本気の恋は占術不能

 占いができることは特に隠していないので、占ってほしいと言われれば占っていた。もちろん二代目神崎理々花の兄だということは秘密で、ただの占いオタクということになっている。
「なるほど……」
 数字を見た瞬間、この占いにはどの計算式が相応しいかが降りてくる。計算式が決まればあとは解いていくだけだ。同じ数字にもいくつか異なる解釈があるが、答えが出た瞬間にピンとくるものがある。その閃きが占う人間の個性なのだ。
「うん。いいと思う。お互いを成長させられるカップルだって」
「ほんとですか?」
 神崎の解釈を答えてやれば、岩瀬が胸の前で手を叩いて喜んだ。
「ふふ。よかったわね。じゃあ、私はロッカーに行くから先に行っているね」
「あ、私も行きます」
 土田と上機嫌の岩瀬が去っていって、神崎も弁当箱を片付ける。まだ時間はあるから、自分のことでも占ってみるかとメモ帳の新しいページを捲って、そこで上から声が降りてきた。
「お疲れ。それ、なんの計算?」
「あ、えっと、海堂さん。お疲れさまです」
 不意討ちの登場に、咄嗟に『彼を上司としか見ていない部下』の演技ができなかった。
「ここ、いい?」
「もちろん。海堂さんが嫌でなければ」
 ああ、何を言っているのだ。彼は神崎の気持ちに気づいていないのだから、嫌と言う訳ないじゃないか。心でパニックに陥っているうちに、彼が椅子を引いて向かい側に座ってしまう。
「これ、この間のお礼」
 綺麗に包装された煎餅を差し出されて、引いたパニックの代わりに瞬いた。よく分からないが、海堂がこんな可愛らしいものを買ってきてくれたのかと思えば心が躍る。
「この間ってなんでしたっけ?」
「残業を引き受けて、藤原さんを帰らせてくれたでしょう? 彼、実はあまり体調がよくなかったみたいで助かった」
 踊った心はすぐにぺしゃんこになった。海堂が藤原のことで礼を言う。それが神崎を傷つけるなんて想像もできないのだろう。潰れてヒラヒラになった自分が空に飛んでいく様を想像すれば、そこにオコのヒラ、ヒラッという声が重なる。
「で、その計算だけど」
 海堂の声に軽い現実逃避から我に返った。
「ああ。これは占いなんです」
 煎餅に罪はないからありがたくいただいて、計算が書かれたメモ帳を見せてみる。
「数字を計算式に当て嵌めて、出てきた数字で占うんです。……素人の趣味なんですけど」
「へぇ、凄いね。だから派遣さんが盛り上がっていた訳か」
 そう言ってメモ帳を手にする彼の顔が綺麗で困ってしまう。今日もきっちり上げられた前髪の下に、切れ長の奥二重。奥二重がこんなに色気のあるものだと知らなかった。とにかく背凭れに背中を押しつけるようにして、彼から目一杯距離を取る。そうしないと色々バレてしまいそうだ。
「僕のことも占ってもらっていい?」
「……いいですけど、素人だから当たるかどうか分からないですよ」
 本音は嫌な予感がしたから占いたくなかった。
「占いなんて、プロがやっても当たるかどうか分からないものでしょう?」
 ごもっともなことを言われて逃げ場をなくす。仕事ができて部下の気持ちにも敏い彼は、わざとかと思うほど神崎の気持ちにだけ鈍感だ。
「何を占ってほしいですか?」
「僕の恋が成就するか」
 嫌な予感は当たる。
「部下に対してよくそんなことが言えますね」
「神崎さんにだけだよ。派遣さんが神崎さんと楽しそうにしているのを見たら羨ましくなっちゃって」
 そんなことを言っても好きなのは藤原だろうと思うが、こうなれば占い師に徹するまでだ。
「では海堂さんと相手の生年月日から」
 これまで彼の生年月日を調べるような真似はしてこなかった。知れば占いたくなってしまう。そしてよく当たる自分の占いに傷つくのが目に見えている。それでも教えてくれるというなら話は別だ。また一つ彼の情報をゲットする。
「お相手の生年月日は?」
 ほぼ確定でも藤原が好きとはっきり聞いた訳ではないので、そんな聞き方をした。
「それはやめておこうかな。相手の生年月日が分からないと占えない?」
「いえ。精度は下がりますけど」
6/64ページ
スキ