本気の恋は占術不能
突っ込んで、そこで漸く気持ちが落ちついた。小憎たらしくても、やはりオコは神崎のガス抜きに欠かせない。職場で理不尽なことがあっても、上手くやれているのはオコで発散しているからだ。オコを家の外に出すことはないから誰に聞かれることもない。「好き」でも「悔しい」でも「自分のものにしたい」でも、好きなだけ本音が言える。
『ヒラッ、ヒラ』
「その歌好きだな」
放っておかれて退屈になって歌らしきものを歌い出す彼が、可愛いと思えてくるのは末期だろうか。
さて、一度お喋りはおしまいにして夕食の準備をしよう。オコを無視してキッチンに向かいかけて、そこで鞄の中に入れたままのスマートフォンが震えているのに気がつく。
「もしもし」
「あ、お兄ちゃん久しぶり」
相手は妹の良子だった。神崎理々花を継いだ彼女は今、叔母の書籍の仕事を引き継いで、空いた時間は占いの館に出ている。叔母は占い師時代一切テレビに出なかったし、書籍に顔写真が出るときや対面の占いのときには、目元しか見えない分厚いヴェールを被るのがポリシーだった。代替わりは彼女の最後の書籍と公式ホームページで発表したが、そんな訳で、今の神崎理々花が二代目だと知らない人間も多いのだ。
「元気か?」
「うん、なんとか」
「ならよかった」
叔母自身は今、海外でアパレルブランドを立ち上げて充実した日々を送っている。占い師だった過去ときっぱりサヨナラをして、神崎理々花の事務所もスタッフも資産も、みな良子のために残していった。神崎には使いやすいものを抜粋した書籍と、彼女が占い師になってからずっと使っていたシャープペンシル。そんな風に兄妹のことを想ってくれる叔母を神崎は慕っている。
「お兄ちゃんは元気?」
「まぁまぁかな」
「……そっか」
「どうかしたか?」
「ううん」
僅かな間が気になって聞いてみるが、無理に明るく振る舞うような返事が返ってくるだけだ。
「恋人でもできたら電話ちょうだい。それで私にも紹介して。じゃあ、またね」
そう言って、さっさと電話を切られてしまった。
「……それなら一生電話できないって」
呟いて、それはともかく近いうちに食事にでも誘ってみようと思う。いい年をしてと言われそうだが、神崎はこの六歳下の妹が可愛いくて仕方ない。母親の身体の事情で兄弟はできないと言われていたところに、奇跡的に産まれてきた妹なのだ。歳が離れていることもあって兄妹喧嘩などないに等しかったし、両親以上に可愛がったと言っても過言ではない。
用もなく掛けてくるときは悩みがあることが多い。思い詰めるところのある子だから、先回りで話を聞いてやりたい。神崎理々花を継ぐことにいい顔をしなかった両親とは、疎遠気味になってしまったから余計に。
「オコ」
『シュウ、失恋。カイドウはフジワラが好き』
「……容赦ないな」
声を掛ければ待ってましたとばかりに酷いことを言うオコに苦笑する。
考えてみれば、この一週間職場の人間以外で話したのはオコと妹だけだ。だがそれで別にいいじゃないかという気もしている。
「オコがいれば退屈しないからな」
呟いて、また返ってくる愛しい悪口を聞きながら、漸くキッチンに向かうのだった。
『ヒラッ、ヒラ』
「その歌好きだな」
放っておかれて退屈になって歌らしきものを歌い出す彼が、可愛いと思えてくるのは末期だろうか。
さて、一度お喋りはおしまいにして夕食の準備をしよう。オコを無視してキッチンに向かいかけて、そこで鞄の中に入れたままのスマートフォンが震えているのに気がつく。
「もしもし」
「あ、お兄ちゃん久しぶり」
相手は妹の良子だった。神崎理々花を継いだ彼女は今、叔母の書籍の仕事を引き継いで、空いた時間は占いの館に出ている。叔母は占い師時代一切テレビに出なかったし、書籍に顔写真が出るときや対面の占いのときには、目元しか見えない分厚いヴェールを被るのがポリシーだった。代替わりは彼女の最後の書籍と公式ホームページで発表したが、そんな訳で、今の神崎理々花が二代目だと知らない人間も多いのだ。
「元気か?」
「うん、なんとか」
「ならよかった」
叔母自身は今、海外でアパレルブランドを立ち上げて充実した日々を送っている。占い師だった過去ときっぱりサヨナラをして、神崎理々花の事務所もスタッフも資産も、みな良子のために残していった。神崎には使いやすいものを抜粋した書籍と、彼女が占い師になってからずっと使っていたシャープペンシル。そんな風に兄妹のことを想ってくれる叔母を神崎は慕っている。
「お兄ちゃんは元気?」
「まぁまぁかな」
「……そっか」
「どうかしたか?」
「ううん」
僅かな間が気になって聞いてみるが、無理に明るく振る舞うような返事が返ってくるだけだ。
「恋人でもできたら電話ちょうだい。それで私にも紹介して。じゃあ、またね」
そう言って、さっさと電話を切られてしまった。
「……それなら一生電話できないって」
呟いて、それはともかく近いうちに食事にでも誘ってみようと思う。いい年をしてと言われそうだが、神崎はこの六歳下の妹が可愛いくて仕方ない。母親の身体の事情で兄弟はできないと言われていたところに、奇跡的に産まれてきた妹なのだ。歳が離れていることもあって兄妹喧嘩などないに等しかったし、両親以上に可愛がったと言っても過言ではない。
用もなく掛けてくるときは悩みがあることが多い。思い詰めるところのある子だから、先回りで話を聞いてやりたい。神崎理々花を継ぐことにいい顔をしなかった両親とは、疎遠気味になってしまったから余計に。
「オコ」
『シュウ、失恋。カイドウはフジワラが好き』
「……容赦ないな」
声を掛ければ待ってましたとばかりに酷いことを言うオコに苦笑する。
考えてみれば、この一週間職場の人間以外で話したのはオコと妹だけだ。だがそれで別にいいじゃないかという気もしている。
「オコがいれば退屈しないからな」
呟いて、また返ってくる愛しい悪口を聞きながら、漸くキッチンに向かうのだった。