好きになったのはあなたです。

 カナミキャリアは土日がお休みだったから、また一週間きちんと仕事をして、金曜に向かうことにした。グループ会社だから、データを探らなくても会社案内のパンフレットに住所が書いてある。またきっちり定時で上がって、パンフレットの住所を頼りにカナミキャリアに向かった。何時まで仕事をするか分からないが、とりあえず二一時までは待ってみようと、会社の門の傍の植え込みに座って、出てくる社員を見続ける。
 久宝に告白すると決めたからなのか、この一週間身体がふわふわと宙に浮いたような感覚だった。今も座っているのにどこか心許ない感覚で、視覚だけは久宝を見逃すまいと強く保っている。
 待っていますとラインを入れたら、嶺の知らない入り口から逃げられそうな気がした。だから会えるか会えないか分からない状態で待ち続ける。腕時計と正門を交互に見ながら、暗くなっていく空を感じていた。大丈夫。遅くなっても明日は休みだ。そう思っていたが、流石に風が冷たくなってきて、外気に晒された手が動かなくなってくる。なんだか頭もジンジンしてきて、一瞬だけのつもりで目を閉じる。
「おい」
 そこで誰かに呼ばれた気がした。
「何をやっているんだ、こんな寒いところで」
 慣れた声に顔を上げれば、とことん呆れた顔の久宝が嶺を見下ろしている。
「馬鹿か、お前。そんなところで、俺が見逃したらどうするつもりだったんだ」
 相変わらず口が悪い。そう思ったところで彼が何を思ったか嶺の額に触れてくる。ああ、冷たくて気持ちいい。そう思うのと彼の低い声が同時だった。
「お前熱があるな。本気で馬鹿なのか。熱が出るまで一体何をやっているんだ」
 あなたを待っていたんです。そう言いたかったけれど、その前に彼に肩を支えられて歩く羽目になる。
「お前の家に行くぞ。……ったく世話が焼ける。重症の貧血が熱まで出してどうする」
 そう罵られ続けるのを嬉しく感じながら、部屋まで連れ帰られることになった。
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