本気の恋は占術不能
正直、驕りがあった。自分の占いは当たると過信して、一番大事な自身の恋占いで盛大な解釈ミスをしていた。何が三代目神崎理々花だ。心のどこかで良子より実力があると思っていた自分を猛省した。考えてみれば、悩みながらも毎日プロとして活動している彼女に敵う筈はない。
その本人は、アメリカから戻ってきたときには、叔母にどう言われたのかすっかり自信を取り戻していた。もっと修業をすると言って、以前より積極的に対面の占いにも出るようになって、兄としては一安心だ。養っていけばいいと、それも彼女にとって失礼な話だった。困ったときには助けるが、やはり彼女の人生、自分の足で立って生きていく方がいいに決まっている。
神崎も占いをやめることはない。だがこれからは大切な趣味として向き合おうと、自分も漸く方向性を決めることができた。趣味にしてもまだまだ修業は必要だ。合同研修会の晩、ボロボロのメンタルに引かれて計算すらできなくなった。あんなことでは初代神崎理々花の弟子として恥ずかしい。どんなときにも平常心でいられるように、人間としてももっと成長していきたい。
という訳で神崎は相変わらず本社総務部で頑張っている。次のアンケートでは支店勤務希望と書いてみよう。仕事でもそんな風に思えるようになった。貴山金属にいると決めた以上、色々な経験をして海堂のような男になりたい。彼の気持ちも藤原の気持ちも聞いたから、もう二人の関係を誤解して苦しむようなことはない。例え神崎だけ本社を出ることになっても、職場が離れたくらいで悩むような関係ではないと自信を持てるようになりたい。まぁ、少なくともあと数ヵ月は総務部で働くことになるのだけれど。
「得意先から貰ったお土産です。どうぞ」
午後になって執務室に戻った藤原が自らの手で頂き物を配って回る。そんな姿を見るたびに、彼もまた苦手分野で努力しているのだと思う。
「あ、嬉しい。△△商事はいつもセンスのいいお菓子をくれるんだよな」
社員たちのデスクを回るのはまだぎこちないから、雑談のフリで彼について回れば、気遣いに気づいた彼が小さく「ありがと」と笑ってくれる。
「俺これ好物だから二個貰っていい?」
「ダメに決まっているだろ? 寧ろ少し足りないかもしれないから、リーダーに我慢してもらおうと思っていたんだから」
「何それ。ねぇ、土田さん酷くない?」
傍の席の土田に話を振れば、彼女がふふと笑う。
「まぁまぁ、神崎さん。今日は朝から藤原さんが挨拶回りに行ってくれたんですから、お菓子は譲りましょうよ」
神崎の意図に気づいて藤原の味方をしてくれる土田は、流石オフィスワークのエキスパートだ。
「残念。土田さんもイケメンの味方か」
「あらあら、神崎さんも充分イケメンですよ」
「取って付けたみたいで嬉しくないな」
そんなことを言い合いながら部署全員のデスクを回る。以前はこんなときお菓子を箱ごと入口に置いておくだけだった藤原の、人間関係改善の努力だ。主任を譲りたいとか異動したいと言われるより余程嬉しいから、彼に望まれるうちは協力しようと思っている。
「端川さんもどうぞ」
「ありがとうございます。外回りお疲れさまです」
今度もまた海堂が上手く動いてくれたお陰で、藤原と端川の関係も改善されつつある。酷い言い争いをしても長く引き摺らないのが社会人だ。藤原は前よりお礼や謝罪を口にするようになったし、部下の不満も自分から聞きにいくようになった。そんな彼の変化を端川も少しずつ認めているのだろう。
最近の藤原は派遣メンバーとランチに行くこともあるようだし、土田とは病院通いの愚痴を言い合う仲になったという。以前より体質改善に力を入れるようにもなって、薬膳料理の店で神崎の分まで弁当を買ってきてくれたりする。その弁当が驚くほどおいしくて、今度作り方を覚えて海堂が部屋に来たときにご馳走しようと思っている。そんな感じで平和な日常が戻ってきた。
