好きになったのはあなたです。

 浜野は叱責と減給処分を受けたが人材管理部に残れることになった。同僚の視線が痛いし、来年度には異動が待っているかもしれないが、それでもカナセカを辞めずに頑張ると言っているから一安心だ。嶺は同席しなかったが、高野部長と二人でカナミキャリアに出向いて久宝に謝罪したようで、それもよかったと思っている。嶺とはまた仲のいい先輩後輩に戻れそうだ。
 久宝の方も十二月中旬からまたカナセカのクリニックに戻ってきた。自分ではどうしようもない噂は仕方がないから、少しずつ信頼を積み上げていけばいい。そう言って地道に仕事をする彼が好きだと思う。以前低血糖の処置をした戸伏が体調管理のために通うようになったから、そこからクリニック利用者が増えていけばいい。嶺も相変わらず二週に一度、貧血と低血圧の経過観察で通っている。
「先生、聞いてください。俺、この間の血液検査、ヘモグロビンが10.1もあったんです」
「もってなんだよ。男性のヘモグロビンの基準値は13g/dl以上だ」
「そこは褒めてくださいよ」
 金曜、四時を過ぎた診察室では穏やかな診察タイムが繰り広げられる。
「まぁ、努力は認める。胃潰瘍もすっかりよくなったみたいだしな」
「恋神をきっぱり引退したのがよかったのかも」
「だな」
 久宝と恋人同士になったあと、嶺は心を鬼にして、他人の恋愛には口を出さないと宣言した。だいぶ惜しまれたが、元々神でもない人間が神を名乗れば弊害が出ると嫌というほど学んだのだ。これからは自身の体調と幸せを一番に考えていきたい。
「じゃあ、血圧でも測るか」
「……いえ。今日は調子が悪いので血圧は結構です」
「血圧に調子のいい悪いがあるか」
 そんなことを言い合って笑う、カナセカたった一人の総務部員の癒しの時間。
 優秀な久宝はいつかまた大きな病院に戻る日が来るかもしれない。そのときは応援すると決めている。けれどそのときまでは、この緩やかな時間を存分に享受したいと思う。
「怒ると血圧が上がりますよ、先生」 
「お前は低すぎるんだ」
 お約束のやりとりを繰り返して、嶺は掛け替えのない幸せに包まれるのだった。

✽end✽

→あとがき
41/42ページ
スキ