未来の次の恋

 最初は保育園の頃だった。
 夏に変則的に入園してきた男の子を好きになった。まだ同性を好きになることがタブーだと知る前だったのだ。子どもながらに男らしい子で、楽しい遊びを沢山知っていて、毎日二人で遊ぶようなった。彼も誠を可愛いと思ってくれていたと思う。ジャングルジムの影に隠れて、誰にも見つからずに二人で話す時間が幸せな時間だった。
 その彼に初めて誠の力が働いた。見えたのは病室のベッドにいる彼と、動かない彼の前で涙を流す自分。彼と二人でいるときに時々現れて、回を重ねるごとにはっきりとしていく。その映像が秋には現実になって、年が変わる前に彼は亡くなった。お葬式に連れていってもらったが、まだ死というものをきちんと理解できなくて、明日になればまた会えるのではないかと思っていた。
 二番目は小学生だ。初めてこれが恋だと自覚した男の子だった。彼も同じ気持ちでいることが分かったけれど、その頃には二人の恋は隠さなければならない種類のものだと分かっていた。だから二人だけの秘密。教室ではわざと仲が悪いように振る舞う。そんな細工が擽ったかった。その彼もいなくなった。父親の商売が上手くいかなくなって夜逃げをしたと、母親たちの噂話で聞いた。誠に別れの言葉の一つもなかったが、予知の映像で見ていたから絶望はなかった。ああ、これかと思って、その頃ぼんやりと自分の能力を自覚したのだ。
 中学で密かな恋をした教師には初めて抱かれた。こんな大人が一生徒を本気で好きになる筈がないと知りながら、誠は本気で好きになった。今となっては馬鹿みたいな話だが、「ちゃんと男を抱く方法を知っている」と言った彼が酷く魅力的に見えていたのだ。
 能力のせいで彼に抱かれる時間は辛いものになるのだが、それでも求めてくれるなら身体を差し出したいと思った。流石に挿入まではされなかったが、生物準備室で触れられる時間。ホテルすら取らないのも、移動の時間が惜しいほど求められているのだと信じていた未熟な恋。
 その彼は横領がバレて懲戒解雇になった。ギャンブルや夜遊びで散財していたという。新聞の小さな記事に『風俗通いがやめられなかった』と書いてあって、誠を抱いたのは単にお金が掛からなかったからだと知った。苦い経験だが、彼を好きな気持ちはなかなか消えず、しばらく引きずった。
 その後高校で付き合った隣のクラスの男子は、修学旅行の温泉でクラスメイトの裸を見て勃起した。その噂で誰からも口を利いてもらえなくなって転校していった。電話もメールもいくらでも相手と連絡を取れるようになっていた時期だが、恋人の自分以外に身体を反応させた彼が許せなくて、誠も彼をシャットアウトした。いなくなったタイミングで連絡先をブロックしてそれきり。それも事前に予知で見ていたことだ。
 そんな予知と悲惨な恋愛を繰り返して、二十代半ばでふと、あることを思った。
 どうやら自分は同性が好きな質らしい。でも恋愛は普通異性とする。もしかしたら、おかしな能力は普通と違う恋愛を続ける自分への戒めなのではないか。女性と恋愛をすれば平気なのではないか。そう思ったところにタイミングよく、誠のアンテナに引っ掛かる女性が現れた。込山里菜こみやまりなという彼女は二つ歳下で、グループ会社の紺華ホテルズに勤務していた。会社の交流会で知り合った彼女に好きだと言われて、予知のことは黙って付き合った。女性と付き合うのは初めてだったが、精一杯恋人として振る舞った。付き合う前に、予知で彼女に別れを告げられる自分の姿は見ていた。だが普通の恋人も喧嘩して別れようと言い合うことくらいある。具体的なシーンは見ていないから大丈夫だと思った。正直、本気で好きだったのかと言われれば即答できない。それでも彼女を可愛いと思ったし、彼女となら普通の人生を送れるのではないかと期待した。
 だが予知の答え合わせはやってきた。彼女は病気で余命が残り僅かだと言う。それなら最期まで傍にいたいと言ったが、弱っていく姿を見られたくないからもう会いたくないと返された。なんの病気なのかも告げず、彼女は誠と連絡を絶って姿を消した。病気の詳細を告げられないほど男として未熟に見えたのかと思えば情けなかった。もしかしたら自分が予知から逃れるために利用しようとしたから病気になったのではないか。そう思えば怖くなって、そのときもう恋愛をするのをやめようと思った。自分は恋愛をしてはいけない星の下に生まれてきた。恋愛以外に楽しいことを見つけて生きていこう。そう決めてこの三年間やってきた。それなのにここにきて性懲りもなく久慈に惹かれている。
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