映像を見ることはなくなった。望みはただ平穏に久慈の傍にいることだけ。どうかそんな些細な願いまで奪わないでくれと、誰にだか分からない祈りを抱えて過ごす日々が続く。
暑い日が続いて、今週末から多くの企業でお盆休暇という時期に入っていた。紺華バリューはカレンダー通り営業するが、仕事が少ないのでお盆明けまで自由に連休を取っていいことになっている。
誠は毎年出勤を選んでいた。雑務や書庫整理に丁度いいし、コールのスタッフが足りないときはヘルプに入ると喜ばれる。実家に顔を出して、苦手な両親に形だけのもてなしを受けるより余程有意義だ。毎年一時間だけ帰るようにしていたが、今年はそれもやめることにした。嫌いなものは嫌いでいい。そう思えるようになって、自分の気持ちを優先しようと思えた。誠の本音は実家になど行きたくない。「お盆に帰らないのか?」と光に聞かれて、「もう無理をするのはやめた」と返せば、彼は一言「そうか」と言った。聡い彼だ。多く語らなくても誠の気持ちなら分かっている。分かっていたから、誠と同じ日に帰って両親との仲を取り持とうとしてくれた。誠が帰るのをやめれば、光のそんな負担も減らしてやれる。
「帰らないとはっきり言うのは珍しいな。何かあったか?」
施術を受けながらそう聞かれて、本当は話してしまいたかった。久慈とお試しの恋人になったこと。彼の傍にいると気持ちが安定して自分を好きになれること。恋に夢中になったとき、誰かに聞いてほしいと思うごく普通の感情。けれど誠と光は少し事情が違うから簡単に話すことはできない。今後久慈との関係が揺るぎないものになって、予知の未来を超えたと思えたときに打ち明ければいい。一年後か三年後か分からないが、それなら光も祝福してくれる。それより自分たちはまだお試し期間なのだ。そこから普通の恋人になるにはどうしたらいいのだろう。やはり誠が恋人にしてくださいと言うべきだろうか。それはハードルが高い。穴あきベッドに俯せて顔が見えないのをいいことに、そんなことに悩んで頬を染める。
「前も言ったけど、来週は休みにするから。身体を解してほしいなら俺の部屋に来い」
「ううん。兄さんもせっかくのお休みだからゆっくりして。また再来週来るよ」
お盆期間中は光の治療院も休みを取ることになっていた。
「車出すから、どこか行くか? 大きな買いものとかないのか?」
過保護な彼の台詞にチクリと胸が痛む。
「ありがとう。でも大丈夫。好きなだけ食べて寝る週末にするよ。外部からの連絡は全部シャットアウトして、一人の世界に籠もる予定だから」
「何若者みたいなことを言っているんだ」
「俺はまだ若いでしょう?」
「まぁ、そうだけど。じゃあ、再来週は不摂生でガチガチになった身体を解すことになりそうだな。痛いぞ」
「そこは腕でカバーしてよ」
そんなやりとりができたことに安堵した。気づかないフリをしてくれているのかもしれないが、二人でお昼を食べて、誠と駅で別れるまで彼は何も言わない。勘の鋭い彼に気づかれて反対されたらどうしようと思っていたが、そうならずに済んでよかった。昼間もそれなりに混んでいる電車に揺られて帰りながら、ほっと胸を撫で下ろす。実は光に言えない旅行の予定が入っているのだ。
もうずっと土曜は光のところに通っていて、彼に会わないのは年に二、三度。来週はその珍しい土曜日なのだと言ったら、久慈が旅行に行こうと言い出した。お盆真っ只中は先祖のお墓参りや親戚への挨拶回りで忙しいが、最後の土日は空いているという。
「もうどこも予約で埋まっていますよ」
照れ隠しでそう返したが、じっくり考えてみても八月に入ってからお盆休みの宿が取れるとは思わない。
「いや、取れる。当てがあるから任せてくれる?」
「報告は僕たちの関係がしっかりしたものになってからでもいいと思うしね」
