好きになったのはあなたです。

「浜野くんがなかなか振り向いてくれないから、少しでも恋神の力を得たい。だから触れるんじゃないですか? ロッカーを使っていいと言ったのも、少しでも神と長く一緒にいたいから……っ!」
 そこでソファーの顔に近い部分に久宝の拳が降りた。衝撃で本当に殴られたかのような錯覚に陥ってしまう。
「飲みに行ったときから大体分かっていたが、やっぱり浜野と俺をくっつけようとしていたんだな」
 だってそれが望みではないのか。
「じゃあ、俺がここでお前を抱けば、神の力を存分に得て浜野と上手くいくっていうのか? なぁ、それって随分おかしな話じゃないか?」
 言いながら、彼が嶺のシャツを開きに掛かる。それに抵抗するうちに、無防備になった唇に噛みつくように彼の唇が重ねられる。
「……っ」
 一体何が起きているのか分からなかった。自分が田胡嶺なのかタゴレイなのか恋神なのか、それすら分からなくて、ただ呼吸ができない苦しさを感じている。
「……やめてください!」
 苦しさに耐えられなくなったところで、もう一度彼を押し返した。そのままソファーから離れて、部屋の隅で少しでも彼から距離を取ろうと背中を壁に押しつける。
「こんなことをしなくてもあなたの恋は叶えてあげます!」
 出てきたのがそんな言葉だった。
「……そうかよ」
 どうにもならないものを諦めたというように、久宝が投げやりに返す。そのまま上着を手に玄関に向かってしまう。
 追いかけて仲直りをしなければならないと分かっていた。彼は仕事でも会う人間だからそれが正解だ。けれど動けなかった。動けなくて、そのままずるずると座り込んでしまう。
 それって随分おかしな話じゃないか? 彼のその言葉がずっと耳から離れなかった。
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