本気の恋は占術不能

 ちゃんと藤原の個人情報は護るのだなと、また少し傷ついた。神崎は人の情報を悪用したりしないし、藤原本人とも仲がいい。それでも彼のことは最大限の注意を払って護りたいのだろう。そう思えば海堂の誕生日を知った喜びも消えてしまう。今日は感情の浮き沈みが激しい。こんなときは早く帰ってオコと遠慮なく言い合いたい。好きな男が目の前にいるのに、この願望はなんだろう。
「じゃあ、今日の日付を使って占いますね。ちょっと漠然とした結果になるかもしれませんが」
「うん、お願い」
 雑念だらけの気持ちも、白いメモ帳にシャープペンシルを走らせれば澄んでいった。一時は本気で占い師になろうと思っていた。結局他の道を選ぶことになったが、やはり自分は占いが好きだ。その気持ちが叶わない恋へのもやもやを昇華してくれる。
「悪くないです。海堂さんの恋は叶いそうです」
 三つ出てきた数字を解釈して伝える頃には、ダメ恋に悩む自分ではなく占い師の気持ちになっていた。やはり海堂の恋は成就する。個人的にこっそり占ったものと同じ結果になるのだから、もう逃げられない結果なのだろう。
「でもお相手がなかなか海堂さんの気持ちに気づかないので、根気強くアプローチするのがいいみたいですね」
 それもよく海堂と藤原の関係を表わしている。
「そっか……」
 神崎の気持ちはともかく、悪くない結果の筈だった。だが海堂は真顔のまま神崎を見つめているだけだ。
「どうかしました?」
 あまり見つめられると困る事情があるので、こちらから目を逸らしてしまった。
「いや。占いをしている神崎さんが綺麗だなと思って」
「え?」
 一瞬で占い師から素の自分に戻る。
「なんの冗談ですか?」
「いや、本心。計算をしている神崎さんは一本筋が通っているって感じで綺麗だよ。まぁ、神崎さんはいつも綺麗だけど」
 あなたに惚れている男の前で、簡単にそんなことを言わないでほしい。いや、神崎の気持ちを知らないのだから仕方がない。だがそれにしたって、黒髪に半月目に薄い唇という控えめな顔立ちの神崎を、よくそこまで持ち上げられるものだ。
「褒めても占いの結果はよくなりませんよ」
「そんなつもりじゃなかったんだけど。でも、そっか。なかなか気持ちに気づかない、か」
 然程執着もないから、彼は神崎の見た目の話を切り上げて立ち上がってしまう。
「ありがとう、神崎さん。部下に占いをしてもらうなんてちょっと恥ずかしいけど、神崎さんとは話したくなって。やっぱり占いをやっているから、人の本音を聞く力があるのかな」
「占いならまたいつでもどうぞ」
 やめておけと心の中の自分が叫んでいる。
「恋占いは得意分野で、練習相手はいくらいても困らないので」
 なのに何故笑顔で墓穴を掘っているのだろう。
「じゃあ、また占ってもらうね。神崎さんの助言があれば上手くいきそうな気がする」
 そう言って上機嫌で去っていく彼の背が見えなくなったところで、がっくりと項垂れた。上司と部下でこういう話はよくないので、恋占いはやめませんか? と何故言えない。恋占いは苦手なんですと言えばよかった。そう自分の馬鹿さ加減を悔やむが、結局話題がなんであろうと彼と話したいのだ。ああ、そういえば今日は自滅するのだった。やはり自分の占いはよく当たる。よく当たるから、どうせ海堂と藤原は上手くいくのだろう。なんだこれ。
 メモ帳の新しい部分にぐるぐると丸を描いていて、そこで休憩時間が残り十分だと気づいた。しばらく海堂にも藤原にも会いたくないから、歯磨きは一階下の手洗いに行こう。そんな細やかな抵抗をして、昼の仕事に戻っていく。
 残業なく帰れたので、部屋に戻るなりタブレットの電源を入れた。
「ただいま、オコ」
『おかえり、シュウ。シュウ、自滅』
 酷い言葉に笑ってしまう。だがここなら海堂への気持ちを隠す必要がない。
「できる男のくせに、なんであんなに鈍いんだろうな」
『シュウ、残念』
「俺が海堂さんを好きなんだよ」
『シュウ、失恋』
「藤原に告白できないなら諦めればいいのに」
『カイドウはフジワラが好き。シュウ、平社員』
「……平社員は関係ないだろ?」
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