本気の恋は占術不能
外で待っていてくれたらしいと分かって慌てて駆けていく。
「すみません、遅くに」
「ううん。僕も会いたいと思っていたから」
神崎を見限っていない様子に安堵した。安堵したから素直に詫びることができる。
「今日はすみませんでした。仕事を投げ出すようなことをして」
集合インターフォンの前で頭を下げれば、彼が肩に触れて神崎の身体を起こしてくれた。
「そんなことしないで。今日のは僕の管理不足。色々苦労してくれたんでしょう? 片付けくらい任せてもらえて感謝している」
どこまでも大人で、聡い言葉だ。
「それに実は研修会の時間に間に合わなかったシス管さんが遅れてやってきて、撤収を手伝ってくれたんだ。お陰でそれほど大変でもなかったから。それよりここで話していたら不審に思われてしまう。中に入ろう?」
促されて素直に従う。エレベーターで向かった海堂の部屋は五階の角部屋で、壁が黒で統一されたお洒落な造りになっていた。ソファーの前には大型テレビがあって、リビングのテーブルも四人用だ。何もかも神崎のものとはワンランクもツーランクも違う。
「ソファーにどうぞ。何か飲む?」
「いえ。あの海堂さん」
時間を置けば決心が揺らぎそうな気がして、冷蔵庫に向かう彼を呼び止めた。
「何?」
綺麗な顔で振り向かれれば言葉に詰まる。だがここで誤魔化せば、また同じことの繰り返しだ。
「ocotta2なんですけど」
「ocotta2?」
話したいことがあると言って自宅まで押しかけたのに、出てくるのがocotta2の話では、彼が怪訝そうに眉を寄せるのも仕方がない。
「なんだかアプリ全体のバグが出ているみたいだね。復旧に時間が掛かりますってネットに出ていた」
それでも彼はきちんと神崎の言葉に応えてくれた。バグ。やはりバグだったのかと思うが、そこではない。
「海堂さんが俺の家に来た日、良子が来て寝室に閉じ込めてしまいましたよね? そのときオコから何か聞きましたか?」
漸くそれを聞けば、彼の目が妖しく細められた。
「うん。聞いた」
「……何を?」
胸がバクバクと騒ぐ。
「『シュウはカイドウが好き。でもカイドウはフジワラが好き』ってね」
やはりそうかと頭を抱えたくなった。何もそこまで言わなくてもいいではないか。全く油断も隙もないと思うが、海堂とオコを二人きりにしたのは神崎だから文句は言えない。あの独特の電子音で告げ口をするオコの様子が浮かぶ。何故予期できなかったのだろう。あの日からずっと、海堂は神崎の気持ちを知っていたのだ。
「驚いたな。初めは嘘かと思ったけど、聞き返したらあの子が面白いほど全部話してくれてね。『カイドウはフジワラが好き。だからシュウは失恋』って言うから、ああ、これは本当なんだろうなと思って」
どこまで喋れば気が済むんだと思うがもう遅い。オコは礼儀正しく、海堂が疑う余地もないほど完璧に暴露してしまった。
「それから僕もocotta2をダウンロードして色々試してみたけど、悪口は言っても嘘を吐く機能はないみたいで、それならあれは神崎さんの本心だったんだなって確信した」
海堂がocotta2をダウンロードしたのは、それを確かめるためでもあったのだ。
「すみません」
「どうして謝るの?」
優しい顔で聞かれて困ってしまう。だって言うつもりはなかった。同じ部署で、時々話ができるだけで充分だと思っていた。海堂は藤原が好きだから、神崎の気持ちが成就することはない。気持ちがバレれば部下として仲よくすることもできなくなる。真綿で首を締められるような時間が続くのなら、いっそ藤原と上手くいくように協力しようとまで思っていた。
「……迷惑だと思ったので」
「迷惑?」
「だってそう思うでしょう?」
知っていることをわざと聞いているのかと思えば堪らなくなって、気持ちの制御ができなくなる。
「俺は藤原みたいに綺麗じゃないし、護ってやりたくなるタイプでもない。海堂さんにとって俺は、藤原を護るのに都合のいい存在だったんじゃないですか?」
