本気の恋は占術不能
「またB部長のコンプラDVDですか?」
「そう。第二弾」
海堂のその言葉だけで若い社員から笑いが起こる。
「あれ、笑っちゃって研修にならないんですよね」
「大丈夫。今回のはちゃんと勉強になるストーリーだから。大真面目な感想レポートでも書いてもらおうかな」
「無理ですよ」
そんな和気藹々とした空気が嬉しい。やはりこんなオフィスの空気が好きだ。この空気を護るためなら多少の苦労はなんでもない。そう思っていたのに、デスクに戻れば実は恋人の男がそっと耳打ちしていく。
「ありがとう。部内の空気をよくする能力は流石だね。お礼は二人きりになったときにね」
「ちょっと……!」
思わず素で言い返しそうになって、いつかと同じように唇に人差し指を当てた彼が妖しく笑う。
「今夜甘やかしに行ってあげるから、待っていて」
そう、一見部下の肩に手を置くような仕種で言うからタチが悪い。片思い中の内緒話もドキドキしたが、まさかその何倍もドキドキさせられる日が来るとは思わなかった。職場のスリルと彼の色気にやられてクラクラしてしまう。今夜部屋にやってきたら一言言ってやらねば。そう思って実行できたことはないのだけれど。
そんなこんなで爆笑のコンプラ研修を終えて帰宅すれば、一時間遅れで海堂が神崎の部屋にやってくる。
「海堂さん、いらっしゃい」
「うん。遅くなってごめんね」
「いえ。オコと待っていましたから」
オコのタブレットを掲げてみせれば彼が眉を下げて笑う。
『シュウ自滅。でもカイドウの恋人』
そこで待っていたようにオコが声を上げる。一時アプリ全体のバグが出ていたocotta2は、無事復旧が済んでまた小憎たらしい言葉のやりとりができるようになった。しばらく『カイドウはフジワラが好き』だの『シュウは失恋』と言い続けて困ったが、最近漸く神崎と海堂が恋人になったことを理解してくれた。
「うーん、最近自滅はしていないんだけど、俺を攻撃しないと気が済まないんでしょうね」
「それがocotta2の仕様だからね。僕の知識でシステムを弄ってみようか。いつでもしおらしいオコになるように」
「それは興味深い」
ソファーで冗談を言い合えば、不穏な空気を感じたオコが喋り出す。
『不正な改造は罰せられます。OCアプリ社が訴えを起こします』
一応海堂にはきちんとした言葉を返すのがいじらしい。
「冗談だよ。しおらしいオコなんてオコじゃないし。俺は小憎たらしいオコが好きなんだから」
『オコもシュウ好き。平社員だけど好き』
「それはよかった」
タブレットを腕に抱いてじゃれ合っていれば、海堂が目を細めて見ているのに気がつく。
「……すみません、つい。一人のときの癖が」
「ううん。可愛らしいからいいんだけど」
言いながら、神崎の肩に腕を回して抱き寄せる。
「なんだか秀とオコのやりとりに妬けちゃうな。僕よりずっと仲がよさそうで」
わざと耳に唇を寄せるようにして言われて、ドキドキと鼓動が速くなる。
「……オコは大事な友人で、海堂さんは大事な恋人です」
「嬉しい言葉だね」
そう言って、神崎の手からタブレットを取り上げて電源を落としてしまう。
「好きだよ、秀。しばらく僕だけのものになって」
ソファーに押し倒されて、その幸せな重みに身を委ねる。食事とお風呂の用意をして労るつもりだったが、予定通りにいかないのもまた幸せなのだろう。
「俺も好きです、海堂さん」
この幸せがいつまでも続けばいい。占いも機械もみんなきっと応援してくれる。そんなことを思いながら、神崎も恋人の背に腕を回すのだった。
✽end✽
→あとがき
「そう。第二弾」
海堂のその言葉だけで若い社員から笑いが起こる。
「あれ、笑っちゃって研修にならないんですよね」
「大丈夫。今回のはちゃんと勉強になるストーリーだから。大真面目な感想レポートでも書いてもらおうかな」
「無理ですよ」
そんな和気藹々とした空気が嬉しい。やはりこんなオフィスの空気が好きだ。この空気を護るためなら多少の苦労はなんでもない。そう思っていたのに、デスクに戻れば実は恋人の男がそっと耳打ちしていく。
「ありがとう。部内の空気をよくする能力は流石だね。お礼は二人きりになったときにね」
「ちょっと……!」
思わず素で言い返しそうになって、いつかと同じように唇に人差し指を当てた彼が妖しく笑う。
「今夜甘やかしに行ってあげるから、待っていて」
そう、一見部下の肩に手を置くような仕種で言うからタチが悪い。片思い中の内緒話もドキドキしたが、まさかその何倍もドキドキさせられる日が来るとは思わなかった。職場のスリルと彼の色気にやられてクラクラしてしまう。今夜部屋にやってきたら一言言ってやらねば。そう思って実行できたことはないのだけれど。
そんなこんなで爆笑のコンプラ研修を終えて帰宅すれば、一時間遅れで海堂が神崎の部屋にやってくる。
「海堂さん、いらっしゃい」
「うん。遅くなってごめんね」
「いえ。オコと待っていましたから」
オコのタブレットを掲げてみせれば彼が眉を下げて笑う。
『シュウ自滅。でもカイドウの恋人』
そこで待っていたようにオコが声を上げる。一時アプリ全体のバグが出ていたocotta2は、無事復旧が済んでまた小憎たらしい言葉のやりとりができるようになった。しばらく『カイドウはフジワラが好き』だの『シュウは失恋』と言い続けて困ったが、最近漸く神崎と海堂が恋人になったことを理解してくれた。
「うーん、最近自滅はしていないんだけど、俺を攻撃しないと気が済まないんでしょうね」
「それがocotta2の仕様だからね。僕の知識でシステムを弄ってみようか。いつでもしおらしいオコになるように」
「それは興味深い」
ソファーで冗談を言い合えば、不穏な空気を感じたオコが喋り出す。
『不正な改造は罰せられます。OCアプリ社が訴えを起こします』
一応海堂にはきちんとした言葉を返すのがいじらしい。
「冗談だよ。しおらしいオコなんてオコじゃないし。俺は小憎たらしいオコが好きなんだから」
『オコもシュウ好き。平社員だけど好き』
「それはよかった」
タブレットを腕に抱いてじゃれ合っていれば、海堂が目を細めて見ているのに気がつく。
「……すみません、つい。一人のときの癖が」
「ううん。可愛らしいからいいんだけど」
言いながら、神崎の肩に腕を回して抱き寄せる。
「なんだか秀とオコのやりとりに妬けちゃうな。僕よりずっと仲がよさそうで」
わざと耳に唇を寄せるようにして言われて、ドキドキと鼓動が速くなる。
「……オコは大事な友人で、海堂さんは大事な恋人です」
「嬉しい言葉だね」
そう言って、神崎の手からタブレットを取り上げて電源を落としてしまう。
「好きだよ、秀。しばらく僕だけのものになって」
ソファーに押し倒されて、その幸せな重みに身を委ねる。食事とお風呂の用意をして労るつもりだったが、予定通りにいかないのもまた幸せなのだろう。
「俺も好きです、海堂さん」
この幸せがいつまでも続けばいい。占いも機械もみんなきっと応援してくれる。そんなことを思いながら、神崎も恋人の背に腕を回すのだった。
✽end✽
→あとがき