本気の恋は占術不能

 言われて息を吸い込む。自分は藤原みたいに綺麗じゃないし主任でもない。占いが好きで、家でオコとばかり話しているような男だ。海堂に相応しくないかもしれない。けれど海堂が傍にいてくれたら誰より喜べる。プリンの瓶を洗って宝物にできるし、彼から貰った御守りを生涯大事にする自信だってある。海堂を好きな気持ちなら誰にも負けない。
「俺も海堂さんが好きです。ずっと」
 漸く言えた。途端に抱き寄せられて、神崎もおずおずと彼の背に腕を回す。その様子にふっと笑って、彼が強く抱きしめ直してくれる。
「漸く言ってくれた。神崎さんの視線はいつも僕を追っていたから、勝算がない訳じゃなかったんだけどね」
「……そんなに分かりやすかったですか」
「うん。でも僕もさっさと告白してしまえばよかった。神崎さんの方から素直になってほしく意地になっていたんだよね」
 耳に息が掛かる距離で彼が白状してくれる。
「総務部に来てすぐの頃から、よく働く子だなって思っていた。派遣さんと仲よく話すのを見て、僕もあんな風に話してみたいと思うようになった」
「そんなに前から」
「多分、好きになったのは僕が先」
 それなら自分はなんてもったいない時間を過ごしていたのだろう。諦めようと思ってきた時間を惜しむように長く彼の体温を感じている。だがずっとそうしていたいと思う気持ちに反して、海堂が身体を離してしまう。
「あ、えっと、すみません。いきなり馴れ馴れしく」
 しつこくくっついているのが煩わしくなったのだろうかと、慌てて詫びた。彼も好きだと言ってくれたが、片思いの思考癖はなかなか消えてくれない。
「そうじゃなくてね」
 もうそんな態度にも慣れたというように、彼が神崎にも分かるように話してくれる。
「これ以上触れていたら、計画が崩れそうだから」
「計画?」
「そう告白してOKが出たら、そこからゆっくり関係を進めていこうと思った。でもそんな紳士なことを言っていられなくなりそうだから」
 流石にそこまで言われれば理解する。神崎もいい大人だし経験がない訳じゃない。だが相手が海堂となると話は別だ。だいぶ久しぶりだから上手くできるだろうか。せっかく気持ちが通じたのに、肌を晒して嫌われてしまわないだろうか。また臆病な自分が顔を出す。
「今日はやめておいた方がいい? 神崎さんが嫌なら無理強いはしない」
 逃げ場のある言い方をされて、逆に気持ちが落ち着いた。ずっと好きだった男だ。何を躊躇うことがある。
「いえ……」
「今日がダメでも、それで嫌いになったりはしないよ?」
 神崎の弱い心を読むような言葉に、ああ、好きだなと思った。そんな彼に応えてみたい。
「……俺も海堂さんと一緒にいたい」
「そう。じゃあ、こっちに来て」
 手を引かれて向かった先は想像通り寝室で、セミダブルのベッドが鎮座していた。
「ノーマルすぎてがっかりされてしまうかもしれないけど」
 取りようによっては生々しいことを言いながら、ベッドの端に並んで座って抱きしめられる。
「しばらくこうしていようか」
 神崎が落ち着くまで抱きしめて、時々額や頬にキスをくれる。その様子がどこまでも大人でドキドキした。こんな素敵な人が手に入るなんて信じられない。でも神崎でいいと言ってくれるなら手放したくない。想いが募ってぎゅっと衣服を掴んでしまえば、そこでベッドに押し倒される。
「ダメなら言って。神崎さんが嫌なことはしないから」
 言いながら首元に唇が降りてきて、それだけで体温が上がる気がした。角度を変えて何度も押し当てられれば、身体の奥からずっと忘れていた感覚が湧き上がる。
「あ……」
 シャツのボタンを外されて、肌を晒す怖さに身構える。
「嫌?」
「えと、恥ずかしくて」
「大丈夫。神崎さんは綺麗だから」
 宥めるように言われてあっけなく降参した。シャツの前を開けられて肌を撫でられれば、その堪らない感覚に悶えてしまう。
「あ……」
「感度がいいね」
「そんなこと……っ」
 どこまでも器用な指が的確に神崎の身体を煽った。せめて大人しくしていたいと思うのに、言うことを聞かない身体が勝手に乱れていく。
「色っぽい」
「言わないでください」
「ふふ。そうだ。忘れていた」
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