好きになったのはあなたです。

 綺麗な顔はそのまま、態度だけ素に戻られても困ってしまう。
「俺はお前を独り占めして、プライベートでも傍にいたい。そういうことだよ」
「傍にいたいって……」
 だいぶ改善されたが、嶺と久宝の最初の関係は最悪だった。館内放送で呼び出されて、こちらも診察室に怒鳴り込んだ。同じゲームをプレイしていたという偶然はあったが、それでも何故いきなり独り占め云々の話になるのか分からない。
「あ……」
 だがそこで一つ思い出した。傍にいたい。自分は確か千木良にも似たようなことを言われなかったか。叶未製薬の常務の娘と結婚したくて、でもライバルが沢山いるから恋神の力が欲しくて、だから嶺といる時間を増やしたかった。他でもない。そう言われて失恋したのだ。それが分かればすとんと納得する。そうだ。さっきの女子社員の行動を見て、久宝も恋神の力を試してみたくなったのだ。それなら恋神になるまでだ。
「先生の気持ちは分かりました。最善を尽くします。一体誰が好きなんですか?」
「……あ?」
 今度は久宝が訳の分からないという顔になる。さっきの綺麗な顔と言葉遣いで通していれば診察に来る社員も増えるだろうに、医者らしからぬ粗野な態度でいるからいけないのだと、そんなことを思ってしまう。
「だからお前を……」
「それは分かりましたって。俺を傍に置いて、誰よりも恋神の力を得たいんでしょう? それほど難易度の高い恋の相手は誰かと聞いているんです」
「……お前、日本語が苦手なのか?」
 余計なことで論点を逸らすのは、相手に余程心奪われているからだろう。そう簡単には名前を口に出せないほど恋に参っている。なんだ、傲慢に見えて可愛いところもあるじゃないかと、なんだか楽しくなってくる。
「日本語は得意ですよ。ついでにアラビア語も少しできます」
「なんでだよ」
 久宝が困り切ったように拳に額を寄せる。彼のそんな仕種は珍しい。恋神に想い人の名を白状することがそんなに難しいだろうかと不思議に思ってしまう。
「……分かった」
 悩むことに長く時間を使うタイプではないらしい彼が、すぐに切り替えた顔を見せる。
「どのみち話が通じたところで今の俺は論外ってことだろう。それなら惚れさせてみせるまでだ」
 今度はいきなり強気になってしまう。
「そのうちそっちから告白し直させてやる。……ってことで手始めにプレゼントでもしてやる。お前、方眼塗り絵で貰えるダイヤって持っているか?」
「いえ。拍手千回なんて気が遠くなるようで」
「それならちょうどいい。ゲームのページを出したままスマホを貸してくれるか?」
 言う通りにすれば、二つのスマホを手早く操作して、嶺の方を返してくれる。
「あ、ダイヤ!」
 マイページに表示されていたものに声が上がる。マイページのアバターの上部にダイヤが表示されている。ただの絵とはいえ、手に入れるのが途轍もなく難しいものをあっさり譲ってくれたのだ。
「こんな貴重なものをいいんですか?」
 子どもみたいにはしゃいで彼に苦笑される。だが自身の恋を語ったあとだからか、その顔が以前よりずっと優しい。
「いいんだよ。俺は十個以上持っているから」
 流石はクボウの言葉だ。まさかクボウにダイヤを貰えるなんて、これを奇跡と言わずしてなんと言う。
「俺、頑張りますから」
「ん?」
「先生の恋が成就するように精一杯努力します」
 嶺が昂れば昂るほど、彼は呆れたような顔を見せるが、それも照れ隠しの一つなのだろう。彼のそんな特徴ももうインプット済みだ。
「絶対に恋人にしてみせますから」
 何故か彼の目が鋭くなる。
「……絶対にだぞ」
 脅すように言われて、ああ、そこまで相手が好きなのかと、逆に微笑ましくなった。
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