「はい、みんな、二時から予定通りDVD研修だから、予定表通り会議室に集まってくださいね」
その本人は、アメリカから戻ってきたときには、叔母にどう言われたのかすっかり自信を取り戻していた。もっと修業をすると言って、以前より積極的に対面の占いにも出るようになって、兄としては一安心だ。養っていけばいいと、それも彼女にとって失礼な話だった。困ったときには助けるが、やはり彼女の人生、自分の足で立って生きていく方がいいに決まっている。
神崎も占いをやめることはない。だがこれからは大切な趣味として向き合おうと、自分も漸く方向性を決めることができた。趣味にしてもまだまだ修業は必要だ。合同研修会の晩、ボロボロのメンタルに引かれて計算すらできなくなった。あんなことでは初代神崎理々花の弟子として恥ずかしい。どんなときにも平常心でいられるように、人間としてももっと成長していきたい。
という訳で神崎は相変わらず本社総務部で頑張っている。次のアンケートでは支店勤務希望と書いてみよう。仕事でもそんな風に思えるようになった。貴山金属にいると決めた以上、色々な経験をして海堂のような男になりたい。彼の気持ちも藤原の気持ちも聞いたから、もう二人の関係を誤解して苦しむようなことはない。例え神崎だけ本社を出ることになっても、職場が離れたくらいで悩むような関係ではないと自信を持てるようになりたい。まぁ、少なくともあと数ヵ月は総務部で働くことになるのだけれど。
「得意先から貰ったお土産です。どうぞ」
午後になって執務室に戻った藤原が自らの手で頂き物を配って回る。そんな姿を見るたびに、彼もまた苦手分野で努力しているのだと思う。
「あ、嬉しい。△△商事はいつもセンスのいいお菓子をくれるんだよな」
社員たちのデスクを回るのはまだぎこちないから、雑談のフリで彼について回れば、気遣いに気づいた彼が小さく「ありがと」と笑ってくれる。
「俺これ好物だから二個貰っていい?」
「ダメに決まっているだろ? 寧ろ少し足りないかもしれないから、リーダーに我慢してもらおうと思っていたんだから」
「何それ。ねぇ、土田さん酷くない?」
傍の席の土田に話を振れば、彼女がふふと笑う。
「まぁまぁ、神崎さん。今日は朝から藤原さんが挨拶回りに行ってくれたんですから、お菓子は譲りましょうよ」
神崎の意図に気づいて藤原の味方をしてくれる土田は、流石オフィスワークのエキスパートだ。
「残念。土田さんもイケメンの味方か」
「あらあら、神崎さんも充分イケメンですよ」
「取って付けたみたいで嬉しくないな」
そんなことを言い合いながら部署全員のデスクを回る。以前はこんなときお菓子を箱ごと入口に置いておくだけだった藤原の、人間関係改善の努力だ。主任を譲りたいとか異動したいと言われるより余程嬉しいから、彼に望まれるうちは協力しようと思っている。
「端川さんもどうぞ」
「ありがとうございます。外回りお疲れさまです」
今度もまた海堂が上手く動いてくれたお陰で、藤原と端川の関係も改善されつつある。酷い言い争いをしても長く引き摺らないのが社会人だ。藤原は前よりお礼や謝罪を口にするようになったし、部下の不満も自分から聞きにいくようになった。そんな彼の変化を端川も少しずつ認めているのだろう。
最近の藤原は派遣メンバーとランチに行くこともあるようだし、土田とは病院通いの愚痴を言い合う仲になったという。以前より体質改善に力を入れるようにもなって、薬膳料理の店で神崎の分まで弁当を買ってきてくれたりする。その弁当が驚くほどおいしくて、今度作り方を覚えて海堂が部屋に来たときにご馳走しようと思っている。そんな感じで平和な日常が戻ってきた。
「はい、みんな、二時から予定通りDVD研修だから、予定表通り会議室に集まってくださいね」