久慈はそう言ってくれるが、それは誠への気遣いだと分かっていた。仕事もプライベートも一つ一つきちんと片付けていくタイプの彼だ。騙すような真似はきっと性に合わない。光にきちんと報告したいのが本音だろう。そう思いながら、やはり光に話すのは気が進まなかった。光は誠に甘いから、俺のアドバイスを無視するのかと怒ることはない。それよりも、俺もお前ら二人の未来が見えてしまったと言われるのが怖かった。誠よりも能力が高いのだ。誠が起こすであろう罪や久慈の心変わりまで予知されれば、その通りになってしまいそうで怖い。
幸い誠の方は、久慈の傍にいても予知の映像を見ることはなくなった。望みはただ平穏に久慈の傍にいることだけ。どうかそんな些細な願いまで奪わないでくれと、誰にだか分からない祈りを抱えて過ごす日々が続く。
暑い日が続いて、今週末から多くの企業でお盆休暇という時期に入っていた。紺華バリューはカレンダー通り営業するが、仕事が少ないのでお盆明けまで自由に連休を取っていいことになっている。
誠は毎年出勤を選んでいた。雑務や書庫整理に丁度いいし、コールのスタッフが足りないときはヘルプに入ると喜ばれる。実家に顔を出して、苦手な両親に形だけのもてなしを受けるより余程有意義だ。毎年一時間だけ帰るようにしていたが、今年はそれもやめることにした。嫌いなものは嫌いでいい。そう思えるようになって、自分の気持ちを優先しようと思えた。誠の本音は実家になど行きたくない。「お盆に帰らないのか?」と光に聞かれて、「もう無理をするのはやめた」と返せば、彼は一言「そうか」と言った。聡い彼だ。多く語らなくても誠の気持ちなら分かっている。分かっていたから、誠と同じ日に帰って両親との仲を取り持とうとしてくれた。誠が帰るのをやめれば、光のそんな負担も減らしてやれる。
「帰らないとはっきり言うのは珍しいな。何かあったか?」
施術を受けながらそう聞かれて、本当は話してしまいたかった。久慈とお試しの恋人になったこと。彼の傍にいると気持ちが安定して自分を好きになれること。恋に夢中になったとき、誰かに聞いてほしいと思うごく普通の感情。けれど誠と光は少し事情が違うから簡単に話すことはできない。今後久慈との関係が揺るぎないものになって、予知の未来を超えたと思えたときに打ち明ければいい。一年後か三年後か分からないが、それなら光も祝福してくれる。それより自分たちはまだお試し期間なのだ。そこから普通の恋人になるにはどうしたらいいのだろう。やはり誠が恋人にしてくださいと言うべきだろうか。それはハードルが高い。穴あきベッドに俯せて顔が見えないのをいいことに、そんなことに悩んで頬を染める。
「前も言ったけど、来週は休みにするから。身体を解してほしいなら俺の部屋に来い」
「ううん。兄さんもせっかくのお休みだからゆっくりして。また再来週来るよ」
お盆期間中は光の治療院も休みを取ることになっていた。
「車出すから、どこか行くか? 大きな買いものとかないのか?」
過保護な彼の台詞にチクリと胸が痛む。
「ありがとう。でも大丈夫。好きなだけ食べて寝る週末にするよ。外部からの連絡は全部シャットアウトして、一人の世界に籠もる予定だから」
「何若者みたいなことを言っているんだ」
「俺はまだ若いでしょう?」
「まぁ、そうだけど。じゃあ、再来週は不摂生でガチガチになった身体を解すことになりそうだな。痛いぞ」
「そこは腕でカバーしてよ」
そんなやりとりができたことに安堵した。気づかないフリをしてくれているのかもしれないが、二人でお昼を食べて、誠と駅で別れるまで彼は何も言わない。勘の鋭い彼に気づかれて反対されたらどうしようと思っていたが、そうならずに済んでよかった。昼間もそれなりに混んでいる電車に揺られて帰りながら、ほっと胸を撫で下ろす。実は光に言えない旅行の予定が入っているのだ。
もうずっと土曜は光のところに通っていて、彼に会わないのは年に二、三度。来週はその珍しい土曜日なのだと言ったら、久慈が旅行に行こうと言い出した。お盆真っ只中は先祖のお墓参りや親戚への挨拶回りで忙しいが、最後の土日は空いているという。
「もうどこも予約で埋まっていますよ」
照れ隠しでそう返したが、じっくり考えてみても八月に入ってからお盆休みの宿が取れるとは思わない。
「いや、取れる。当てがあるから任せてくれる?」