未来の次の恋
ああ、どこまでも爽やかな男で嫌になる。客先でも支障がない程度に茶色がかった髪が、窓から入る陽の光を反射している。奥二重の誠には、彼のきちんとした二重がどうにも魅力的に見えてしまう。意思が強そうで、人の心の奥まで見透かしてしまいそうに鋭くなったかと思えば、相手の警戒心を解くようにふわりと細められたりもする。
伊達眼鏡を掛け直してデスクに戻れば、隣のデスクの彼も当然ついてくる。
「悪い。今週来週とちょっとバタバタしそうなんだ。とりあえず今週も加村に仕事を教わっていてくれるか?」
そう悪魔のようなことを言って去っていく名倉に文句を言う気にもなれずに、仕事に入ることにする。
「朝は俺も少しバタバタするので、会社の資料を読んで待っていてくれますか?」
「よければそのバタバタに付き合うよ。やらなきゃいけないことを教えてくれる?」
彼がそう言うから、タスクを全て読み上げてみる。
「来週の来客予定表を見て駐車場の確保から。うちに割り当てられた駐車場は五台ですけど、四番五番は運送会社さんのために基本的に開けておくから、時間差で来客に割り当てて、決まったら相手方の秘書に電話連絡。了承を得たらうちの秘書室に報告。来週の来客は二十件の予定」
「分かった。じゃあ、相手の会社に電話をしてしまうね。リストを貰える?」
彼は一度で理解して、あっさりと電話連絡に入ってしまった。この間と同じように大袈裟でも見栄でもなく、さらりと業務を片付けていく。何も言っていないのに、来社理由から優先順位をつけることもやってのけて、相手方と上手く交渉を済ませてしまう。
「よかった。掛け直しもなく全部繋がった。余裕を持って駐車場スケジュールを組んだから、慌ただしくもならないと思うよ」
「……それはどうも」
完璧に熟して微笑まれれば、そっけない態度を取る訳にもいかなくなるから困りものだ。
とにかく彼のお陰でバタバタする必要がなくなって、その後二人で郵送物の仕分けに掛かることになった。
「すみません。こんな単純作業まで」
「前も言ったでしょう? この会社で働いている以上、やらなくていい仕事なんてないよ」
器の大きな男で困ってしまう。
大量に送られてきた郵便物を仕分けして、発送部屋の壁に並んでいる部署毎のロッカーに入れておく。単純作業だが、書留なら郵便局がくれる書類と封筒の数が合わなければならないから神経を使う。手分けして封筒を数えていれば、発送部屋の入り口にコール部門のリーダーの真壁という男がやってきた。
「加村、悪いんだけど受電に入ってくれないか?」
「どうした? 一気に掛かってきた感じ?」
「いや。元から有休が多い上に当欠も二人出ているんだ。頼む」
紺華バリューのコールセンターは顧客の話を親身なって聞き、世間話にも快く応じる。それも密かな売りの一つなのだ。会社として、せっかく掛けてきてくれた電話を取れずに落とすことは避けたい。
「分かった。ここが終わったらすぐ行く」
「いえ、ここの仕事は僕がやっておきますよ」
一旦手元の作業に戻ろうとした誠に、久慈が声を掛けてくれる。
「でも」
「大丈夫。書留の数を誤魔化すようなことも、間違って他の部署のロッカーに入れるようなこともしないから」
うん。あなたならしないでしょうね。そう思ったから素直にコール部門に向かうことにした。手が空けば久慈は名倉のところに行くだろう。そもそも本来は管理者業務を習う立場なのだ。そんなことを頭の片隅で考えながら、コール部門の空いている席に座ってヘッドセットをつける。待ち呼ランプが点滅しているのを見れば、これを早く解消しなければと気持ちがしゃんとする。
二十分休みなく電話を受けたが、なかなか待ち呼ランプが消えなかった。紺華バリューカードは客層が客層だから、クレームも嫌な態度を取る顧客もほとんどいない。ただどんなに電話が続いても、今話している顧客の話を大事に聞かなければならないし、面倒だとか早く切り上げようなどと考えてはいけない。誠にスクリプトや資料を出してくれてから、真壁も受電に入っている。やはり今日はオペレーターの数が少ない。受電と受電の合間にそんなことを思って、またすぐにスタンバイをする。
