未来の次の恋

「僕の気持ちはともかくってなんですか」
「ふふ。そのままの意味でしょう? それよりさっきのホテルスタッフは知り合いだったのかな?」
 軽口に誤魔化されてはくれなかった。誠に声を掛ける少し前から見ていたらしい。少し迷ったが、元恋人の話をしたところで予知のことまで知られる訳ではないと気づいて、半分だけ話すことにした。彼ならどう思うか聞いてみたい。
「以前付き合っていた恋人だったんです。余命宣告されるような病気になったから別れてほしいと言われて、一方的に俺の前から消えてしまって」
 彼女を恋人に選んだ理由は隠して、ざっと付き合ってから別れるまでの話をしてやった。
「名字が変わっていたから、結婚したんだと思います。医師の宣告が外れて元気になったのかもしれないですけど、そうでなければ俺に嘘を吐いていたんだろうなって」
「なるほど」
 ありがたいことに久慈は冷静だった。
「今時のお医者さんが的外れなことを言うとは思えないし、多分加村さんの悪い推測の方が当たっていると思うけど。でもあまり怒っている感じでもないね」
「はい。怒りは全くなくて。でも一応真相だけ知っておきたいというか」
 そこは久慈に上手く伝えるのに苦労した。誠の本音は、寧ろ彼女の病気が嘘であってほしいと思っている。病気が嘘なら、少なくても彼女との恋愛では予知を外していたと証明できるから。だがそれを久慈に明かす訳にはいかない。
「事実を知ってスッキリしておきたいと思ったんです。彼女たちに危ない客扱いされたみたいですから、調べようもないんですけど」
「調べようか?」
「え?」
 自虐気味に言って話を終わらせようとすれば、彼があっさりと言う。
「調べるってどうやって」
「僕は色々なグループにオトモダチがいるから」
 それは多分、言葉通り友達という意味ではない。そうだ。時々忘れそうになるが、久慈はかなり立場の強い人間なのだ。
「情報の不正入手になるんじゃ……」
「たまたま僕の友人が加村さんの元恋人の情報を知っていて、世間話のつもりで話してくれた、ということなら問題ないでしょう?」
 それはそうだが、実際は調べるのだろうから色々想像して怖くなる。紺華レンタルとの話し合いのときにも思ったが、彼は敵に回さない方がいい。
「少しだけ時間をちょうだい。彼女の感情面は無理だけど、事実だけならそう手間は掛からないから」
「……じゃあ、お願いします」
 彼の勢いに押されるようにそう応えてしまう。
「了解。じゃあ、会社に戻ろうか」
 久慈が先に立ち上がって言った。
「本音はいつまでも加村さんとこうしていたいけど、仕事も残っているしね」
 また誠を惑わすようなことを言う彼に、少しだけ泣きたい気分になった。食べてはいけないのに目の前に並べられる綺麗なお菓子みたいだ。
「休憩させてもらってありがとうございました」
「どういたしまして。あ、でも体調が悪いなら、加村さんは今日は直帰でいいよ。今日中の発送は僕がやっておくから」
「いえ。もう大丈夫です」
「そう」
 誠の言葉をそのまま受け入れてくれる彼に、また少し好意を積み重ねる。
「でも無理はしないで。しんどいときは頼ってね」
 大通りに向かう道で一度振り向いて笑う彼に、お願いだからそんな優しげに笑わないでくれと思う。だが本音の本音は、会社では見せないそんな顔を向けられるのが嬉しい。一線設定が崩されるのも時間の問題だろうなと、心のどこかで思っていた。
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