未来の次の恋
責める感じではなく、さらりとした声音がありがたかった。正直、いつ突っ込まれるかとびくびくしていた。だが責めることも強要することもしないというような空気に、誠もまた一つ本音を話そうと思う。
「受け売りで恥ずかしいんですけど、前にテレビに出ていた大御所タレントさんが言っていたんですよね。電話は出ることを強制するツールだから好きじゃないって。それを聞いてその通りだなって思って。緊急のとき以外は使わない方がいいのかなって」
「なるほど。相手を思ってのことだね」
久慈はいつも否定しないから話しやすい。
「でも僕にそんな気遣いは不要だよ。出られないときは出ないけど、そうじゃないときは加村さんからの電話は大歓迎だから。今まであまり電話しなかった加村さんが、僕には特別に電話をしてくれる。考えただけで嬉しくなる」
「最初だけですよ。そのうちウザくなります」
「そんなことないよ。何度掛けてくれても加村さんなら嬉しい」
まだ久慈との恋愛に自信が持てない誠の内面を見透かしたように、鋭い視線を向けてくるから狡いと思う。そうされると誠は、彼の言葉を信じて甘えざるを得なくなる。
「……エスカレートして何度も掛け続けて、最後には困り果てた久慈さんが警察に相談する。それが久慈さんと俺の惨事です。だから少しでもその可能性を減らしておきたくて。なるべく電話は使いたくないんです」
本音の本音を白状すれば、流石に彼がカトラリーを置いた。
「すみません。せっかくのランチ中に」
「ううん」
久慈には一度一通り話しているが、今繰り返すことではなかったと慌てた。だが向かいの彼は落ち着き払って誠を見据えるだけだ。
「一通り加村さんの予知の話を聞かせてもらって、僕も一週間考えてみたんだけど。今まで予知のことを白状してから付き合った人はいなかったんじゃないかな?」
「はい。気味悪がられると思ったし、予知が正解だったと分かるのは、酷い目に遭って別れたあとなので」
ざっと過去を思い返しながら答えれば、久慈が目許を和らげる。
「じゃあ、大丈夫なんじゃないかな。事前に白状してしまったことで予知の力は途切れた。だから惨事は起こらない。加村さんは安心して俺の恋人でいればいい」
「……まだお試し期間中ですが」
「おっと、手厳しいね。加村さんが気づかないうちに洗脳していくつもりだったのに」
少しだけ予知の不安から逃れて言えば、彼も軽口で返してくる。
「とにかく、僕が加村さんを嫌うことがないって分かるまで何度でも掛けてきて。予知に行動を制限されるなんておかしいでしょう? 大丈夫。沢山鳴らされれば、それだけ僕のことが好きなんだなって嬉しくなるから」
「ありがとうございます」
言葉通りに何度も掛けることはないと思うが、そのやり取りに救われた。不必要に怯えなくてもいいのかもしれない。そう思えるようになる。
その後は他愛もないお喋りをして、デザートの小さなケーキまで堪能した。久慈が譲れないと言うのでその日もありがたくご馳走になって、こぢんまりとしたレストランを出る。
「これ、お客様に配るようにお願いされているんですけど、よかったらどうぞ」
会計をしてくれた女性店員がチラシを二枚くれた。
「ありがとうございます」
誠が受け取って礼を言い、それを眺めながら職場ビルへと帰っていく。動物の写真が沢山載ったチラシは、来月から近所にやってくるサーカス公演のものらしい。
「加村さん、サーカスは好き?」
覗き込んだ彼に聞かれて少し困った。実は誠はサーカスというものが昔から苦手だ。舞台でにこにこと笑っている団員たちが、裏では血の滲むような訓練をしていると何かの番組で見てから怖くなった。それに、本当の顔が分からなくなるほど顔に色を塗ったピエロの存在も受けつけない。だがもし二人で行こうと誘われたら、恋人ならうんと言うものだろうか。一度断れば気軽に誘ってくれなくなるだろうかと考えてしまって、答えを返すのが遅れてしまう。
「僕はサーカスって駄目なんだ」
だが久慈はあっさりと言った。
「意外です。久慈さんならなんでも楽しんでしまいそうなのに」