「……!」
伊達眼鏡を掛け直してデスクに戻れば、隣のデスクの彼も当然ついてくる。
「悪い。今週来週とちょっとバタバタしそうなんだ。とりあえず今週も加村に仕事を教わっていてくれるか?」
そう悪魔のようなことを言って去っていく名倉に文句を言う気にもなれずに、仕事に入ることにする。
「朝は俺も少しバタバタするので、会社の資料を読んで待っていてくれますか?」
「よければそのバタバタに付き合うよ。やらなきゃいけないことを教えてくれる?」
彼がそう言うから、タスクを全て読み上げてみる。
「来週の来客予定表を見て駐車場の確保から。うちに割り当てられた駐車場は五台ですけど、四番五番は運送会社さんのために基本的に開けておくから、時間差で来客に割り当てて、決まったら相手方の秘書に電話連絡。了承を得たらうちの秘書室に報告。来週の来客は二十件の予定」
「分かった。じゃあ、相手の会社に電話をしてしまうね。リストを貰える?」
彼は一度で理解して、あっさりと電話連絡に入ってしまった。この間と同じように大袈裟でも見栄でもなく、さらりと業務を片付けていく。何も言っていないのに、来社理由から優先順位をつけることもやってのけて、相手方と上手く交渉を済ませてしまう。
「よかった。掛け直しもなく全部繋がった。余裕を持って駐車場スケジュールを組んだから、慌ただしくもならないと思うよ」
「……それはどうも」
完璧に熟して微笑まれれば、そっけない態度を取る訳にもいかなくなるから困りものだ。
とにかく彼のお陰でバタバタする必要がなくなって、その後二人で郵送物の仕分けに掛かることになった。
「すみません。こんな単純作業まで」
「前も言ったでしょう? この会社で働いている以上、やらなくていい仕事なんてないよ」
器の大きな男で困ってしまう。
大量に送られてきた郵便物を仕分けして、発送部屋の壁に並んでいる部署毎のロッカーに入れておく。単純作業だが、書留なら郵便局がくれる書類と封筒の数が合わなければならないから神経を使う。手分けして封筒を数えていれば、発送部屋の入り口にコール部門のリーダーの真壁という男がやってきた。
「加村、悪いんだけど受電に入ってくれないか?」
「どうした? 一気に掛かってきた感じ?」
「いや。元から有休が多い上に当欠も二人出ているんだ。頼む」
紺華バリューのコールセンターは顧客の話を親身なって聞き、世間話にも快く応じる。それも密かな売りの一つなのだ。会社として、せっかく掛けてきてくれた電話を取れずに落とすことは避けたい。
「分かった。ここが終わったらすぐ行く」
「いえ、ここの仕事は僕がやっておきますよ」
一旦手元の作業に戻ろうとした誠に、久慈が声を掛けてくれる。
「でも」
「大丈夫。書留の数を誤魔化すようなことも、間違って他の部署のロッカーに入れるようなこともしないから」
うん。あなたならしないでしょうね。そう思ったから素直にコール部門に向かうことにした。手が空けば久慈は名倉のところに行くだろう。そもそも本来は管理者業務を習う立場なのだ。そんなことを頭の片隅で考えながら、コール部門の空いている席に座ってヘッドセットをつける。待ち呼ランプが点滅しているのを見れば、これを早く解消しなければと気持ちがしゃんとする。
二十分休みなく電話を受けたが、なかなか待ち呼ランプが消えなかった。紺華バリューカードは客層が客層だから、クレームも嫌な態度を取る顧客もほとんどいない。ただどんなに電話が続いても、今話している顧客の話を大事に聞かなければならないし、面倒だとか早く切り上げようなどと考えてはいけない。誠にスクリプトや資料を出してくれてから、真壁も受電に入っている。やはり今日はオペレーターの数が少ない。受電と受電の合間にそんなことを思って、またすぐにスタンバイをする。
「……!」