「すみません、遅くに」
「ううん。僕も会いたいと思っていたから」
神崎を見限っていない様子に安堵した。安堵したから素直に詫びることができる。
「今日はすみませんでした。仕事を投げ出すようなことをして」
集合インターフォンの前で頭を下げれば、彼が肩に触れて神崎の身体を起こしてくれた。
「そんなことしないで。今日のは僕の管理不足。色々苦労してくれたんでしょう? 片付けくらい任せてもらえて感謝している」
どこまでも大人で、聡い言葉だ。
「それに実は研修会の時間に間に合わなかったシス管さんが遅れてやってきて、撤収を手伝ってくれたんだ。お陰でそれほど大変でもなかったから。それよりここで話していたら不審に思われてしまう。中に入ろう?」
促されて素直に従う。エレベーターで向かった海堂の部屋は五階の角部屋で、壁が黒で統一されたお洒落な造りになっていた。ソファーの前には大型テレビがあって、リビングのテーブルも四人用だ。何もかも神崎のものとはワンランクもツーランクも違う。
「ソファーにどうぞ。何か飲む?」
「いえ。あの海堂さん」
時間を置けば決心が揺らぎそうな気がして、冷蔵庫に向かう彼を呼び止めた。
「何?」
綺麗な顔で振り向かれれば言葉に詰まる。だがここで誤魔化せば、また同じことの繰り返しだ。
「ocotta2なんですけど」
「ocotta2?」
話したいことがあると言って自宅まで押しかけたのに、出てくるのがocotta2の話では、彼が怪訝そうに眉を寄せるのも仕方がない。
「なんだかアプリ全体のバグが出ているみたいだね。復旧に時間が掛かりますってネットに出ていた」
それでも彼はきちんと神崎の言葉に応えてくれた。バグ。やはりバグだったのかと思うが、そこではない。
「海堂さんが俺の家に来た日、良子が来て寝室に閉じ込めてしまいましたよね? そのときオコから何か聞きましたか?」
漸くそれを聞けば、彼の目が妖しく細められた。
「うん。聞いた」
「……何を?」
胸がバクバクと騒ぐ。
「『シュウはカイドウが好き。でもカイドウはフジワラが好き』ってね」
やはりそうかと頭を抱えたくなった。何もそこまで言わなくてもいいではないか。全く油断も隙もないと思うが、海堂とオコを二人きりにしたのは神崎だから文句は言えない。あの独特の電子音で告げ口をするオコの様子が浮かぶ。何故予期できなかったのだろう。あの日からずっと、海堂は神崎の気持ちを知っていたのだ。
「驚いたな。初めは嘘かと思ったけど、聞き返したらあの子が面白いほど全部話してくれてね。『カイドウはフジワラが好き。だからシュウは失恋』って言うから、ああ、これは本当なんだろうなと思って」
どこまで喋れば気が済むんだと思うがもう遅い。オコは礼儀正しく、海堂が疑う余地もないほど完璧に暴露してしまった。
「それから僕もocotta2をダウンロードして色々試してみたけど、悪口は言っても嘘を吐く機能はないみたいで、それならあれは神崎さんの本心だったんだなって確信した」
海堂がocotta2をダウンロードしたのは、それを確かめるためでもあったのだ。
「すみません」
「どうして謝るの?」
優しい顔で聞かれて困ってしまう。だって言うつもりはなかった。同じ部署で、時々話ができるだけで充分だと思っていた。海堂は藤原が好きだから、神崎の気持ちが成就することはない。気持ちがバレれば部下として仲よくすることもできなくなる。真綿で首を締められるような時間が続くのなら、いっそ藤原と上手くいくように協力しようとまで思っていた。
「……迷惑だと思ったので」
「迷惑?」
「だってそう思うでしょう?」
知っていることをわざと聞いているのかと思えば堪らなくなって、気持ちの制御ができなくなる。
「俺は藤原みたいに綺麗じゃないし、護ってやりたくなるタイプでもない。海堂さんにとって俺は、藤原を護るのに都合のいい存在だったんじゃないですか?」