「うん。基本的にはそうなんだけど、動物に有無を言わせず必要以上の訓練をさせる様子が苦手でね。もちろん全否定はしないし、好きな人は好きでいいと思うけど、自分は見に行かないかなって」
「受け売りで恥ずかしいんですけど、前にテレビに出ていた大御所タレントさんが言っていたんですよね。電話は出ることを強制するツールだから好きじゃないって。それを聞いてその通りだなって思って。緊急のとき以外は使わない方がいいのかなって」
「なるほど。相手を思ってのことだね」
久慈はいつも否定しないから話しやすい。
「でも僕にそんな気遣いは不要だよ。出られないときは出ないけど、そうじゃないときは加村さんからの電話は大歓迎だから。今まであまり電話しなかった加村さんが、僕には特別に電話をしてくれる。考えただけで嬉しくなる」
「最初だけですよ。そのうちウザくなります」
「そんなことないよ。何度掛けてくれても加村さんなら嬉しい」
まだ久慈との恋愛に自信が持てない誠の内面を見透かしたように、鋭い視線を向けてくるから狡いと思う。そうされると誠は、彼の言葉を信じて甘えざるを得なくなる。
「……エスカレートして何度も掛け続けて、最後には困り果てた久慈さんが警察に相談する。それが久慈さんと俺の惨事です。だから少しでもその可能性を減らしておきたくて。なるべく電話は使いたくないんです」
本音の本音を白状すれば、流石に彼がカトラリーを置いた。
「すみません。せっかくのランチ中に」
「ううん」
久慈には一度一通り話しているが、今繰り返すことではなかったと慌てた。だが向かいの彼は落ち着き払って誠を見据えるだけだ。
「一通り加村さんの予知の話を聞かせてもらって、僕も一週間考えてみたんだけど。今まで予知のことを白状してから付き合った人はいなかったんじゃないかな?」
「はい。気味悪がられると思ったし、予知が正解だったと分かるのは、酷い目に遭って別れたあとなので」
ざっと過去を思い返しながら答えれば、久慈が目許を和らげる。
「じゃあ、大丈夫なんじゃないかな。事前に白状してしまったことで予知の力は途切れた。だから惨事は起こらない。加村さんは安心して俺の恋人でいればいい」
「……まだお試し期間中ですが」
「おっと、手厳しいね。加村さんが気づかないうちに洗脳していくつもりだったのに」
少しだけ予知の不安から逃れて言えば、彼も軽口で返してくる。
「とにかく、僕が加村さんを嫌うことがないって分かるまで何度でも掛けてきて。予知に行動を制限されるなんておかしいでしょう? 大丈夫。沢山鳴らされれば、それだけ僕のことが好きなんだなって嬉しくなるから」
「ありがとうございます」
言葉通りに何度も掛けることはないと思うが、そのやり取りに救われた。不必要に怯えなくてもいいのかもしれない。そう思えるようになる。
その後は他愛もないお喋りをして、デザートの小さなケーキまで堪能した。久慈が譲れないと言うのでその日もありがたくご馳走になって、こぢんまりとしたレストランを出る。
「これ、お客様に配るようにお願いされているんですけど、よかったらどうぞ」
会計をしてくれた女性店員がチラシを二枚くれた。
「ありがとうございます」
誠が受け取って礼を言い、それを眺めながら職場ビルへと帰っていく。動物の写真が沢山載ったチラシは、来月から近所にやってくるサーカス公演のものらしい。
「加村さん、サーカスは好き?」
覗き込んだ彼に聞かれて少し困った。実は誠はサーカスというものが昔から苦手だ。舞台でにこにこと笑っている団員たちが、裏では血の滲むような訓練をしていると何かの番組で見てから怖くなった。それに、本当の顔が分からなくなるほど顔に色を塗ったピエロの存在も受けつけない。だがもし二人で行こうと誘われたら、恋人ならうんと言うものだろうか。一度断れば気軽に誘ってくれなくなるだろうかと考えてしまって、答えを返すのが遅れてしまう。
「僕はサーカスって駄目なんだ」
だが久慈はあっさりと言った。
「意外です。久慈さんならなんでも楽しんでしまいそうなのに」
「うん。基本的にはそうなんだけど、動物に有無を言わせず必要以上の訓練をさせる様子が苦手でね。もちろん全否定はしないし、好きな人は好きでいいと思うけど、自分は見に行かないかなって」